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【香港旅行記⑥(番外編:マカオ)】カジノの国へ

 昨晩あんなことを書いた後に再度寝たら、驚くほどに熟睡してしまい、起きたらもう空港は朝の便に乗る人で賑わっていた。時刻は朝9時、今日はマカオに行ってみようと思う。

 今調べたところによると、香港からマカオに行くには、一度「港珠澳大橋香港口岸旅檢大樓」という長い名前の場所を経由しないといけない。「港珠澳」の名の由来は、港→香港、珠→珠海(中国の市の名前、マカオを取り囲むように立地している)、澳→澳門=マカオの三つを繋ぐ橋だからだろう。他にも方法はあるみたいだけど、高額かつバスの本数が少なかったりと、殆どの人はこのルートを用いるみたいだ。空港から見ると、マカオと逆方向に向かわなければ行けないのは何故なのだろう。

人の波に飲まれて

 香港のバスは、乗車地点から終点までの距離で料金計算が行われるようだ。なので、始点から一駅だけ乗るのが、もっともコスパが悪い。空港から、先に述べた長い名前の地点までは、なんと一区間なのに40HKD(約768円)くらいになってしまう。個人的にどうしてもこれが納得いかないので、歩いてしまった。相変わらずGoogleマップは1時間半と言っていたけれど、30分ほどだった。ただし、歩行者があまり歩かない方が良いであろう路肩や堤防の上などを歩かないといけないルート。多分見つかったら怒られるので、そそくさと歩いた。

 先ほど、マカオと逆側に進むことに疑問を持っていたけれど、着いてみてやっと気づいた。ここが香港側の出国/入国審査の役割を担っているらしく、またそれらの機関を入れるためには、ある程度の面積が必要で、それを立てるのにちょうどいい場所を探した結果ここになったのだろう。マカオという国が、香港という袋の中に手を伸ばしているみたいで面白い。

港珠澳大橋香港口岸旅検大楼 外観
地獄の様相

 やっとついたと思っていたのだけれど、まだまだ先は長かった。入国審査ののち、バスチケットの購入、バスへ乗車という、単純な手順なのだけれど、それらを繋ぐルートがとてつもなく長い。なぜかというと、恐ろしい量の人でごった返しているからだ。往年のトイストーリーマニアくらい混んでおり、交通整理をしないと簡単にパンクしてしまう。先がどれだけ続くかもわからず、また自分の後ろにどれだけの人がいるかもわからない。おまけにみんなおしゃべりで、四方八方が騒音のようにうるさいし、ちょっとの隙間で抜かそうとする輩が沢山いて、それがまた渋滞を加速させていた。

 心を殺しながら並んでいると、「この行き先がマカオじゃなかったらどうしよう」などと考えてしまった。もしかしたら、奴隷船で運ばれる人々もこんな感じだったんだろうか。恐ろしい地獄が待っているとは知らずに、楽園に行けると知らされて嬉々として乗り込む人々…。ありもしない妄想を駆使しながら、なんとか1時間くらいかけて乗車まで漕ぎ着けた。乗車後にアプリで歩数を確認すると、まだどこにも行っていないというのに7000歩も歩いていた。足が既に痛い。

 マカオ側でも、同じ工程が待っていた。入国審査と、市内までのバスを待つ列…。生半可な気持ちで来るところではなかったかもしれない。先に、マカオが香港に手を伸ばしていると書いたが、それは間違いで、香港→国境→どちらでもない場所→国境→マカオという移動だったのだ。距離的にはすごく近いのに、これだけで荷物検査を2回、バスを3回(僕は歩いてズルをしたので2回だったけれど)、入国/出国審査を1回ずつ受けないといけない。国境と言ったけれど、今はどちらも中国の特別行政自治区という扱いである。歴史を知らないからこそ言える発言かもしれないが、もう少し簡便になってくれても良いのに、と思う。

