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創造的破壊が生み出す新時代のアート~『落書き』流通の衝撃~

 最近の日経電子版の記事【アカデミー賞が米映画界にもたらす創造的破壊】や【バンクシー本物?全国で発見相次ぐ 自治体は困惑も】を通読して感じるのは、アートの世界におけるディスラプション(創造的破壊)の潮流です。そこでは、もはや通常の手法は通用せず、全く新しい制作プロセスと流通プロセスが採用されています。


 アカデミー賞監督賞、撮影賞、外国語映画賞を受賞した「ROMA/ローマ」は、言うまでもなく、ネット動画配信企業が制作し、ネット配信した映画です。制作費は、加入料によって賄われ、その映像は、ネットで公開される。まさに、映画の制作プロセスと流通プロセスに起きたディスラプションです。

 一方の「バンクシー」は、忽然と姿を現すアートであり、その制作プロセスは全くの謎、逮捕のリスクがある中、どうやって短時間で描くのか?複数の人物による、との説もある……。流通プロセスにいたっては、『落書き』方式というか、全くの破天荒ぶりです。


 このような、既存の手法、プロセスを否定するアートの潮流は、何もその奇抜さを狙ったものではない、という事は明らかです。あくまで、作品そのものの価値が第一であり、卓越した作品を創造するという目標に最も合致する、最適化された手法を選んだに過ぎない、と考えられます。

 逆に言うと、既存の手法では、もはや革新的な作品、創造は不可能となりつつある現状があるのかも知れません――

 新時代のアートに接して受ける感動には、遥かなる太古の時代に、ラスコーの洞窟壁画を初めて見た当時の人々が感じたであろう驚きに通じるものがあります。

 ――今までにないプロセスから生み出された新しいアートのもたらす感動には、今も昔も変わらないパワーがあるのだと思います。


 そのような手法、あるいはプロセス、手段のアップデートについては、既存の『判断回路』を否定し更新する、という考え方が有効だと思われます。『判断回路』という事について考察した拙稿【間違った『当たり前』が停滞を招く~目的化する手段が危ない~】から引用すると――

▶『判断回路』の形骸化と『再学習』による更新


『動機(目標)』・・・目的

『学習』

『判断』

『判断回路』・・・手段

(目標達成)

(時間の経過)

『判断回路』の形骸化・・・手段の目的化

(目標未達)

『再学習』

『判断回路』の更新・・・時としてイノベーションに


 長い時間をかけて形成(学習)されてきたアートの『制作プロセス』・『流通プロセス』は、一つの手段、『判断回路』として多くの卓越したアートを生み出してきた(目標達成)かも知れません。しかし、どんな手法、『判断回路』も時代の流れ(時間の経過)から取り残されれば形骸化・硬直化していきます。

 昔ながらの『制作プロセス』・『流通プロセス』では新鮮なアートを生み出せなくなった(目標未達)時、それで満足することのないアーティストは、プロセスそのものを見直し(再学習)、新たなプロセスを編み出していく(『判断回路』の更新)のではないでしょうか。これこそ、まさに創造的破壊、ディスラプションです。


 新鮮なアートを生み出し続けるためには、『制作プロセス』・『流通プロセス』のアップデートは避けて通れない関門です。アートに関わる全てのステークホルダーには、ディスラプションを受け入れて自らも変わっていく姿勢が求められているのではないでしょうか。 

 

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