「覚えるのが苦手です」という人へのアドバイス

今回の内容は,心理学的な裏づけがあるものではなく,私自身の体験に基づくものであることをあらかじめお断りしておきます。

先日,子どもが「覚えるのが苦手だ」という話をしていました。私自身は受験勉強まで,なんでもとにかく覚えることで乗り切ってしまった方で,今考えればそれは良くなかっなと反省しています。ですから,覚えるのが苦手なのは,それはそれで悪いわけでもないように思うのです。

でも話を聞くと,覚えるためにあれこれと工夫をしているようにも思えなかったので,そういう話を少しだけしました。苦手なことは何かで工夫しようとすることが大切だと思います。その工夫がうまくいくとは限りませんが,そういうことを考えるのも面白いことだと思うのです......同意してもらえるかどうかはわかりませんが......。

どうでもいいこと

覚えるために何をしてる?と聞いたところ,ふつうにノートに書いて覚えるということでした。

基本的に無意味なことを覚えるのは,ただ苦痛ばかりですよね。「覚えなければ」と思っても,記憶のシステムは思った通りに言うことを聞いてくれません。なんて厄介なシステムなのでしょうか。

そこで覚えるためのコツのひとつは,何かどうでもいい,余分なことに結びつけてみることではないかと思います。

たとえば,普通に覚えるのではなく,ちょっと変わったことをしてみるとか。覚える内容をマジックで新聞紙に大きく書きなぐってみてはどうでしょう。習字のように止めやハネにも注意しながら,キレイに書いてみるとか。「そんなことどうでもいいのでは」と思いますか?これは「どうでもいいことをやる」ことが目的なのですからそれでいいのです。そういうどうでもいいことが,行動を継続させるのです。

また,座っているのではなく歩きながら覚えてみるのはどうでしょう。ボールを1球投げるたびに覚える言葉をひとつ言ってみるのもいいかもしれません。私は中学生の時,野球部でしたので,試験期間になると新聞紙を丸めてテープで止めてボールを作り,部屋の中で壁に向かって思いっきり投げながら覚えていたのを思い出しました(壁が傷むので投げる場所は考えましょう)。あるいは,近くの公園に行って,芝生の上に寝転びながら英単語を覚えたっていいのではないでしょうか。こういうことも気分転換になります。

引き金を作る

他にも,物事が何かの体験に結びつくと,その体験が引き金になって思い出すかもしれません。あの音楽を聴くとこのことが思い出されるとか,あの場所に行くとこのことが思い起こされるとか,あの人に会うとこのことを思い出すんだよね,といったことはよく起こります。

そういう,記憶についてよく起こることを利用してやろうと考えてみると良いのかもしれません。

ですから,勉強しながらそれを思い出す引き金,きっかけを同時に仕込む感覚で,状況を工夫してみるのばどうでしようか。

意味のあること

さらに良いのは,新しい知識を自分がすでに持っている意味に結びつけることです。自分が知っている知識の体系に新しいことがらが結びつけば,周辺のことはすでによく知っていることなのですから,そこから芋づる式に思い出しやすくなります。

知識がネットワークでつながっているというイメージでも良いでしょう。あるネットワークに注目すると,そこから「これがこういうことなら,あれもこういうことでしょう」と意味がつながっていくというわけです。

すでに持っていることに新しい知識が追加されるというのは,「ああそういうことだったのか」という「知識を得ることの喜び」にも通じることではないかと思います。そういう体験は,大学に入ってからも社会人になってからも大切なことだと思います。

分散する

これは以前から言われていることですが,テストの直前に一気に勉強をしたり,一夜漬けで勉強するのは効果的ではありません。

一度覚えると,覚えた内容は時間とともに少しずつ忘れていきます。そこで,完全に忘れ切る前に復習するような計画を立てるのが一番良いと思います。

実際,心理学でも分散学習が効果的だということは研究されているのですが,私自身はそれを知る前に,試験勉強期間には同じ教科を翌日に勉強しないように予定を立てていました。試験の前日はその科目を勉強しなければいけません。ですから試験2日前は2日目のテストの科目,試験3日前に初日のテストの科目を勉強するというわけです。それ以前は,苦手な科目を多目に計画していました。

教える

ある程度覚えたことがあるときには,それを他の人に伝えるというのも,記憶に整理に役立ちそうです。頭のなかであれこれと考えているだけの状態よりも,口に出して説明する時には,その内容を論理立てて整理しなければなりません。

自分自身,授業で話をすると,その内容をよく覚えている傾向があります。うろ覚えの内容も,口に出して教えようとすると,わかるように体系的に整理しなければなりませんので,ポイントとなる単語だけではなく色々な知識がその周りにくっついて理解が深まります。

家の中に,覚えたことを聞いてくれる相手がいれば良いのですが,家族の中ではなかなか難しいかもしれませんね。一緒に勉強する友達がいれば,お互いに教え合うというのは良い勉強法のように思います。

文章を書く

もう一つ,知識としてうまく定着させる方法は,文章にしてしまうことです。

いや,教科書の内容をそのまま文章にしても面白くないと思うのです。どうせなら,思いっきり遊んでしまいましょう。歴史的な人物を主人公にした,歴史的な場面を使った短いラブストーリーを想像して書いてみるとか。もちろんフィクションですが,そこに出てくるものは確実に覚えることができるはずです。

そんな時間はない!

「そんなことをしている暇なんかない」と思いますか?まず,本当にそうかどうかを考えてみてください。スマホやゲームの画面を見ている時間は?テレビを見ている時間は?お風呂に入っている間も考えることはできるかもしれません。通学時間はどうでしょうか。

普段の生活には,楽しいことがたくさんあります。勉強が苦痛なのであれば,楽しいことをしたくなるのが当然です。

だったら,勉強自体を楽しいものにするような工夫をしてしまってもよいのではないかと思うのですがどうでしょうか。

覚えることは重要か?

おそらく大学に入学してしまえば,覚えることの価値はそれほど高くはなくなっていきます。大学入学後に求められることは,調べること,理解すること,応用すること,発表すること,そして書くことです。

「ここからここまで覚えなさい」という教科が無いとは言いませんが,ずいぶんと少なくなると思います。受験勉強までの間,一生懸命に覚えてきたのに,その覚えるための技術も能力も使わないなんてもったいないと思うでしょうか。必要とされないのは,提示されたものをそのまま丸覚えすることです。求められるのは,「理解すること」です。

理解するというのはまさに,自分が持っている知識のネットワークに新しい内容を追加して,そのネットワークを育てていくことなのです。先ほども書いたように,それは成長を実感できる「楽しい」体験です。そしてその楽しさは,きっと一生涯にわたって続くものです。

ぜひ,そういった体験を重ねていってもらえればと思います。

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Atsushi Oshio

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Atsushi Oshio

小塩真司。早稲田大学文学学術院教授。専門はパーソナリティ心理学。性格の構造,発達,適応に関心があります。 研究室:http://www.f.waseda.jp/oshio.at/index.html Twitter: https://twitter.com/oshio_at

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