見出し画像

思いやりを「受ける、与える」ことが持つパワフルさに、涙が止まらなかった話。

「アツさんの大切な思い出の写真さん、こんにちは。あなたはいつアツさんのところにやってきたの?」

そんな問いかけから始まったロールプレイング中、ぼくは涙が止まらなかった。

臨床心理士、小児科医、産業カウンセラーなどが集まった、とあるワークショップでの出来事だった。

以前ポッドキャストにご出演いただいた心理士さんのご紹介で、普通のサラリーマンであるぼくも参加させていただいたのだけど、これがとんでもなくパワフルな経験でした。

ワークショップのトピックは「コンパッション・フォーカスト・セラピー」。

日本ではまだ馴染みの薄いセラピーだけど、イギリスを中心にさまざまなメンタルヘルスや感情コントロールの対処に使われている心理療法だ。

うつ病、PTSD、OCD、社会不安、双極性感情障害、摂食障害、統合失調症、LBGTs、虐待、依存症など、幅広い課題に対してコンパッション・フォーカスト・セラピーは使われている。

この記事を読んでもらうとわかりやすいと思う。

コンパッションは「苦しんでいる人がいたら、ついなんとかしてあげたくなること」という、簡単には訳しにくい概念のことを指しているそうだ。

そのため、「思いやり」や「慈悲」と訳されがちだけど、ワークショップでは直訳せず、そのまま「コンパッション」と使われていた。

コンパッションなんて誰もが持っているとぼくは思っていたけど、どうもそうではないらしい。

スピーカーであるケイト・ルクレ博士によると、他者への思いやりを持てない人間は存在し、彼らに対して、コンパッションを感じること、与えることをトレーニングし、発展されていくことを、セラピーではおこなっているそうだ。

特に幼少期にトラウマ体験をした人間は、安心感を感じられる経験がいちじるしく少なかったため、コンパッションを「受け取る」ことが難しいケースがあると言う。

確かに、ぼくに夫婦関係のご相談をしてくださる方たちの中にも、トラウマ体験をした方が多く、他者からのコンパッションを受け取りにくい(ゆえに与えることも難しい)ケースが多かったと思う。

ワークショップの中では、コンパッションとは何か?セラピーにどう使われるのか?コンパッションを育むにはどうすればいいのか?など、詳しく説明され、実際にコンパッションを「受け取る」「与える」実習も行われた。

その実習の最中にぼくは涙が止まらなくなってしまったのだ。

その内容は、自分にとってとても愛着を感じているもの、大切にしているものを持ってきて、それになりきるというものだった。

ちょっと何言っているかわからないと思うけど(ぼくも最初は意味がわからなかった)、二人一組になり、一人がセラピスト役となり、一人がクライエント役となる。

椅子から立ち上がり、座った瞬間に、あなたはそのものになると言われ、実際そうなったと思い込むことで、このロールプレイングはスタートする。

ぼくが選んだのは、妻と初めて旅行に行った時に撮影した写真だ。

鎌倉にある杉本寺。

苔むした階段が素敵で、その前で写真を撮った。

今から12年前だ。

ぼくはその写真が大好きで、額縁を買い、ペンキで色を塗り、やすりで削りヴィンテージ風の加工をほどこした。

2階へ向かう階段の壁にかけられ、ぼくは気持ちが落ち着かないときに、その写真を眺めることが多い。

「アツさんの大切な思い出の写真さん、こんにちは。あなたはいつアツさんのところにやってきたの?」

実習の相方となった心理士さんがぼくに語りかける。今のぼくは、アツの大切な写真だ。

「ここに飾られたのは5年前だと思います。彼が額縁を買ってきて、色を塗り、やすりで削り、そこに入れてくれたんです」

「そうなんですね。きっと、そこでは、アツさんや家族の声がたくさん聞こえてくるでしょうね」

「はい、そうなんです。彼らの楽しそうな声、喧嘩している声、いろんな声が聞こえてくるんです。私は階段の壁にかけられているので、ちょっと離れたところから聞こえてくるんですが、彼らのいろんな感情がここにいても伝わってくるんです」

「そうなんですね。あなたはアツさんのためにどんなことをしていますか?」

「彼は階段で立ち止まって、しばらくの間、ずっと私を私を見ていることがあるんです。これは本当によくあるんです。

ただ、じっと見つめている。きっと、何か辛いことがあったときなんだと思います。

悲しい気持ち、辛い気持ちを和らげようとして、私を見つめている。

彼は私をただ見つめるだけで、気持ちが癒されるようです」

「そうなんですね。きっと、あなたはアツさんにとって本当に大切な存在なんですね。あなたはアツさんにどんなことを伝えてあげたいですか?」

……。だいじょうぶだよ。だいじょうぶだよと伝えてあげたいです。辛いことがたくさんあるけれど、乗り越えられないと思うことが、今も昔もあっただろうけど、きっとだいじょうぶだよって。きっと、うまくいくからって、だいじょうぶだからねと、伝えてあげたいです……。」

