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雑誌『児童心理』休刊ということで掲載させていただいた記事のまとめ

金子書房さんのツイートで,雑誌『児童心理』が休刊となることを知りました。

こちらがサイト上のお知らせです。2019年3月号(2019年2月12日発売,73巻3号)で休刊となるそうです。

児童心理は1947年創刊,2015年には1000号を発行した,長期間続く雑誌のひとつです。

私もいくつか児童心理に記事を書かせていただきました。それを振り返ってみたいと思います。

児童心理の記事は,仮タイトルがつけられた状態で依頼されます。おおよそこういった内容で書いてくださいという依頼方法なので,相手が何を求めているか,自分ならどう書くかを考えながら記事を書いていきます。とはいえ,最初はなかなか難しいもので……。

1. 他者の評価が気になる思春期

最初の記事は,2005年の3月号でした。はじめて依頼された記事だったことと,児童心理の記事のトーンが十分に理解できておらず,気合いを入れて(?)データを分析して結果を書いたりしてしまいました。おかげで,たしか編集者の方から「難しすぎるので修正してください」という連絡が来たことを覚えています。

2. 子どものプライドを育てる

次の記事は,2007年の2月号です。前回の依頼から約2年後のことでした。もしかしたら,前回の記事があまりよくなかったので時間が経ってしまったのかも……と心配になります。今回は,プライドを育てるというテーマでの執筆依頼でした。特集が「心の「強さ」を育てる」というものでしたので,子どもたちは常に成功—失敗と評価されることの繰り返しを日々の生活で行っていて,そんな中でつい成功か失敗かということに目を向けがちだけれども,うまくその原因を考えることで成長につながるのではないかという記事を書きました。

3. 「人に厳しい」人たちを考える

次の記事は,2008年の12月号です。今回は「「やさしさ」を育てる」という特集の中で,「人に厳しい」人について何か書くというお題でした。基本的に人々は自分には甘く,他人には厳しいものですし,自己責任論も見られるようになっていました。それに絡めて,当時速水先生が提唱していて話題になっており,自分も研究していた仮想的有能感に絡めて,子どもを取り巻く世の中の雰囲気に触れるという話の流れを,当時は考えたようです。そうですね……今なら完全主義についても触れるでしょうね。

4. 回復力,弾力のあるこころ―レジリエンスの心理学

次の記事は,2009年の4月号です。前回の記事からあまり時間が経っていません。なんとなく,記事のコツがつかめてきて求められる記事のトーンがわかってきたのかもしれません。今回は「くじけない心を育てる」という特集の中でレジリエンスについて解説する記事が依頼されました。そこで記事では,エーリッヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』のまえがきから文章を引用して,子どものが生きる世界は子どもたちなりに厳しい世界で,大人はそれを美化しているだけかもしれないという内容から始めました。そしてレジリエンスの解説をし,最後もふたたび『飛ぶ教室』で締めるという内容でまとめてみました。

この号が出た後,わざわざ編集者の方が連絡をしてくれて,記事を褒めていただいたのを覚えています。読者から記事について良いコメントをいただいたとか。

5. 連載:こころの「強さ」を育てる

前回の記事が好評だったということで,「連載をしませんか」というお誘いを受けます。開始は2009年10月からで,半年間6回,毎月の連載記事です。連載のテーマは「こころの「強さ」を育てる」ということになりました。前回のレジリエンスの記事から,それをより詳しくということでしょうか。毎回の記事の文字数は,おおよそ6000文字弱です。いまならそれなりに書く内容はあれこれと思い浮かぶでしょうが,当時はなかなか厳しかった印象があります。

連載第1回:「今そこにある危険」はどこにあるのか
いま日常の生活の中で危険なことがどのくらいあるのか,危険をどのように認識しがちなのか,子どもを取り巻く危険にはどのようなものがあり,どのように守ることができるのか,そして危険が少ない時代だとはいえ個人に目を向けると偶然でも色々なことが起きるのを忘れないようにしたい,という内容です。

連載第2回:見えるのか、見えないのか、それが問題だ
心理学の構成概念は物理的にかたちがあるわけでもなく,目に見えるわけでもないことから,同じように「心の強さ」も概念であり,目に見えないものなのだという前提からものを考えてはどうかという内容を書いています。

連載第3回:見えない壁を知る
この回は,自分や人々のことを考えるときについカテゴリカルに類型論で考えてしまうことで,時には問題が生じる可能性があるということについて書いています。

連載第4回:それは良いこと?悪いこと?
ものごとが良いことか悪いことかを考えていくと,つい絶対的に良い・悪いという思考に陥りがちなのですが,物事の多くには裏表があり,それまで良いことだと思われてきたことに悪い面が,悪いことだと思われてきたことに良い面があるものだという話を書いています。

連載第5回:複雑な世界と単純な認識
世の中は複雑なのに,私たちはついそれを単純化して捉えてしまうもので,それはとても根源的な問題なのだけれど,やはり頑張って多元的に物事を捉えるようにありたいということを書いています。

連載第6回:目的を見失わないために
レジリエンスを高めるというと,その人の内部の強さのような要素を高めるという話になりがちです。しかし,そういう回りくどいことをするよりも,直接的に困っている人に手を差し伸べて環境に介入した方が良い場合が意外と多いのではないかということを書きました。


6. レジリエンス研究からみる「折れない心」

連載が終わったのが2010年3月,そして次の記事は2011年1月に掲載されました。「折れない心を育てる」という特集記事の中で,レジリエンスの研究をまとめる内容です。ここでは,危機を乗り越えるには,強くなるだけではなくいくつかの別の方法もあるのでそういうことも考えた方が良いのでは,という内容の記事を書いています。

