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女優は泣かない

 あるスキャンダルで「干された」女優の園田梨枝/芸名:安藤梨花(蓮佛美沙子)は、復帰作として「密着ドキュメンタリー」に出演するため、熊本に帰ってくる。待ち合わせの阿蘇くまもと空港にはマネージャーなどは来ておらず、若手ディレクターの瀬野咲(伊藤万理華)が迎えに来る。咲自らハンドルを握る車中で梨枝はなぜか台本を渡される。

梨枝「え…でも、これドキュメンタリー…ですよね?」
咲「ドキュメンタリーでも演出は必要なんで」

 演出か?ヤラセか?ドタバタの撮影が始まる。

 前半は、このふたりと、梨枝の同級生でタクシードライバーのサルタク/猿渡拓郎(上川周作)によるドキュメンタリー撮影をコメディータッチで描く。
 大笑いしたのはお墓でのシーン。梨枝は咲にお墓の前で手を合わせながら泣くよう指示されるが、それは会ったこともない人(サルタクの知人・村松さん)の墓。当然泣ける訳もなく、梨枝は指示を拒む。するとサルタクがコヨリを使えば泣けるだろうと提案する。あのう、有働佳史監督(脚本も)、春風亭一之輔師匠の落語『お見立て』聴いたでしょう?それくらいこのシーンは落語的だった。
 後半は梨枝の家族を軸として、割とシリアスに物語は進む。 10年前に母の七回忌にも出ずタンカを切って出ていった梨枝。厳しかった父(升毅)は、がんで闘病中であった。父へのわだかまりと姉(三倉茉奈)との確執。梨枝は仕事を優先して姉の結婚式にも出ていなかったのだ。そんな苦悩の中にいる梨枝に咲はある提案をする。

咲「ご家族に出てもらうとかできないですか?」

 芸能人のプライバシー切り売りはよく話題に出るが、その裏側を見た思いがする。梨枝は、この申し出を拒絶する。が、咲は後日、咲の上司(浜野謙太)に唆され、ある禁じ手に出る。
  梨枝の物語に咲の野心・出世欲のストーリーも絡み、「密着ドキュメンタリー」は意外な方向へ転がってゆく。ラストの姉から妹への言葉が涙を誘う。
 女優が女優の役を演じるのは難しいと言う。しかも梨枝は演技が下手という設定。この難役を蓮佛美沙子は見事に演じ切った。
 一方のディレクター・咲も胸にモヤモヤを抱えた難役。伊藤万理華が絶妙に演じた。彼女の演技は『まなみ100%』でもうまいと感じたが、本作でもピッタリハマっていた。
 ドキュメンタリーを撮影する人々を描いたコメディにして、人間再生のドラマに笑いながら、涙した。
 


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