ロールプレイングの中盤、ぼくには、ぼくを見つめる自分の姿がありありと見えていた。

階段の途中で立ち止まり、じっとぼくを見つめるぼくが。誰にも言えない苦しみを抱えたぼくが、癒しを求めてぼくを見つめている。

それが見えた瞬間から、ぼくの心に優しい気持ちが溢れかえり、とめどなく流れる涙を止めることはできなかった。

その瞬間、確かにぼくはコンパッションを受け取り、また与えることができたんだ。

これはとんでもなく大きく、そしてパワフルな体験で、その時からぼくの中で何かが大きく変わったんです。

翌日、ぼくは道端に貼られている単なる選挙ポスターのおじさんの笑顔からも優しさを感じられるほどでした。

目に映るものすべてが輝いて見え、職場ではめったに会話をしない同僚に話しかけてしまったほどでした。

ワークショップから2日が経ち、その変化は徐々にやわらいではいるけれど、ぼくはぼくの中の何かが変わったことを確かに感じている。

誰かからいたわりや優しさを受け取ること、そして自分が与えること。

それが、今までよりもやりやすくなったようが気がしています。

幼少期や、もしくは夫婦生活の中での辛い体験によって生きづらさを感じている人がいるなら、助けになるセラピーかもしれません。

今回のワークショップを主催したプラスワンラボでは、定期的にコンパッションマインドのトレーニングをしているようです。

また、心理士だけではなく、一般人向けにもカウンセリングトレーニングをされています。ぼくもいくつか興味のあるコースがあるので、妻と財布と相談しながら、どれかのコースを受けてみようかなと思っています。

また、個別カウンセリングも行っていて、比較的安く感じられる値段なので、お悩みの方にはいいかもしれません。

最後は宣伝みたいになっちゃったけど、PRでもなんでもなく、普通におすすめです。

コンパッション、早い流れで生きている現代人のぼくらにとって、生きやすさを見つけるヒントになる気がしています。

夫婦関係改善に関連する情報があったら、またシェアしますね。


ーーあとがきーー

ここ2〜3年おこなってきた、夫婦関係相談をいったんやめることにしました。

無料相談をすでにご予約いただいている方とはおこないますが、新規の受付はストップします。

また、メンバーシップの定期的な相談もストップします。

このワークショップで気がついたことがあるんです。

それは、この2〜3年間、夫婦関係に悩む方のお話を聞き続けることで、ぼくの中に同じような感情が溜まってしまったということです。

相談者さんから受ける感情は、ぼくのミラーニューロンによって同じ感覚をぼくにも与えます。

同じ感覚を感じるだけでなく、ぼく自身の中にある傷つきの体験も喚起させてしまう。

傷つき、孤独感、辛さ。

さまざまな感情に寄り添い、ぼくが知る限りのアドバイスをおこなうことで、相談者さんの力になれればと思ってきましたが、心理士と違い特別な訓練を受けておらず、定期的にスーパービジョンを受けられるわけでもないぼくには、いささかきつい体験だったようです。

ただ、何十人もの方とお話をするなかで、夫婦関係問題については、かなり芯に迫った理解を体感として得られたと感じています。

ご相談を受けたことは、後悔していません。

ただ、ちょっとだけ、ぼくにも優しさを向けてみようと思うのです。

自分自身を見つめ、癒し、次の一手を進めるためのエネルギーを得たいと思っています。

夫婦関係の研究は続けます。これが多くの人にとって、そして他ならぬぼく自身の幸福に大きな影響を与えているからです。

カウンセリングに対するぼく自身の知見が溜まり、メンタルの安定を維持できる環境を作ることができたら、また相談は再開するかもしれません。

どうか、その時までお待ちいただけると嬉しいです。

それでは、また。


ーーお知らせーー

「世の中から夫婦関係に悩む人を減らす」

ぼくのビジョンに共感して下さる方からのサポートを募集しています。

いただいたサポートはポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」の運営費用、専門家への取材費用、専門セミナーへの参加費、専門書の購入費用などに充てさせていただきます。

月に一度、活動報告記事をお送りさせていただきます。

ポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」へのリンクはこちらです。視聴&フォローいただけると、とっても嬉しいです!

▶︎Spotify

▶︎Apple podcasts


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?