7. 苦手意識をもちやすい子・もちにくい子

前回の記事から次の記事までの間に,東日本大震災があったり所属大学が変わったりと,社会も自分の生活も大きく変わりました。次の記事は,2013年の6月号です。「苦手意識をなくす」という特集の中で,苦手意識をもってしまう子にはどんな特徴があるのかを推測しながら,自己効力感や原因帰属,マインドセットの話を織り込んで書いています。

8. 目立ちたい気持ちの発達

次の記事は2014年3月号です。「目立ちたがる子」という特集の中の,発達について書くパートが依頼されています。今回も,子どもによく読み聞かせをしていた絵本の中から,『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』のセリフを引用するところから記事を書き始めました。この機関車,仕事から抜け出して自分で好きなように走り出すのですが,「自分を見て!」という意識がとても強いのです。

この引用から始めて,心の理論や公的自意識,青年期の自己中心性の話も織り込みつつ,さいごは絵本の中の機関車もそういう経験をしたからこそ成長していくように,子どもたちの目立つ行動を咎めるだけでなく,そこからどのように成長していくかを考えたいですね,という内容を書いています。


9. I CAN(自己効力感)とレジリエンス

次の記事は,2014年8月です。ふたたびレジリエンスの特集で,依頼された記事は「I CAN」という枠組みの内容です。I CANというのは,とあるレジリエンスの枠組み(I HAVE, I AM, I CAN)における要素の一つで,いわゆる自己効力感に近い内容がこれに当たります。そこで,能力という考え方から,それをどう捉えるかということでまたマインドセットの話,そして色々なことにチャレンジしながら自己効力感を育てていきたいですね,という内容を書いています。

10. 勉強のつまずきと自尊感情

次の記事は,2015年7月号です。特集の内容は「勉強につまずいている子」で,自尊感情とのかかわりを説明する記事を依頼されました。自尊感情とその周辺の研究を挙げながら,勉強がうまくいくこと・いかないことを経験する中ででどういったことが起きてくるのか,そしてより豊かに生きるためには何が必要となるかについて書いています。

11. レジリエンスの構成要素 : 尺度の因子内容から

2016年1月号は,またまたレジリエンスの特集です。レジリエンスの構成要素についての記事依頼でした。

ひとくちにレジリエンスといっても,尺度の内容は多様で,まとめることはなかなか難しい状況です。そこで,日本で発表されているレジリエンスの尺度をまとめてしまおうと思い立ちました。詳しくは図書館にある児童心理のバックナンバーを見ていただくとして,下にあるような図を作って,それぞれの尺度に含まれる内容を整理してみました。あくまでも項目内容を見た上での印象に過ぎないのですが……。しかしこのように整理することで,それぞれの尺度がカバーする範囲がどのあたりなのか,自分でもイメージをつかむことができました。

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12. 自尊感情の測り方

これが,(復刊しないかぎり)私が児童心理に書いた最後の記事となってしまいました。2018年4月号で,「「自分を好き」と言える子に」という特集内容です。特集のサブタイトルは「自尊感情を再考する」となっていますので,既存の自尊感情研究から離れて新しい観点を求められているのだと思いました。ということは思ったのですが,あえて心理学の概念を測定するときの基礎的な話や,Rosenbergの自尊感情尺度の話を書きました。

なんといっても,Rosenbergの自尊感情尺度の最初期の日本語版が掲載されている星野命先生の記事は,1970年の児童心理に掲載されているのです。誰もが知っている日本語版のひとつです。そこをリスペクトするような記事を最後に書くことができた(そして掲載していただいた)ことは,良かったなと思っています。

記事執筆の経験を通じて

最初の頃は戸惑いながら執筆していたのですが,しだいに書きながら多くのことに目を配ることができるようになってきたように思います。それは自分の中の知識の蓄積や経験が影響しているのでしょう。論文であれば,たいてい自分が詳しい内容や,自分だけがもっているデータから得た結果を書いていけば良いので大きな問題は生じないのですが,こういった雑誌記事の場合には自分の中に貯えられている知識量が如実に表に出てきてしまうような印象があります。恐ろしいことです。

最初の記事,2005年の頃は,いまのように本も論文も読めていません。はっきり言ってしまえば勉強不足・知識不足で,たった3500文字程度の記事なのにとても苦労した記憶があります(この記事自体,ここまでで5000文字弱です)。

2009年の記事で,どうしてケストナーのまえがきを書くことができたかというと,自分のパソコンの中のデータベースにその一節を入力してあったからなのです。そのデータベースを作り始めたのは就職して数年経ってからで,2009年くらいになるとある程度の量になっていました。今でも,どんな本であろうと読んだ本の中で気になった一節は抜き出してデータベースに入力しています。そういう蓄積があるのとないのとでは,本当に記事を書く労力が雲泥の差になってきます。

たとえば記事や講演を依頼されたら,このデータベースで検索をかけます。するとキーワードを使った本の一節がいくつも出てきますので,それを並べながら話の構成を考えていくのです。そして,そこに検索した論文や考えたことを肉付けしていくことで,さらに全体をブラッシュアップしていきます。

ゼミの学生にも「データベースを作るように」とは言うのですが,どれくらい実践してくれているでしょうか。

こういった記事の執筆を依頼されることは,忙しいときには「なんで今!?」と思うこともありますが,とても良い経験だったのは間違いありません。

休刊ということで残念ですが,感謝したいと思います。

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