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10月28日(土)第15回 林家つる子独演会 日本橋のつる子 3席たっぷり!(日本橋社会教育会館ホール)


たたみ  花筏
 前座さんがこのネタを演るの、はじめて見た。

つる子  片棒
 来年3月21日の真打昇進が少しずつ見えてきた。11月1日には各寄席での真打昇進披露興行の日程が発表される。
 通例通り、ケチな人の小咄をマクラに振って、本題へ。ケチなオヤジとちょっと変わった三兄弟のとむらいを巡る対話を豊かな表情とオーバーアクションでヴィヴィッドに描く。圧巻はお囃子を再現するボイスパーカッション。やがてつる子さんは頭上高々に手を叩き、観客に参加を促す。誰ひとり置いていかない参加型落語の真骨頂を見た。

つる子  妾馬ー八五郎出世ー
 通常通りの『妾馬』
親しみやすいつる子さんのキャラは蓮っ葉な八五郎によく合っている。殿様らしい鷹揚さで、やや無表情、抑揚のない感じに描かれやすい赤井御門守も、つる子版では表情豊かな理解ある上様になる。赤井御門守が三太夫に「良いともだちができたのう」と言う。絶妙なユーモア。全体的に明るく、おめでたい『妾馬』八五郎が、お鶴を「発見」し、「おふくろが泣いてよう」と打ち明けるくだりもしんみりとさせるが、湿っぽくはならない。
 この陽気な『ー八五郎出世ー』自体が次の『ーお鶴の出世ー』へのプレリュードになっているのである。

ー仲入りー

つる子  妾馬ーお鶴の出世ー
 
 つる子版『紺屋高尾』が「オタクの恋の成就」がテーマだったが、つる子版『妾馬』は何になぞらえようか?彼女はその答えを神尾葉子『花より男子』に求めた。
 お鶴が糠味噌をかき回す場面から始まる。それを見守る母親。そこへ兄の八五郎が帰って来る。貧乏だが、ささやかな日常。それを幸せとは気付かないほどに当たり前すぎる日々は、やって来た大家によって一転する。

上様にみそめられた。

 お屋敷にご奉公することになったお鶴は、お付きの女中からの小言やため息に悩まされる。「あくびをしてはいけない」「教養がない」挙句の果てには「お世継ぎを産みそうだから、上様に見初められた」自分はただの、オヨトリノナンシを産むだけの存在なのか。
 悩み傷つくお鶴を同じく上様にみそめられた元花魁の朝霧が慰める。彼女には上様とは別の花沢類之丞という想い人がいた。朝霧は「今夜部屋で話そう」とお鶴を誘う。約束の時刻に行ってみると、朝霧はいない。お鶴は朝霧と花沢の逢引のためのアリバイに使われたのだった。そこへ何故か上様がやって来る。「母と兄がいる家に帰りたい」と泣きながら訴えるお鶴に上様は「なぜお鶴をみそめたか」を語りだす。

 お鶴の物語をきっちり物語る事によって、本来の『妾馬』という物語が、より立体的に、鮮やかに浮び上がった。改作というより新作に近い。これだけの物語を立ち上げるだけの想像力と創造力、そして熱量を林家つる子は持ち合わせている。抜擢で真打になるだけの理由はそこにある。 

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