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遺伝の影響が大きいので特定の遺伝子は見つかるはず

「身長は遺伝率が大きいですよね」

「前にもそういう話をしたよね」

「ええ,身長の遺伝率が大きいということは,それだけ身長に大きな影響を与える遺伝子が『ドン』と存在しているということですよね」

「どういうこと?」

「ですから,ある遺伝子を持っていたら一気に身長が高くなるような」

「いやいや,そういうわけではないよ」

「え?そうじゃないのですか?」

身長の分布

身長や体重については,学校保健統計調査を確認すると良いでしょう。学校の健康診断で身長を測定しますが,その統計値が掲載されています。

たとえば,全国の高校に通う17歳男子の身長の分布を描くと,下のようになります。きれいな左右対称の分布を描いています(多少でこぼこしていますが)。身長が「高い人」と「低い人」のように,はっきりと分かれているのではなくて,少しずつ違う人々がいることがわかります。そして,真ん中あたりの人がいちばん多くなります。

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多くの遺伝子

このような,少しずつ個人差があって多くの人の間に違いが生じているような場合には,なにかあるひとつの大きな要因が「あるかないか」ということを考えにくいのです。というのは,もしも何かひとつの大きな要因があるなら,この分布はその要因によって大きく左右に分けられるようなことが起きるからです。左の方に大きな山ができ,右のほうに大きな山ができるような分布です。

あるいは,もっと分布がガタガタしてくることが想像できます。大きな要因があれば一気に身長が高くなり,それがない人は一気に身長が低くなるのですから,こんなにきれいな分布にはならないだろうと予想できるわけです。

いくつの遺伝子?

では,身長に関係する遺伝子は,いったいいくつあるのでしょうか。ある本から一節を抜き出してみましょう。

 ケープタウン大学講師のロス・タッカー博士によれば,身長のような基本的な形質も,実際には極めて複雑な仕組みで成り立っている。身長は20%の環境的要因(食生活など)と80%の遺伝的要因で決定される。だが,身長に対応する唯一の遺伝子は存在しない。その数は,10でも50でもない。
 約4000人のゲノムを解析して身長との関係を調べた研究によれば,29万4831個の遺伝子が,人間の身長に関与している。これらの遺伝子のすべてが,人がどれくらいの背の高さになるかに関連しているのだ。つまり,1つの遺伝子を取り替えても,身長を変えることはできない。
 繰り返すが,29万4831個の遺伝子である。
 にもかかわらず,オズの魔法使いがすべてをコントロールしているとドロシーが信じたのと同じように,世の中には1つの遺伝子が人間の形質をコントロールしているという考え方が蔓延している。

おそらく,予想していたよりもはるかに多い数の遺伝子が身長に関係していると思ったのではないでしょうか。

「そんなに身長に影響する遺伝子があるの?」と思いますよね。そして,「身長だけでそんなに遺伝子があるなんて,他の部分も考えると遺伝子の数は足りるの?」と思ったりしないでしょうか。

遺伝子の評価

そこで,以前書いた記事から一節を抜き出してみます。「身長の遺伝子」というのは,遺伝子を身長の観点から「評価したもの」だということです。

たとえばある遺伝子を持っていると,ほんの少しだけ足の骨が伸びるとしましょう。すると,その遺伝子を「背が高いかどうか」というモノサシから見れば,「背を高くする遺伝子」になります。でも,その同じ遺伝子を別のモノサシを当てて見ることもできます。つまり,「体重の重さ」というモノサシから見ると「体重を重くする遺伝子」になり,「足の速さ」というモノサシから見れば「足を速くする遺伝子」になり,「スタイルの良さ」というモノサシから見れば「スタイルを良くする遺伝子」になり得るのです。

このように考えると,「○○の遺伝子」というのは,「○○の観点から人間が(勝手に)遺伝子を評価したものである」と考えることができそうです。

そして,これと同じように,何かを何かの観点から評価するという行為は,遺伝子だけではなくて人間そのものにも行われます。同じ人が,ある観点からは「優れている」「役立つ」と評価され,別の観点からは「劣っている」「役に立たない」と評価されるというのも,これと同じではないでしょうか。

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