 香港で購入したSIMは、マカオでも使用可能と書いてあったのだけれど、マカオについたら機能しなくて、ネットが使えなくなった。いろいろ試したけどできなかったので諦めて、フリーWi-Fiを使いながら地図だけを利用した。これは8年前の(もう10年近く時が経とうとしていることに驚く…)初めての海外旅行で、当時ドイツに留学していた友達と一緒に、ヨーロッパ旅行をしたときに教えてもらった方法。Googleマップは、オンライン時に読み込んだキャッシュを保存してくれるので、オンライン時に行きそうなところを拡大して読み込んでおけば、オフラインになっても鮮明に見られるのだ。さらには、位置情報はオフラインでも変わらず機能するため、地図機能としてはほとんど困らない。場所の情報(開店時間とか、HPへのリンクとか)はもちろん見られないのだけれど。

ここにきて普通に観光地を巡る

 なので、いつも以上に下調べができない。まあなるようになるさと、人が多いところについていって、適当にバスに乗って、人が一番沢山降りた場所で降りてみた。当然だけど、一番有名な観光地につくことになる。そこがセナド広場だった。航空写真で見ると、白黒の並々模様がとても綺麗だが、実際に歩いてみると、沢山の人だかりと出店によって隠されており、その恩恵をほとんど感じない。

白黒の模様がほとんど見えない

 そこから見える聖ドミニコ教会は閉まっていたけれど、聖ポール天主堂跡は多くの人々で賑わっていた。建築や広場から、ポルトガル統治の影響があからさまだ。この辺は人が多いし、みんな好き好きにスマホを構え出して止まるので、全然まっすぐ歩けなくて辛かったけど、頂上まで行くと流石の景色。やはり人混みは上から眺めるに限る。

聖ポール天守堂跡
聖ポール天守堂跡から後ろを振り返る

 頂上には美術館があった。「天主教藝術博物館與墓室」という名前。(與はandの意味) 墓室という文字を見てテンションがあがる。これは必ずや一見しておかなければならない。中には大きな岩の上に細い十字架が刺さったものがあった。両脇には、白骨が梯子状の棚に並べられている。一緒に入った人々が素通りしていく中、何か面白い部分を探そうと粘ったけれど、特に何も伝わってこなかった。隣の展示室ではキリスト教関連のものがいくつか展示されていた。磔にされたイエスとか、何人かの天使の像など。仏教ではなく、キリスト教関連の像を美しいと思ったのは久方ぶりだ。細部の作り込みも良いし、遠目に見ても綺麗だ。

なぜか緑の色鉛筆で現地スケッチ
マリア様
貼り付けにされている人を描くのってなんか申し訳ない

墓場に惹かれる性

 またも人が歩いていく方向へ適当に歩いていたら、墓場に出会った。皆が視界にも入らないかのように通り過ぎていく中、引き寄せられるように寄り道して行った。

 アプローチからまっすぐ先に明るいエメラルドグリーンの教会が見え、その周りがキリスト教墓地になっている。聖ミカエル墓地という場所で、地図的にはマカオのほぼ中心に位置する。教会の外壁に合わせたエメラルドグリーンの塀で囲われており、墓場に明るい雰囲気を齎していた。この中にいると、まるでヨーロッパに来たかのような風景だが、やはり塀の向こうには、ニョキニョキとビル群が顔を覗かせて、洗濯物や室外機が見えている。ポルトガル統治の影響と地理的な文化が、塀を挟んで対峙している。

Google Earthより、墓場を俯瞰する。配置が分かりやすい。(上方が北)

 入口にある「墓場は神聖(soleamという単語を使っていた)な場所なので、撮影をお断りしています」という看板が目に入ったが、野良猫しか見かけなかったことと、うるさくするわけでもないので、何枚か撮影させていただいた。マカオのご先祖様へ、もしこれを読まれていたら、無礼をお許しください。

 ここで沢山見かけたのは、「十字架肩乗せ型」と、「屋根付き型」。「土地と宗教と国民性が墓場を作る」という僕なりの仮説からすると、ここでは宗教の力があまりに強く、土地のことや、マカオに住む人々の特性が読み解けなかったのが少し残念だった。この土地を四角く切り取って、そのままヨーロッパのどこかの土地に移築できそうだ。

西洋にありそうな墓だ
屋根付き型が多く見られる通り
造形がすごい墓(上)と十字架型乗せ型(下)
こういうグミ、子供の頃好きだったな
スパイダーマンのベンおじさんの墓ってこんな感じじゃなかったっけ
奥に明るい色の塀が見える
墓を見守る教会

