アマゾン・ゴーの決定的な点

 現在進行形の第4次産業革命の時代にあって、ITによるビジネスモデルの変革、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業にとって急務となっています。現に、世相を映す鏡である株式市場にあっても、DXの絡んだ材料は株価が大きく動く要因となります。企業がDXを積極的に推進しなくてはならない理由は、もちろん、一つには、競争に勝ち抜いて業績を向上させるためですが、忘れてならないのは、DXを怠っていると、ひとたびデジタル・ディスラプション(デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーション)が起きた時に壊滅的な打撃を受けるからに他なりません。

その文脈でアマゾン・ゴーという存在を考えた時、はたして、アマゾン・ゴーは、記事【デジタル化対応と自己変革】にある通り、圧倒的なデジタル・ツールとデジタル・プラットフォームで顧客を奪い去っていくデジタル・ディスラプターとなるのでしょうか。はたして、実証実験の後には本格展開の嵐が待ち構えているのか?

日々新聞記事を読み込んでいると、過去に読んだ数本の記事が蘇って、それらがまとめて化学反応を起こし、『気付き』が生まれることがあります。新聞という媒体の素晴らしい点の一つですが、今回は、末尾に添付した【「これが未来の買い物だ」 アマゾン・ゴーの秘密】と【商品をスマホで注文 セブン「ネットコンビニ」展開】の2本が関わってきます。たまたま、この2本の記事に投稿もしていたので、記憶のストック場に付箋が貼られていたのかも知れません。

私は、アマゾン・ゴーがデジタル・ディスラプターになるかどうかは別として、アマゾン・ゴーという今までにないコンビニには、いくつか決定的な点があると考えます。そこで、改めて、アマゾン・ゴーの特質と思われる点を、私なりに整理してみることにしました。

【1】『決済プロセスの排除』という決定的な点

アマゾン・ゴーの最大の特質は、『レジ無しコンビニ』であるということです。『レジ無し』であることには、少なくとも3つのメリットがあります。

(1)UXの最大化・・・そもそもの、コンビニにおけるUXに立ち返って見ると、コンビニにおける一番コンビニエントでない部分は何でしょうか?それは、明らかにレジでの会計、決済プロセスです。決済プロセスそのもの、そして、決済プロセスに辿り着くまでの待ち時間こそ、コンビニにおけるUXを最大化するのに、最優先の課題ではないでしょうか。アマゾン・ゴーは、『レジ無し』というデジタル・ツールで一気にこの問題を解決しています。

(2)レジを起点とした負のスパイラルの解消・・・人手不足などでレジの人員が不慣れであったりすると特にですが、レジを起点として下記のような負のスパイラルが発生します。

① ピークタイムになりレジが混雑する。 ⇓② 顧客は、長時間待たされる上、不慣れな接客で不満を募らせる。 ⇓③ 店員さんが全員レジ応援に入り、品出しが追いつかず、あちこちにカラの棚が見えている。  顧客は欲しいものが買えない。 ⇓④ レジがひと段落して品出しに戻った店員さんは、商品を出すのに一生懸命で、  近くにお客さんが行ってもどいてくれない。買い物がしづらい状況。 ⇓⑤ 買い物しづらい中何とか商品を選んでレジに行くと……(⇒①)

レジが混雑することによって、UXを阻害する要因がいくつも発生してしまうのです。『レジ無し』であれば、そのような問題は起きず、この観点からも、『レジ無し』であることは、UXの最大化に貢献します。

(3)人的リソースの発生・・・新たに人員を採用しなくても、レジ業務がなくなることによって、その分の人的リソースが生まれます。

【2】『レジ無しコンビニは無人店舗ではない』という決定的な点

誤解しやすい点ですが、レジ無しコンビニは、決して無人コンビニではありません。レジが無人なだけです。レジ業務がなくなることによって、人的リソースは、リアル店舗にとって最も重要な接客・商品補充、さらには加工といった業務に振り向けられます。ここでもまた、UXは向上します。顧客とのエンゲージメントを大切にするアマゾンらしい施策で、アマゾンはリアルよりもリアルの事を知っている、と言っても過言ではありません。

【3】フルフィルメント・システムのラストワンマイル

これは私の推測ですが、アマゾンがアマゾン・ゴーの店舗網を築くことは、ネット通販のフルフィルメント・システム(受注⇒梱包⇒発送⇒受け渡し⇒代金回収のプロセス)にとって、最後のラストワンマイルを手中にすることを意味します。アマゾンがやるやらないは別として、一般論として、もしコンビニをフルフィルメント・システムの中に取り込めたならば、一例として次のようなことが可能となりそうです。

(1)配送のマッチング・・・狭域のコンビニを配送拠点にすれば、近所の主婦などの一般人による空き時間のマッチングでの配送に最適ではないでしょうか(新たな雇用の創出にもなる)。

(2)ロボット配送・・・狭域であれば、AIの学習の面などからも、ドローンを含めたロボット配送が真っ先に実現しそうです。

(3)再配送の優位性・・・狭域のコンビニを配送拠点にすれば、広域の場合より再配送のコストは少なく、再配送の時間にも融通が利きそうです。

(4)宅配ボックス・・・コンビニは、宅配ボックス設置の有力候補です。

【4】膨大な顧客データの収集

コンビニでの買い物が、アマゾンのアカウントを通して、スマホによるインタラクションに統合され、ユーザーにとっての利便性が高まると同時に、膨大な顧客データが集まるでしょう。アマゾンにとって、リアル店舗のデータは計り知れない価値があるはずです。

【5】アマゾン・ゴーのグローバル戦略は?

コンシューマーの利便性が真に高まるには、アマゾン・ゴーのグローバル展開が欠かせません。どの都市に行ってもアマゾン・ゴーがある、という状態です。はたして、アマゾン・ゴーは本格展開するのか?

【6】システムとしてのアマゾン・ゴーはありうるか?

アマゾン・ゴーの本格展開は、店舗としての展開ではなく、『レジ無し決済システム』、システムの外販もあり得ない訳ではありません。『レジ無し決済システム』の精度が上がれば、客数と品数が圧倒的に多いスーパーへの導入も可能になるかも知れません。

 このように考えてくると、アマゾン・ゴーは、顧客とのエンゲージメントを大切にし、UXの最大化を図った、リアルの課題を解決しつつも、リアルの良さを残したコンビニであって、その可能性は、アマゾンという大きなエコシステムの中でかなり重要かつ大きなものがあるように思えます。

 過去のデジタル・ディスラプションを見るまでもなく、迎え撃つ側に油断とスピードの遅さがある事は致命的です。今回検討した事例に限らず、デジタルトランスフォーメーション(DX)への先行投資、開発投資はもちろん、企業は、社員が一丸となってイノベーションに取り組む体制を早急に構築する必要がありそうです。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31183260R30C18A5ENI000/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29783370U8A420C1000000/

https://comemo.io/entries/7527

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30296070Q8A510C1HE6A00/

https://comemo.io/entries/7500

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