イーロン・マスク氏の驚異的決断力

 何か行動を起こす決断というのは、どのようなステップを経て下されるのでしょうか?

例えば私にとって身近な株取引で考えてみると、まず、『分析』があります。投資しようと思う会社の分析、投資しようと思った材料(新開発・業務提携などの開示情報)がどれほどインパクトのあるものなのかの分析、相場全体の地合い……。

分析の結果、投資すべきとなった時は、『計画』、つまり注文の方法を考えるステップになります。どのタイミングで(株価がいくらになったら)、何株注文を入れるか、買った後、いつまで保有し続けるのか……。

そして、『分析』⇒『計画』ときた次のステップが、実は一番難しい最終段階、『決断』なのです。

考えるだけなら、何のリスクもなく、誰にでもできます。しかし、自分の考えた計画を本当に実行に移してよいのか、決断する段になると、必ず頭をもたげてくるものがある……。『恐怖心』です。株の場合なら、買ったはいいけど、予想が外れて値下がり、大損することにならないか……。始末が悪いことに、この恐怖には何の根拠もないのです。ただ漠然と、値下がりするのではないか、という恐怖が心に付きまとう。

その恐れに具体的な根拠があるのなら、考え直して取引を止めるだけのことですが、根拠のない恐れというのは厄介です。なかなか決断できずにうじうじと悩んでいるうちに、買い場は去っていきます。経験から、この『恐怖心』というのは、自分の『分析』⇒『計画』の『精度』とは全く関係がありません。結果として『精度』が限りなくゼロに近かったのに、自信満々で(恐れなく)注文のボタンをクリックしたら、その時の株価がその日の高値だった、などということもあります(順張りの時など)。逆に100%近い『精度』の『分析』⇒『計画』を立てていたのに、漠然とした恐れに負けて注文をためらった結果、儲け損ねたなどという事も起きます。

つまり、決断を左右するのは、自分の『分析』⇒『計画』の『精度』ではなくて、自分の『分析』⇒『計画』の『精度』に対する『自信』があるかないかだと思います。

     『分析』+『計画』+『自信』=『決断』

成功するかしないかは、『分析』+『計画』の『精度』とスタートアップ後の軌道修正次第ですが、そもそもスタートアップできるかどうか、『決断』できるかどうかは、ひとえに『自信』を持てるかどうかにかかっています。大きなことをするときに、損失を被るかも知れないときに、『恐怖心』をコントロールして、それが根拠のない恐れであるなら、自分の『分析』⇒『計画』を信じて『決断』に踏み切れるかです。

今回、『火星から脳波まで イーロン・マスク氏の頭の中』という記事を読んで、私は、改めて『決断』というものの本質を考えてみました。考えれば考えるほど見えてきたのは、それまで漠然と無鉄砲に見えていたイーロン・マスク氏の事業が、実はきわめて合理的で果敢なチャレンジである、という事。そして、イーロン・マスク氏の『決断』は、驚異的な、神的と言っても良いくらいの決断力によるものではないか、という事です。

例えば、火星移住計画は、記事にもある通り――

マスク氏の持論は「環境破壊、人口爆発などで、人類は地球上にとどまる限り絶滅を免れない。それを避けるためには人類は多惑星に住む種族に進化しなければならない」というもの。だからこそ、火星への移住は夢ではなく必然だとする。

ともすれば人が目を背けがちな(手遅れになるまで後回しにしがちな)未来の状況を冷静に『分析』し、必然的となるであろう『計画』を立て、火星移住計画の事業化を『決断』した。『計画』までなら、火星移住というのは聞き古したテーマですが、これを実際に事業化してしまう決断力は、文字通り驚異的だと思うのです。

シニカルな人は、氏には恐れというものがないのか、と言うかも知れませんが、それは全くの的外れと言うものです。起業にリスクはつきもので、シリアルアントレプレナーとしていくつもの企業を育て上げてきたマスク氏が、恐怖心の何たるかを知らないはずがありません。恐れは罠を避けるための第一歩だからです。恐れがあるからこそ、心配するからこそ、リスクに気付いて、それを回避できるのです。火星移住計画事業化の決断は、恐れがないから出来たのではなく、数々の困難、課題を乗り越えていく自信と夢があったから出来たのに違いありません。

私は、正直言って、この決断力に敬意を表するものです。それどころか、マスク氏のような人物が人類の未来を切り開いていくのでは、と思い始めています。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27298360T20C18A2000000/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?