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優れたリーダーなら「私は」と言わずに「私たちは」と言う

もうずいぶん前のこと、年初にロンドン郊外のホテルを借り切って、世界中のビジネスリーダーが集まる全社キックオフ会議に参加したときのことだった。アジア全体を統括する女性リーダー(日本人)が、アジアのある国のカントリーリーダーの発言を聴いて首をかしげ、

「あいつ、いつまでも”私が”と言うくせが抜けないな。ぜ〜んぶ自分の手柄にしようとしてる」とつぶやいたのだ。

私のことじゃなかったけど、思い切りドキッとして、あぁ、今日は自分はなんて言ってたかな、”私たち”って言ってたかな、言ってたよね?と思い返そうとするけど、もうよくわからない、彼女に私の心臓の鼓動が聞こえるんじゃないかというくらいバクバクしてた。嫌な脂汗が額ににじみ、思い出したくもないことが脳裏に浮かんできたのだ。

それは海外でのリーダーシップ開発研修(Leadership Development Course)で教わったときのことをまざまざと思い出したからだ。私にはその研修での体験は強烈だった。と言うのも、ちょっと意地悪な課題を与えられてビデオに撮られ、私はまんまとトレーナーの罠にはまって「一番悪い見本」にさせられたのだ。凄く恥ずかしかったし、悔しかったし、頭が真っ白になったし、穴があったら入りたい、もうイヤー、おうちに帰りたーいと言うくらい。

それは、「あなたがこれまでリーダーとして、何を成し遂げてきたのか、簡単にプレゼンをしなさい」というグループワークだ。5人のチームで順番に英語で120秒ほどでプレゼンするんだけど、それほど英語が得意ではない私は、それでも原稿を箇条書きに書き出せたので、「苦手だからこそ前のめりでやらなくちゃ!」と勇気をもって先頭バッターとして手を上げたのだった。なんとか一生懸命に身振り手振りを交えて、私が今までやって来た営業での代理店の組織化と、マーケティングでの新製品導入の成功など、中学生並みの英語で、でも世界的にも誇れる数字を交えて120秒以内できっちりと発表した。終わったときは拍手喝采で(もちろん私だけではなく誰にもそうだったけど)ほっとしたのもつかの間、こんなことを言われたのだ。

**If You Want To Be the Excellent Leader, Say "WE" Not "I".

優れたリーダーになりたければ「私は」と言わずに「私たちは」と言え**

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トレーナーが、私のビデオを見せて全員に解説し、私がI **established the dealer network...とか、I successfully introduced the new product...とか言っている部分で、「あなたは、すべての主語を”私は”と言っているけれど、一人でやった仕事なの?リーダーとしてチームのメンバーと一緒に成し遂げた仕事なんでしょ? でも、私が、私が、ってまるでチームの手柄を独り占めしているように聞こえるけど?」と指摘されたのだ。それを聴いていたトレーニング参加者たちはおぉっとどよめいて、皆がうなずく。実は、この時、私はいったい何を指摘されているのか、よくわからなかったのだ。英語はかろうじて聞き取れたけど、別に手柄を独り占めする気はサラサラなかった。まぁ、リーダーとして、これだけ頑張って成果を上げてきたんだという自分の成果を自慢げに話をしたのは間違いない**事実だった。確かに、チームの皆のおかげでなんて枕詞はつけなかった。

もしもそれまでに日本にいたときに、日本語で「主語が私か、私たちかで、私の身勝手な傲慢さがわかるのよ」とかって誰かに指摘されてでもいれば、すぐにピンときたけど、恥ずかしながら、私は「え〜? ”I”と”WE”で何かそんなに違うのかねぇ、そんなつもりじゃなかったんだけどなぁー」くらいの軽ーい気持ちで聴いていたのだが、、、、、どうも空気が違っていた。別に私個人を責めているわけでもなく、また、ほかにも私のような人身御供が、各グループワークごとに先頭バッターが血祭りに上げられていたのだ。

