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こころが読めるのですか

以前,次のようなツイートをしました。

若い頃は「心理学を学んでもこころが読めるようにはならないよ」と言っていたけれど,最近は「やろうとしていることは大枠では変わらないよ」というところからスタートするようにしている。

今回は,これがどういうことなのかについて書いてみようと思います。

考えていることを当ててみて

これは以前にも書いたことがある内容なのですが,心理学を勉強したり研究したりしていると言うと,よく言われるセリフがあります。それは,

「考えていることが当てられちゃいそう」
「何を考えているか分かっちゃったりするのですか」
「何を考えているか当ててみて」

こういうセリフです。こういうことを言われたり,言ってしまったりすることはないでしょうか。

ベテランの先生になれば,もう何度もこういうことを言われていることでしょうから,それぞれ返答するノウハウを持っていらっしゃるのではないかと思います。ああ,そのアンケートを取ってみると,心理学者がこの問題をどう考えているのかが分かりそうですね。面白い研究になりそうなので,アイデアとして頭の中に入れておこうと思いました。

さて,大学で心理学を勉強している学生がこういうことを言われると,たぶん一番多い反応は

◎苦笑い

ではないかと思います。

正直言って,どうしたらいいのかがよくわからないのですよね。「じゃあ当ててみようか」とも言えませんし,そんな当てられるような技術を学んでいるわけでもありませんし。何か違うのだけれど,と思いながらもそれをうまく言語化できず,モヤモヤした気分になってどうしようもなく,出てくる反応が「苦笑い」なのです。

「当ててみて」の中身

ではここで,「考えていることを当てる」の中身を考えてみましょう。

このセリフの背景には,相手の顔や仕草を見て,直接質問をすることなくなにかの情報を得て,そこから直接的にわからないような内容のことを推測して,その推測が一定の確率でその人の内面を表す,ということがあるのではないでしょうか。

そういったプロセスをひっくるめて「考えていることを当てる」といっているように思います。

心理学ですること

では,心理学では何をするのでしょうか。

心理学では行動を観察の対象にします。

たとえば面接をすることは,質問をして相手から言語という行動の情報を手に入れます。また,面接をしている間のしぐさや表情も,重要な情報になるかもしれません。

保育園に行って子どもたちの観察をするのであれば,場面と時間を決めて目で見て行動の様子を記録したり,録画や録音をします。そしてそれぞれの行動の頻度を数えたり,発言の内容を記録したりします。

大学生を相手に調査をするのであれば,質問項目を用意して紙に印刷したりweb上のアンケートフォームを作り,それらを読んで回答してもらいます。これも,行動です。

実験の場合はもっと厳密に場面設定をして,その条件の中で課題に取り組んでもらいます。やはりこれも,行動です。

行動そのものというよりは

このように,面接でも観察でも調査でも実験でも,心理学では行動を観察の対象にしますが,研究者が知りたいことは行動そのものか,というとそうではないことが多いのです。

子どもたちを観察して,一定の時間の中でどの言葉が何回発せられたかを数えるのですが,それは言葉そのものを知りたいのではなく「他者との協調性の発達」を知りたいからだったりします。

質問紙に答えてもらうのも,その言葉への反応の行動そのものを知りたいのではなく,どのくらい外向的かを知るためだったりします。

このように心理学で知りたいのは,行動そのものではなく,行動の背後にあるものであることが多いと言えます。

同じようなこと

このように見てくると,心理学でやっていることは「私が考えていることを当ててみて」という発言の内容と,方向性は同じようなものではないかと思います。

では,何が違うのでしょうか。

それは,何を見たときにそこから何を推測してもいいのか,何を推測してはいけないのかという部分が,多少はより確実に考えられているだろうということです。また,その推測を支える一応の証拠が報告されていて,それがどれくらい信用できるかが評価できるだろう,という点も違います。

「この場面で貧乏ゆすりをするということは,この人物が嘘をついているからな違いない」ということを誰かが言ったとします。そうかもしれませんし,そうではないかもしれません。誰が言ったかということも,あんまり問題にはなりません。そこで,「どういう根拠で?」「何の理論から?」「どういう観察や実験や調査で確かめられているのですか?」「その研究結果はどう評価できるのですか?」といった情報が手に入るかどうかが大切だということなのです。

春になって,大学に入って初めて心理学の授業を受ける学生もいることでしょう。ぜひ「どうしてそれが言えるのか」という疑問を持ってもらえればと思います。

情報

今回の記事のもとになったツイートはこちらです。

なお今回の内容は,以前書いた内容にも関連しています。

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