真紅のタイル屋根が並ぶ墓場

 塔石芸文館という小さなギャラリーに立ち寄りながら、フリーWi-Fiを用いて調べたところ、そこから北西方向に歩いて行った場所にも望廈聖母墳場という墓場があることを知った。望廈というのは土地の名前だ。

 ここでは、先に見た「屋根付き型」がメジャーであった。しかし形こそそっくりなものの、墓石を守る袖壁、屋根が同じ真紅のタイルでできている。また、柱も、竹を模したであろう自然なデコボコに、何故かオレンジ色が塗られている謎デザイン。9割型がこのタイプで、かなり規格化されている模様。こちらも敷地内に教会が建っていることを鑑みると、教会がオススメしている「型」なのだろう。何故このような作り方をするのか、とても気になったので、歩き回ってヒントを探してみた。

同じ規格の真紅のタイル屋根が綺麗に並ぶ
規格品のスケッチ

 いくつかの発見があった。まず、墓石がとても薄いこと。両脇と背中に壁が建てられているので、一見立派に見えるのだが、墓石自体はほんの2cmほどの厚みしかない。子供でも運べそうな代物だ。また、その壁はレンガを構造体に用いた規格モジュールから成り立っており、それらを組み合わせることで、この大きさになるように設計されていた。これなら工場で生産したのちに、トラックで運んできて、現地で組み立てることができる。経済的合理性を追求している。

 またこの真紅色は、周辺建物の屋根瓦に合わせたと考えるのが妥当だろう。現代のビルは陸屋根になってしまっているが、いくつかの低層建物は、赤色の瓦で寄棟に葺かれている。航空写真で観察すると、この敷地内の教会はもちろん、他にもちらほらと赤い瓦の姿が見える。さらには、隣地の小学校までも、陸屋根の屋上部分に赤みがかったタイルを用いているようだ。この赤は、ここマカオで取れる赤土の色からきているのではないかと予想したが、そこまでは調べられなかった。

墓の建て方
これから墓を建てる準備がされている基壇
写真左手に、モルタルまで塗られた規格モジュール(30cm×45cm×厚み10cm)の壁が見える。
薄っぺらい墓石
屋根部分のアップ
屋根材、鼻隠し、壁側面の仕上げに真紅のタイル、棟と壁背面はモルタル洗い出し仕上げ

 そう見ると、屋根が並んだこの風景が、小さな町のように見えてくる。この風景は、故人に、当時のマカオを思わせる風景で過ごして欲しいという、人々の願いなのだろうか。

夕方の長い影が通路に落ちる
夕陽が似合う墓場
実は、墓場は野良犬や野良猫と出会えるスポット

 続いて、隣の敷地の普濟禪院へ。文物徑で見てきた中庭の形式を横に5つくらいくっつけたような大規模のお寺だった。迷路のように部屋がたくさんあり、どの部屋にも神様がいて、いくつもの中庭に遭遇した。とても面白い空間体験だった。
 裏庭には個人の墓石と市民の納骨堂があり(またか)、庭園の豊富な植物と、休憩スポットが一体化して居心地がよかった。都会の穴場スポットだ。

突然空の見える路地に出たりする
着彩のポリカ屋根により、緑に染まる納骨堂
上から見ると、沢山の切妻屋根が重なる

 街中に戻って、カジノを散策したり(ベンサンジャージでスケッチブックを携えていても、22歳以上だと証明さえできれば入れてくれます)もしたが、終始場違いな感じが否めず、一通り見たらすぐに出てきてしまった。1枚10000円くらいのチップが、トランプの出目によって簡単に回収されていくのを見て、現実の世界とはとても思えなかった。

旅の終わりを控えて

 始まる前は、いつもほんとに終わるんだろうかと思うのだけれど、終わって仕舞えば呆気なかったように思えるから不思議だ。1週間まるまるの休みも無くなって、また明後日から日常に戻る。香港では立ち止まる暇はあっただろうか。路上アーティストが奏でるバイオリンに耳を傾けながら、マカオのビールを頂いた。

現地ビールはとりあえず飲んでみる
マカオの本領はこれから、という時間に帰路につく

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