AI電子棚札~効率化のインパクト大きい~

 この記事【AIが店頭価格を自動更新、JDIが新技術を開発】は、ごく短い記事ですが、リポートされている内容にはかなり大きなものがありそうです。

 そもそも、小売店において、売価管理ほど神経を使うものはないのではないでしょうか?膨大なアイテムを扱う業態であれば、その作業量も、それに比例して過大なものになりそうです――

▶手作業での売価管理の課題(棚札がAI化も電子化もされていない場合)(1)売価設定作業~販売価格の決定~①『売価決定』・・・アイテム数が膨大だと、それに比例して作業時間も過大になりそうです。例えば、明日、酒フェアに合わせて、「つまみ類」を安くしようと考えても、アイテム数は膨大で、人手と時間が足りなければ、一部の商品だけに限定しよう(例えば缶詰類だけ)となってしまう。やりたいことが色々あっても、全部はできない。小売店での弾力的な価格政策といっても、現実には出来る範囲が限られてくるのではないでしょうか。②『売価登録』・・・販売価格を決定した後の、PCなどでの価格登録作業も気が抜けそうにありません。手作業でうっかり間違った価格を登録したりすると、レジで打たれた価格と棚札の価格とが食い違って、売価違いが発生し、クレームとなって、ストアロイヤリティが下がってしまうことになります。(2)売価変更作業~棚札の付け替え~③『棚札(POP)作成』・・・積極的に弾力的な価格設定をしようとすれば、それに合わせた新しい棚札を作成する作業もどんどん増えます。④『棚札取り付け』・・・さらに、現場で棚札を付け替える作業も、漏れやミスは許されません。

――手作業での売価管理には、『売価決定』⇒『売価登録』⇒『棚札(POP)作成』⇒『棚札取り付け』といった一連の煩瑣でミスの許されない作業が伴っており、天候などとの相関を計算した弾力的な価格政策が理想だとしても、それを人間の手作業で実施するとなると、人手不足の中、時間的・人員的な制約が壁になって、やりたくても十分には出来ない、というのが現実ではないでしょうか。

 そのような状況を考えると、棚札を電子化すれば、上記の③と④の作業がなくなり、電子棚札が商品などで隠れてしまって電波が届かなかった、などのトラブルがない限り、売価ミスもなくなるので、それだけでも相当な効率化になりそうです。

問題があるとすれば、電子棚札を導入するコストと、電子棚札の見栄えという事になるでしょうか。電子棚札が単色の液晶表示など、限定的な表現しかできないと、手作業で印刷したカラフルな棚札には太刀打ちできず、せっかく売価を変更しても、お客様が気付いてくれなければ意味はありません。

 棚札を電子化すれば、それによって浮いた時間を、上記の①と②に回して、売場でより広範に弾力的な価格政策を実施できるようになるかも知れませんが、それにも限界があると思われます。売場の担当者が休みの時など、ペアを組む代行者に出来る事には限りがあるでしょうし、そもそも、与件に応じた効果的な価格設定をするといっても、売場担当者の経験値と熱意によって大きな差が出るのは明らかです。特に、残業が抑制され、手早く作業を片付けていく事が要求されるようになると、弾力的な価格政策はやりたくても後回しになってしまうかも知れません。

 そこで登場するAI化された電子棚札は、販売データなどを解析したAIが、①の『売価決定』を、より広く深く、継続的に自動で行ってくれる訳で、その効果には今までにない計り知れないものがありそうです。AIが、増え続けるデータによって成長し、また、ベテラン販売員の経験値を吸収するなどして、精度が向上していく事も期待できます。AIが自動で作業するという事は、当然上記の②『売価登録』の作業もなくなる訳で、効率化のインパクトは相当に大きいと思われます。

このように極めて有望に思えるAI電子棚札に、さらに一つ上を行くUX(ユーザーエクスペリエンス)を求めるとすれば――

▶未来の電子棚札①『ヒトとAIの協働』・・・完全にAI任せでは、商売の楽しみも何もありません。人間ならではの気付きを価格政策に反映できるよう、AI電子棚札と販売員がコミュニケーションできるような仕組みがあれば、さらに強力なツールになると思われます。例えば、販売員がAIに、『つまみ類』を全品10%OFFにして、などと指示できれば、煩瑣な作業から解放されて、今まで面倒でとてもできなかったようなことに果敢にチャレンジできるようになるかも知れません。また、AIの決定した価格に異議を唱えられる、修正できる機能も当然必要です。②『多彩な表示の可能な電子棚札』・・・特に目立たせたい商品には、人手で棚札を作成・取り付けする手もありますが、理想的には、PCなどの端末で、多彩でカラフルなデザインが可能な電子棚札があると、訴求効果は一段と増すものと思われます。どんなに効果的な価格政策も、値段が変わったことがお客様に伝わらなくては意味がありません。

 AI電子棚札の導入によって、売価ミスがなくなり、人的リソースを接客などより創造的な業務に振り向けることができるだけでなく、今までなかなかできなかった弾力的な価格政策をAIとの協働の中で継続的に実施できるようになることは、リアル店舗にとってきわめてインパクトの大きい施策だと考えられます。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36180510V01C18A0X12000/

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