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4月28日(日)有望若手応援寄席 金原亭杏寿 独演会(飯能・一丁目倶楽部)



杏寿  長屋の花見
 彼女は沖縄出身ということで「うちなー時間」の話をする。沖縄では「集合時間が6時」と聞くと、たちまちこんな会話がはじまる。
「6時集合だって。何時に行こうか?」
 6時に来なさいよ!
「6時?じゃあ、7時に行こうか」
 だから、6時に来なさいって! 何しろ、「6時集合」と聞くと6時に家を出るんですから…。

 飯能の桜はすっかり葉桜となったが、春の噺を杏寿さんらしい明るさで。
 酒と肴の正体をバラすくだり。酒がお茶だと明かすのは大家だが、「蒲鉾が大根のこうこ」「玉子焼はたくあん」と店子の方が言い当てる。先日、寄席でも柳家小さん師が似たようなやり取りをしていたが、そういう方があるのか? 最近の流行りなのか?
「見てご覧なさい、大家さん。酒柱が立っている」
とはおなじみのサゲだが、杏寿さんが言うと縁起がいい。

杏寿  ちはやふる
 師匠の世之介師が得意の一席を弟子が口演する。
 ツツツンと口三味線が入り、「ちはやふる〜」と歌い出すのがかわいらしい。「自分の頭で考えなよ。馬鹿なっちゃうよ」は師匠の口癖である。

 ちはやふる神代も聞かず竜田川からくれないに水くぐるとは

 という在原業平の歌を知ったかぶりのご隠居がハチャメチャに解釈する。人間国宝の柳家小三治の口演が強く印象に残っているが、杏寿さんは明るさと若さでこのバカバカしい噺を牽引した。

ー仲入りー

杏寿  子は鎹
 人情噺『子別れ』は通常、上中下に別れる。上は『強飯の女郎買い』、下は『子は鎹』と呼ばれる。ちょっとあらすじを書いてみる。

 大工の熊五郎は弔いの帰りに吉原に寄り、馴染の女郎と再会する。四日間居続けた挙句、朝帰りする。女房と夫婦喧嘩になるが、あろうことか熊は女郎との仲をのろけてしまう。女房は怒り、旦那をひっぱたく。熊は女房と息子の亀を追い出してしまう。しばらくして、熊は女郎を身請けしてともに暮らし始める。だが、

 手に取るな やはり野におけ れんげ草
 
 で、うまくいかず、熊は彼女を追い出す。

 それから三年後。杏寿さんの噺はここからはじまる。
 ところで女性の皆さん、こんな目茶苦茶な熊五郎を許せますか?ヨリを戻しますか?
 杏寿さんは、ラストの鰻屋で熊五郎に「もし良かったらヨリを戻しちゃくれないか」と言わせ、女房は「あなたさえ良ければ…」と、この申し出を受ける。
 熊の申し出に「許さない」と女房に言わせたのは林家つる子師である。女性の立場とか地位とかじゃない。つる子師は、ただ単純に「熊五郎を許せるのか」という疑問から、この科白を言わせたのだろう。この後、つる子師は「でもあんた変わった。出逢った頃の目に戻ってる」と続け、熊の申し出を受けるのだが。

 現代を生きる女性である杏寿さんにも熊五郎と女房への想い・考えはあると思う。今は習ったとおりに演っているのかもしれないが、杏寿さんにしかできない『子別れ』を創り上げてほしい。自分の頭で考えないと馬鹿になってしまうから。

 ところで、終演後、杏寿さんを交えて全体写真が撮影された。この時、私服の金原亭世之介師もこの様子を撮影していた。杏寿さんが二ツ目になってから、彼女の独演会などで、だいたい師匠の姿を見かける。彼の立ち位置は師匠兼プロデューサーといったところか?だけど、杏寿さんにだって師匠から離れて羽根を伸ばしたい時だってあると思うけどなあ。

 ところで来月、世之介師の弟子・駒平さんが二ツ目になる。彼に対しても、師匠兼プロデューサーの立場をとるのだろうか?

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