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心理学者の伝記を読んでみよう

心理学の勉強をもう一段階,面白く感じるようになるコツは,研究者について知ることではないかと思うことがあります。

私の亡くなった指導教官もよく言っていたのですよね。「論文を読んだときに,書いた研究者の顔が思い浮かぶと,内容がもっとよくわかるようになる」と(この通りではなかったかもしれませんが)。

ということで,今回は心理学者の伝記本を紹介してみようと思います。

ハリー・ハーロウ

ハーロウのアカゲザルの実験を聞いたことがありますか?

検索してみればすぐに出てくると思うのですが,この本の表紙の写真のように,サルの赤ちゃんがサルの人形にしがみついている姿が出てくるのではないかと思います。

お母さん人形は2種類用意されています。1つは,タオル地でくるまれている人形ですが,ミルクは出ません。もう1つはタオルがなく,金網の体でできたお母さんですが,哺乳瓶が設置されていてミルクを飲むことができます。

サルの赤ちゃんは,ふだんはタオル地のお母さんにしがみついていて,お腹が空いたときだけ金網のお母さんのところに移動してミルクを飲みます。というわけで,サルの赤ちゃんにとって,本当の親のように,暖かく,ふわふわしていて,接触することの重要性がよくわかるというわけです。

という話を授業ですると,たいてい「ふーん」という反応なわけです。「そんなの,当たり前じゃないですか」という反応です。

しかしこの本を読んでほしいのです。ハーロウが当時どうしてそんな実験をしたのか,そしてそういう実験をしたことで周囲からどういう扱いを受け,さらにそこで心理学界に対してどのような戦いを挑んでいったかがわかると,この実験の価値が数倍どころか数十倍にも感じられるのです。

ぜひ。オススメです。

スタンレー・ミルグラム

同じように,心理学界で今でも語り継がれる実験を行ったのが,スタンレー・ミルグラムです。

ミルグラムといえば,服従実験です。実験参加者が実験室に入っていくと,そこには白衣を着た実験者と不思議な機械が置いてあります。隣の部屋にはひとりの男性が座っていて,ガラス越しに見えることができます。実験者は,「隣の男性が問題に答えるので,間違えたらこの機械のスイッチを入れて電気ショックを与えてください。間違えるたびに,電気ショックを強くしていきます」と言います。機械を見ると,電気ショックのボルト数が書かれていて,最高は450ボルト。「危険」とか「すごいショック」と書かれている次には「×××」と意味深に書かれています。隣の男性が問題の答えを間違えました。「スイッチを入れてください」と実験者に言われます。スイッチを入れると,隣の部屋から「おい,やめてくれよ!」という声が……。

さて,こういう状況の時に,実験参加者はスイッチを入れるでしょうか。もしもスイッチを入れるとすれば,何ボルトまで入れるでしょうか。

という実験も,教科書にはよく載っていますので聞いたことがあるのではないと思います。そして,多くの人が「いちばん高いボルト数のスイッチまでは入れないだろう」と予想するにもかかわらず,実際には多くの人がそこまでスイッチを入れてしまうのです。スイッチを入れるのは強制ではありません。「間違えましたので○ボルトのスイッチを入れてください」と支持され,「嫌だ」と答えると「入れてください」と促されるだけです。もちろん,この電気ショックはにせもので,隣の男性は演技をしているだけです。でもこの実験は,いかに私たちが簡単なインストラクションだけで他者に対してひどい行為をしてしまうか,ということを教えてくれます。

さて,この本を読むと,ミルグラムがどれだけ注意深くこの実験を行っているのかということや,そしていろいろな条件を変えて何度も何度も実験を行っていることがよくわかります。そして,どのような心理学界や世の中の反応があったのかも。

実はミルグラムは,もうひとつとても有名な実験をしているのですが,ご存じでしょうか。それは「6次の隔たり」という実験です。ぜひ,調べてみてください。

この本もオススメです。

ジグムント・フロイト

ロンドンにフロイト博物館があることは知っていますか?

ロンドンだけではなく,オーストリアのウィーンにもフロイト博物館があります。

なぜフロイト博物館は2か所あるのでしょうか?それは,この本を読むとよくわかります。

1938年,ヒトラー率いるナチス・ドイツ軍がオーストリアに侵攻します。フロイトはすでに晩年,がんとの闘病生活も長く,多くの人が亡命を提案するのですがなかなか受け入れようとしません。しかしとうとう,イギリスに亡命することになります。6月にロンドンに到着すると,ものすごい歓迎ぶりだったそうです。当時のフロイトをとりまく人々の様子も,よくわかります。

というわけで,ウィーンの家と亡命後のロンドンの家が,博物館になっているというわけです。フロイトは1939年に亡くなりますので,ロンドンの家には本当に少しの間住んだだけです。でもその後,ロンドンでは娘のアンナ・フロイトが活躍することになりますよね。

背景知識

こういったバックストーリーは,心理学の知識そのものではありません。しかし,なぜその研究者がその時代にその場所で,そういうことを考えたのかということが理解できます。

その研究者は誰と,何と戦っていたのか,どのような反応を受けていたのか,そしてそれに対してまたどのように再反論していったのか,そういうことがわかると,その理論や研究が生き生きとしたものになってきます。

そういう意味で,たまにはこういう本を読んでみるのもよいかもしれません。

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