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ポンペイの滅んだ日 金子史朗著

久々の読書感想文です。

古代ローマ、ギリシャに関する記述の書かれた本は久しく読んでいなかったのですが、読み始めてから、やはり古代ローマは良いなぁ。としみじみ思いました。

この本では主に、ポンペイとヘルクラネウムの発掘記録、ヴェスヴィオの79年の噴火を火山学的な視点からの分析、発掘品からの当時の推測やそれらから考察した古代ローマなど非常に面白い内容になっております。

私がこの本で興味を引かれたのは、現状ヘルクラネウムは差ほど大きくない遺跡(個人的見解)ですが、実はまだまだ地下に埋まっていると推測されていること、しかし、その上には沢山の住居が建っており、現代人の生活を奪ってまで発掘を進めることはできないということ。
文明社会では許されない行為ですね。

また、ヘルクラネウムやポンペイの地層を調べ、79年の噴火の過程を分析していく記述は、火山学に疎い私にとっては、とても新鮮な推測でした。

そして、最も面白かった内容は、発掘品や遺骨から分かったことです。
ヘルクラネウムで噴火の犠牲になった人間の遺骨を調べた所、非常に高い鉛分が検出されたこと、
また、古代の水道管や調理器具、食器などの殆どが鉛製であったことから、古代ローマ人、とくに上層階級の人間ほど鉛中毒に侵されていたという記述です。

鉛中毒の主な症状に、痛風や極度の腹痛、精神異常や不妊、流産など種々ありますが、当時の碑文や記述から上層階級の人間にその様な症状があったことが記されています。当時、鉛は最も加工がしやすく重要な金属でした。
鉛で加工された食器や調理器具を多用していたことあり、日常的に鉛を身体の中に溜め込んでいたと推測されます。
とりわけ、ワインの製造過程で鉛の含有量は大きくなり、それを毎日飲んでいた人間ほど重度の鉛中毒になっていたとされています。

この鉛に関する記述を読んでいて、すぐに思い浮かべたことは、古代ローマ皇帝達の異常行動や精神的に狂った言動などです。
また、ユリウス朝などでも分かりますが、子孫の数が圧倒的に少ないのが目立ちます。
当時の環境を考えれば、現代ほど行き届いた医療や知識はありませんので、子供が5歳までに亡くなる確率は高いと思われますが、その1つの要因に鉛中毒により、子供が出来ない身体になってしまっていた、ということも充分に考えられます。

また、上層階級の人間に多かったということもあり、時が経つにつれ、文化の担い手になるべき階級の人間が姿を消してしまった事にも、この要因が上げられると思います。

古代ローマの衰亡の要因に「鉛中毒」が上げられることは、新しいことではありませんが、それについて認識していなかった私にとっては非常に納得のいく、新鮮な見解でした。


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