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結婚前に同棲した方がいいのですか

大教室の講義では,感想用紙に感想でも疑問でもいいので記入してもらいます。そして,その中から10枚から20枚くらいを選んで,次の授業で疑問に答えるようにしています。

とある回の授業の感想用紙に,次のような疑問が書かれていました。それは「親戚のおじさんから,結婚する前に同棲した方がいいと言われたのですが,本当にそのほうが良いのでしょうか?」といった内容です。


どちらがよい?

一般的にはどう回答するのがよいでしょうか。たとえば「結婚してしまってから相手がダメかどうかを事前に確かめるためにも,お試しで同棲した方がいいのではないか」という意見はありそうです。「お試し同棲ポジティブ効果」理論ですね。

その一方で,「やっぱり結婚までは一緒に住まない方がいいのではないか」という意見もありそうです。あるいは親の視点からすれば「結婚が決まるまではやめておいてほしい」という願望のような意見もありそうです。「同棲反社会的行為」理論でしょうか。

研究によると

果たして,そういう研究はあるのでしょうか。

国内の研究は知らないのですが,海外の研究では昔から,次のように言われることが多いのです。

それは,

同棲の経験は、結婚後の離婚確率を上昇させる

です。

本当ですか?最初に紹介した,学生のおじさんの意見はどうなるのでしょうか。

なお加藤先生の著書『離婚の心理学』にも,その現象については書かれています。

同棲経験と離婚率

もちろん,同棲していたカップルがみな離婚するというわけではありません。あくまでも確率の問題です。でもそれは,結婚前に一緒に住んでいた(結婚の約束をする前に,でしょうね)カップルと,結婚してから一緒に住み始めたカップル(実際には法的な結婚をする直前や結婚式の前から一緒に住むカップルもいると思うので厳密に考えると難しいのですが)を比較してみると,同棲していたカップルの方が全体的には離婚確率が高くなるのだそうです。なお日本のデータについては知りませんのであしからず。

さらに詳しくみると,昔よりは最近の研究の方が,その効果は小さくなっているそうです。昔の方が同棲に対する世間の風当たりは強そうですし,最近は許容度が高まって多く見られる行為だからかもしれません。

また,結婚後一年間の離婚確率だけをみると,同棲経験者の方が離婚確率が低くなる傾向が見られるそうです。でもその一方で,それ以降になると,同棲経験者の方が離婚確率が上昇するのだとか。ううむ……どうしても同棲すると離婚確率が上がる方向に行ってしまいそうです。

その理由は

同棲経験者の方が離婚確率が上昇する理由としては,いくつかのことが考えられています。

ひとつは,同棲を選択する人がもちがちな特徴についてです。同棲を選択する人は,きっと比較的若いカップルが多いでしょうし,経済的にも社会階層的にも,価値観にもなにか固有の特徴があるかもしれません。そして同棲という行動の選択をすることに伴うその他の特徴を持つことが,離婚確率を高める方向に働くのではないか,という考えです。同棲そのものではなく,同棲も離婚も共通する別の原因から生じているという考え方ですね。

ふたつ目は,同棲をする経験そのものが,離婚への許容度を高める方向に働くのではないか,という考え方です。これも,結婚前に一緒に住んでいるという社会的にやや逸脱した行為を経験することが,そのような許容度を高める方向に作用するとも考えられるからです。ということは,もしこれが正しければ,同棲が当たり前になるとこの効果は小さくなると予想されます。

そしてみっつ目は,二人の関係に惰性のような効果が生じるのではないか,という考え方です。結婚を機に,二人は新しい関係へと踏み出していこうとします。しかし同棲をしていてそこから結婚すると,関係を構築していこうという方向に意欲が高まらないかもしれません。そして,そのままそれまでと同じような日常が続いてしまい,より長く二人で暮らしていくために必要な関係の再構築がうまくできなくなる傾向にあるという可能性です。

素朴な意見と研究とのギャップ

他にも考えられることはあるようですが,最初のおじさんの意見のように「試してみればいいじゃないか」という意見をよそに,研究では何度も「同棲は離婚確率を高める」という結果が示されているようです。そして,この素朴な意見と研究結果のギャップは,ひとつの大きな謎として残されているようなのです。

しかし,思わぬところに大問題が隠れているものだと思いました。

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