日本語では「私」と「私たち」は、わずかな発音の違いしかないし、リーダーとして「私は」と言うのはチームを代表しているので、実は日本語だと「私たち」と同義だ、と自分で自分に言い訳したくなるくらいだったが、英語だと明らかに”I”と”We”なので、全然違うのだ。正直、この時はなんだか些細なことの揚げ足を取られて、世界中から来た仲間達の前でさらし者にされたような気がして素直になれなかったが、凄く悔しかったので、そのあとの1週間ほどのトレーニング中には、意地でも「私は(I)」を使わないようにしたほどだったが(文法的に意味が通じないくらいおかしかったとは思うけど)、かなーり気をつけていないと、普通に「私は」と言ってしまうのだった。

私は褒められると伸びるタイプなのに(笑)、こういうカタチでの強烈なフィードバックにはとことん落ち込むのだ。でも、一晩寝るとスッカラカンに忘れちゃうので、これくらいにストレートなパンチを食らわないと、身体に染みこまないようだ、たぶん。

この海外でのトレーニング研修から戻った私は馬鹿の一つ覚えのように、同僚や部下のマネージャーの言動で「私は」と言っているのか、ちゃんと「私たちは」と言っているのか、をチェックしては、あの時に自分が言われたことをそのまま、まるであの時の仕返しをするかのように、もっともらしく威厳を持って、皆に言いまくったのを覚えている。いま思い返すだけで恥ずかしい。

でも、面白いことに、この”I”か”WE”かというのは、本当によくそのリーダーの性格というか、リーダーとしての姿勢・謙虚さを如実に表すもので、侮れないのだ。何というか、功を焦っているマネージャーや、とにかく昇進したい、成果を認めて欲しいと言うマネージャーは、「私が私が私が」と言うのを観察できた。今まで、自分が気にしていなかったから気がつかなかったけど、もう自己顕示欲のバロメーターとして、ものすごく役に立つのだ。もう、そういうマネージャーを観る度に、自分のことが思い出されて冷や汗ものだ。

このことは、私がアジアのマーケティングのリーダーになったときに、各国のマネージャー達からの報告を聞くときに役だった。長い長い英語の文章を最後まで一字一句漏らさずに訊かなくとも(ご、ごめんね)、最初の主語だけ聞けば、もう彼・彼女がどういうマネージャーなのかが良くわかるのだ。だから”I”と聞いた途端に、即コーチングをはじめたものだ。東南アジアで一人だけ私より20歳近く若かった女性マネージャーが最初から”WE”を連発していたのには驚かされたし、感銘を受けたものだ。その後に彼女は最年少で東南アジアのカントリーマネージャーに就任し、今ではアジアのエグゼクティブに顔を連ねている。流石だね。

さて、話は最初のロンドン郊外ホテルでのキックオフ会議に戻る。

私は心臓をバクバクさせながら、アジアの女性リーダーに恐る恐る聞いてみた。
「あの、その、わ、私はなんて言ってました? WEって言っていましたか?」
「んー? 飯室さんはちゃんとWEって言ってたけど? でも、昔は何でもかんでも自分は自分はって言って、チームのおかげですなんて殊勝なこと言わなかったよね、あんた」

もう、ちゃんとお見通しである。

もうこれ以来、社内はもとより、外部での講演やインタビューでも、できるだけ気をつけてしゃべるようにしてきたし(とはいえ、気をつけていないとすぐに戻っちゃうみたいだが)、それ以上に巷でリーダーと言われている人の講演や記事やSNSでの投稿を読んで

「あ、コイツ、俺は、俺はって言ってるよ、オレオレリーダーだな」とかチェックしたりしている(笑)

特に落ちがあるわけじゃない、なんてことのない話だ。話し方として「私は」を「私たち」に変えたからと言って、それが理由であなたがすぐにリーダーになれるわけではないのだろうが、あなたの見方を自己中心から他者中心に変えるのには役立つと思う。そして、きっとチームメンバーへの感謝の気持ちも生まれてきて、リーダーは自分一人じゃ何もできなんだなぁ、と言う謙虚な気持ちになれるから、もしもあなたがリーダーなら、もっと良いリーダーに変われるきっかけになるかも知れない。少なくとも、私には役に立った。

もしも、こんなリーダーシップや、私のように失敗から学ぶことに興味があるならば、「学びの本質」というFacebookコミュニティを覗いてみないか? 現在は360名ほどが参加してくれている学び放題の半学半教の場である。会社でも学校でも教えてくれないネタが転がっている、、、かも知れない。


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