研究発表会(二年生時)

私の大学は、アカデミックイヤーが九月に始まり翌年六月末に終わります。年度末には毎年Research Progress Workshopという、博士課程の学生(二年生以上)が一年の成果を発表する研究発表会があります。今年は六月の中頃に行われました。

私の学部は博士課程しかないので、学生も少ないのですが、それでも二年生以上の博士学生はだいたい二十人ほど。一人持ち時間二十分(十五分発表、五分質疑応答)という非常に短い時間での発表になります。一日では終わらないので、二日に分けて行われました。

私は一日目の午後の部のちょうど真ん中あたりでした。去年は進級試験があって、それと比べると質疑応答の時間も短いし、審査というよりは発表会なのであまり気負いせず望むことができました。朝早く起きて家で一通り読み上げる練習をし、だいたい十五分に収まるように何回も喋り続けて調整しました。

発表自体はうまくいったと思いますが、先生からの後からのフィードバックだとちょっと専門的すぎる部分があったかも?ということ。とはいえ、専門技術の伝達が研究課題なので、技術の説明を丸々飛ばすこともできず、今後は出来るだけ簡単に説明するように話す練習があるなと思いました。先生からのアドバイスだと「予想した通り」とか「予想と反して」というような結果に対する方向性みたいなものを入れると、解釈に役に立つとのこと。

研究内容は、専門技術(音楽の表現技法)の伝達が熟達者と学習者の間でどのように行われているのかということなのですが、今は熟達者が技術を教えようと思っている時に、どのように演奏を変化させているのかというところを中心に調べています。

私が最初にした実験の結果は大方予想通りの結果が出ました。熟達者が同じ演奏するのでも、聴衆の前で演奏する(コンサートなど)のと生徒の前で教えるつもりで演奏する(レッスンなど)のと、どう演奏(音)を変化させているのかということを実験しました。予想は:

① 熟達者は教える意図があるとき、よりゆっくり演奏するだろう。
② 熟達者は教える意図があるとき、それぞれの音楽技法を強調(誇張)して演奏するだろう。
→特に音楽がわかる人へ:レガートの指示があるところはより長い(深い)レガートを、スタッカートの指示があるところはより短いスタッカートを弾くはず。フォルテの指示があるところはより大きなフォルテを、ピアノの指示があるところはより小さいピアノを弾くはず。

全部そのままの結果が得られたわけではないですが、ある程度この予測を支持するようなデータが得られ、次はより複雑な音楽刺激を使って同じような結果が得られるかどうかを検討してみようと思っています。

私の分野(認知心理学)では、基本的には仮説(予測)を立てて、それが正しいかどうかを実験をして確かめるわけなのですが、だいたいの場合は予測通りの結果が出ないというのが一般的なわけですね。もちろんうまい仮説を立てて、それを支持する結果を得る素晴らしい研究者はたくさんいますが、私のような博士課程の学生だと、まだまだうまい仮説が立てられなくて実験結果も出ないか曖昧なものが多かったり。

特に今回の研究は理論的背景が強くないので、「やってみないとわからない」みたいな部分が多く、正直ラッキーで結果が出ただけだし、再現性がどの程度あるのかもわからないのでなんとも言えないのですが、とりあえず思った方向の結果が出たのが良くも悪くもあまり実験として叩きどころがなくて、質疑応答は割と普通のコメントをもらっただけで終わってしまいました。残念。

しかしながら去年からの成長を評価するとしたら、この十五分の発表をあまり気張りすぎずに用意できたこと。もちろん練習はしましたが、前は一週間以上前から原稿を書いて、一言一句丸覚えする(しないと不安で吐きそう)というような気持ちだったのですが、今回は良くも悪くもある程度適当にできました。

発表もコミュニケーションなので、発表者が緊張しすぎていると聴衆も構えてしまってあまりスムーズな交流が行われないような気がします。そのスムーズな交流のためには、言語能力の向上が必須なわけですが、目に見えなくても少しずつ成長しているのかなと思いました。

去年は進級試験後バーンアウトのような状態になって全く何もすることができなかったのですが、今年はこの発表は所詮通過点で、今は七月の学会のことと次の実験の準備で頭がいっぱいです。