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プリシラ

 アメリカ軍将校の父の転属により西ドイツに暮らしていたプリシラ(ケイリー・スピーニー)はある日、エルヴィス・プレスリー(ジェイコブ・エロルディ)宅でのパーティーに招待される。両親の反対を押し切ってパーティーに参加した彼女はエルヴィスに見初められる。彼は両親を説得し、プリシラを邸宅に呼び寄せ、名門校に転校させる。紆余曲折を経て二人は結ばれ、時満ちて一人娘が生まれる。

 愛や教育、躾は時に支配になりやすい。プリシラは厳格な一家に生まれた。その教えや忠告は彼女にとっては退屈なものでしかなかった。そこから連れ出してくれたのがエルヴィス・プレスリーであった。そこにはカネ・豪華な食事・楽しい仲間との遊びなど…プリシラを楽しませ、酔わせるモノがたくさんあった。監督のソフィア・コッポラは言う。

Q プリシラが部屋に入ると、エルヴィスがすでにそこにいる場面がしばしば登場します。これは彼女がエルヴィスの世界に入っていったことの象徴でしょうか?

ソフィア  その通りです。彼女はエルヴィスの世界にいるという経験をし、それが彼女の成長における最初の数年を形づくったということです。エルヴィスがその場にいる時の対比をどうしても描きたかったのです。

 やがて彼は母親譲りの短気さをあらわにし、プリシラに対して暴力的な一面を見せ始める。それは愛という名の名の支配であると同時に、母をなくし甘える対象を失ってしまった彼が新たに甘える対象としてプリシラを選んだという事かもしれない。支配を受けやすい人は総じて依存心が高い。プリシラと同じようにエルヴィスも他者への依存心が高かったのかもしれない。それは怪しげなスピリチュアリストであるラリー・ゲラーに心酔し、突然ソレ系の本を読み漁るようになった事からも読み取れる。

 結婚し、愛娘が生まれるあたりから二人の関係に変化が生じ始める。エルヴィスもプリシラを遠ざけようとし、プリシラもエルヴィスの愛を束縛としか受けとれなくなっていた。プリシラが旅立ちを決意したのも当然だったかもしれない。愛は奪い、絆は束縛する。

 ただ、プリシラの「その後」を少し見たかった。エンディングがキレイすぎる。

 ソフィア・コッポラ監督の巧みなストーリーテリングと音楽の見事さに唸った。「少女」から大人の「女」に成長する様をケイリー・スピーニーが鮮やかに演じて魅せた。

 


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