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セキュリティ・トークンに関する規制案について

金融商品取引法の改正案が2019年3月15日に国会に提出された。

この改正案は、投資型のICO(発行者が将来的な事業収益等を分配する債務を負うもの)で発行されるトークン(以下「セキュリティ・トークン」という。)に関する規制の整備を含む。

以下、その概要について記述する(もし私の誤り等あればご指摘頂けると大変ありがたいです)。

1.セキュリティ・トークンの有価証券該当性

現行法の下でも、セキュリティ・トークンについては、集団投資スキーム(金融商品取引法2条2項5号)として金融商品取引上の「有価証券」にあたりうるとされていた。

もっとも、同号の「金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)」という文言との関係で、購入の対価が暗号資産(仮想通貨)である場合には集団投資スキームに当たらないのではないかが問題とされていた。

今回の改正案では、対価が金銭であっても暗号資産であっても経済的効果に実質的な違いはないとして、購入の対価が暗号資産である場合であっても、セキュリティ・トークンが集団投資スキームとして「有価証券」に該当することが明確化された(改正後金融商品取引法2条の2)。

2.セキュリティ・トークンの自己募集について

ICOにおいては、発行者自らがトークンの取得勧誘を行う自己募集が多い。

「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」(以下「金融庁報告書」という。)では、詐欺的な事案の抑止等の必要性を踏まえると、第三者による審査を経ることが最も望ましいとしつつも、セキュリティ・トークンの自己募集を禁止するのではなく、適切に規制の対象とするとの方針が示されていた。

改正案においても、セキュリティ・トークンの自己募集を禁止する条項は定められておらず、金融商品取引業者の登録を受けることを前提に自己募集が認められるものと考えられる(金融商品取引法2条8項7号)。

なお、一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)の「新たな ICO 規制についての提言」(以下「JCBA提言」という。)では、第一項有価証券として整理されるセキュリティ・トークンについては、現行法における第一項有価証券の自己募集と同様に、業登録の免除規定を設けるべきであるとの提言がなされている。
もっとも、改正案は、そのような考えはとっておらず、第一項有価証券として整理されるセキュリティ・トークンの自己募集でれば、第一種金融商品取引業者の登録が必要であるという立場をとっていると考えられる。

3.開示規制①~第一項有価証券か第二項有価証券か~

金融商品取引法においては、第一項有価証券(広く流通する蓋然性が高い有価証券)と第二項有価証券(その蓋然性が低い有価証券)が区別され、開示規制についても異なる規制が定められている(前者の方が厳格な開示規制が適用される)。

では、セキュリティ・トークンは、第一項有価証券と第二項有価証券のいずれとして整理されるか。

この点、金融庁報告書では、電子的に移転される以上、事実上多数の者に流通する可能性があるとして、セキュリティ・トークンを第一項有価証券として整理することが適当であるという考え方が示されていた。

これに対し、JCBA提言では、セキュリティ・トークンの流通可能性は発行体の承認なしに二次流通が可能か否かにより異なるとして、発行体の承諾がなければ権利が移転しない場合は第二項有価証券として整理すべきとの考えが示されていた。

改正案においては、新たに、セキュリティ・トークンに関する概念として「電子記録移転権利」という概念が定められているが、この電子記録移転権利については第一項有価証券として整理されている(改正後金融商品取引法2条3項)。
そのため、セキュリティ・トークンについては原則として第一項有価証券として整理されることになる。

ただし、電子記録移転権利の定義において、「流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。」と定められている。
そのため、流通性の低さなどにより内閣府令の定める適用除外を充たすセキュリティ・トークンについては、例外的に電子記録移転権利に該当せず、第二項有価証券として整理されることになる。

結局、セキュリティ・トークンについては、第一項有価証券として整理される場合と第二項有価証券として整理される場合のいずれもがありうるものと考えられる。
そのため、セキュリティ・トークンの募集などを行うために必要な業登録としても、第一種金融商品取引業者の登録が必要な場合と、第二種金融商品取引業者の登録が必要な場合の両方があるものと考えられる。

4.開示規制~私募要件(軽減措置)~

現行の金融商品取引法は、有価証券の開示規制に関し、私募(少人数私募、プロ私募、特定投資家私募)に当たる場合の軽減措置を定めているが、改正案をみる限り、セキュリティ・トークンについて特別な手当てはされておらず、私募の適用は特に除外されていない。

もっとも、金融庁報告書では、「適確機関投資家私募(いわゆるプロ私募)等の形態で行う場合には、プロトコルによる禁止等を含め、転売制限の実効性を担保することが重要」との考えが示されている。

現行法の下でも、プロ私募等の要件については、定義府令(正式名称は「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」)に定められており、定義府令の改正において、セキュリティ・トークンの私募要件に関する特別の手当てがなされるものと考えられる。

5.二次流通市場について

改正案において、セキュリティ・トークンの二次流通市場については特に定められていない。

この点、金融庁報告書でも、株式の流通の場や形態として、金融商品取引所、PTS(私設取引システム)、特定取引所金融商品市場、株主コミュニティ銘柄の店頭取引、証券会社におけるその他の店頭取引等を挙げた上で、セキュリティ・トークンの二次流通に関し、独自の流通の場や形態をあらかじめ用意すべき特段の理由はない一方、これらの流通の場や形態の一部を利用できないようにすべき特段の理由もないとの考えが示されており、改正案もかかる考えに従ったものといえる。

これに対し、JCBA提言では、セキュリティ・トークンは二次流通が容易であるところ、適切なルールに則ったセカンダリーマーケットで取引できる場が存在しない場合には適切な価格形成がなされず、利用者保護上問題があるなどとして、国内において現実に機能する適法なセキュリティ・トークンの二次流通の場の確保が必須であるとの考えが示されている。

かかる提言は首肯できるものでおり、セキュリティ・トークンの二次流通市場に関しては引き続き議論がなされるべき重要論点であると思う。

(参考資料)
「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」に関する各種資料
https://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html

金融庁報告書
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20181221-1.pdf

JCBA提言
https://cryptocurrency-association.org/cms2017/wp-content/uploads/2019/03/ICO-20190308.pdf


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