教科嫌いと先生嫌い

バイト先の塾で中高生と話している中でずっと気になっていたことがあります。
ある教科のことが嫌いと言ってくる子は、その教科を担当している学校の先生のことも好きじゃないと言ってくることが多いということです。

この現象は、ハイダーが提唱した「バランス理論」から説明できると考えています。バランス理論を理解するために、先に認知的斉合性理論という理論について少し確認しておきましょう。

人間の身体には、不均衡状態が発生した時に自発的に均衡状態を回復しようとする恒常性(ホメオスタシス)の機能が備わっています。
これと同じように、認知システムにも恒常性の機能が備わっていると考えるのが、認知的斉合性理論です。

つまり、認知的斉合性理論にしたがえば、人間は認知的な「不均衡」が生じた時に自発的にそれを解消しようと動機づけられるのです。

続いては、バランス理論について見ていきましょう。この理論では、自己 (P) 、他者 (O) 、事物・第三者 (X) の三者に関する関係性を扱っています。

たとえば、太郎くん (P) と理科 (X) と理科の先生 (O) の関係について考えてみましょう。ここで、理科の先生 (O) は理科 (X) のことが好き【+】であることを固定しておきます。

まず、太郎くん (P) が何らかの理由で理科 (X) のことを嫌い【-】になったとしましょう。バランス理論では、三つの符号の積が正になるとバランスが取れており、負になるとバランスが取れていないと考えますから、バランスを取るためには、太郎くん (P) は、先生 (O) のことも嫌い【-】になると考えられます。

同様に、太郎くん (P) が何らかの理由で先生 (O) のことを嫌い【-】になったとしましょう。すると、バランスを取るために、理科 (X) のことも嫌い【-】になってしまうと考えられます。

以上のように、教科と先生の関係性がプラスであることを前提とすると、「教科嫌い」と「先生嫌い」がセットになる方向に動機づけられることが分かります。

もちろん、教科の好き嫌いを決める要因も、先生の好き嫌いを決める要因も、他にたくさんありますから、そうした個々の好き嫌いについてをこの理論のみで説明することは困難です。

しかし、今回の知見を踏まえれば、何かと問題になる「算数・数学嫌い」「理科嫌い」などを解決したいと考えたときに、「先生がいかに嫌われないか」という要因も少なからず関わってくることは否めないと思います。

また、この理論は別の示唆も与えてくれます。それは「児童生徒が”好き”だと感じている相手が何かのことを好きならば、児童生徒もそれを好きになるかもしれない」ということです。(ここでの「好き」は恋愛感情でなくても可。)

児童生徒が好きだと感じている相手が先生である必要もありません。友だちでもいいですし、家族や祖父母なんかもいいですし、好きなYouTuberとかでもいいと思います。

そうした人たち(P→O, +)が「理科好き」をアピールしてそれを児童生徒が知った (O→X, +)とき、バランス理論にしたがえば、児童生徒も理科を好きになる (P→X, +)方向に動機づけられると考えられます。

もちろん、そんな些細なことだけで完全に好きになるとは考えにくくても、態度変容のきっかけになるかもしれないと思います。このような情意的・社会的なアプローチも教育実践の上で忘れないでおきたい視点の一つではないでしょうか。

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