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健康なら幸せ?

身体の健康と,心理的な良い状態との間にはどのような関係があるのでしょうか。

やはり体が健康だと,気持ちも明るくなるのではないでしょうか。自分自身,年齢的に,体に不安がある状態が長く続くこともあるのですよね。不調がなかなか治らないと不安になってきます。

また,心が健康だと,身体も健康になるのだろうという考え方にも根強いものがありそうです。「病は気から」という言葉もありますし,「ポジティブな気持ちでいれば,免疫が活発になって……」といったことを耳にしたこともあるのではないでしょうか。

そして実際この本のように,そういった効果は無視できないことでもあります。

ウェルビーイング

心理学には,ポジティブな側面を表す特性がいくつもあります。

たとえば,自尊感情,自己肯定感,自己評価,楽観性,自己効力感,幸福感,レジリエンス,などなど。これらは互いに重なっている部分もありますし,ちがっている部分もあります。「ちゃんと違いを説明しなさい」と言われても,困ってしまうこともあるかもしれません。

このようなポジティブな心理学的概念の中でも,全体的に「よい状態」であることを意味するのが,心理的ウェルビーイング(psychological well-being)です。主観的幸福感(subjective well-being)と表現されることもあります。これらふたつをあわせて単に「ウェルビーイング」と表されることもあるようです。生活に満足していて,幸福感を抱き,意味ある人生を歩んでいるという感覚を持っていたり……とにかく,全体として「よい状態」にあるということを指す言葉です。

横断調査と縦断調査

心理学では,調査の仕方によって,横断調査と縦断調査という言い方をすることがあります。

◎横断調査:一度の調査で複数の年代の人に調査をすることで,その年齢ごとの特徴を「発達」とみなす。実際にある個人がどうなるかを見るわけではないが,調査のコストは低いというメリットがある。

◎縦断調査:最初に調査をした集団を追跡調査することで,ある個人が実際にどのような変化(発達)をするかを表現することができる。ただし,調査終了までに時間がかかり,コストが大きくなるなどのデメリットがある。

横断調査と縦断調査は,お互いの長所が短所になるというトレードオフの関係にあります。どちらがよい,というよりは,どちらも重要で意味のある研究方法だと考えた方が良いと思います。問題が生じるのは,それぞれで違う結果が得られたときではないでしょうか。

身体とこころの因果関係

身体の健康とウェルビーイングとの関係を,縦断的な調査で検討したのがこの論文(Healthier and Happier? A 3-Year Longitudinal Investigation of the Prospective Associations and Concurrent Changes in Health and Experiential Well-Being)です。

この研究では,2012年から2015年までの4回にわたって行われた調査を分析しています。それぞれの人数は,2303人,1920人,1763人,そして1635人と大きなサンプルでした。それぞれの調査参加者は,いくつかのウェルビーイングに関連する質問項目と,身体的健康の質問項目に回答しています。

分析結果は?

この論文では,縦断調査のデータを「Random-intercept cross-lag structural equation model」という分析モデルで検討しています。無理やり日本語に訳すと,「ランダム切片交差遅延構造方程式モデル」でしょうか。モデルに名前がつくとなんとなくかっこよく聞こえてしまうのが不思議です。

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