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今年じっくり聴いたオーディオブック3選(イトウ書店)

2018年も残り1週間を切りました。今年の夏頃から始めたこのブログで投稿を始めてから、社内のごく一部の人からも「イトウ書店」と呼ばれるようになってしまったイトウです。

この数ヶ月の間に20冊近い作品を紹介してきましたが、紹介した作品以外にもオーディオブックを月数本のペースで聴いていました。今年は、自分の中でオーディオブック、音楽、ラジオという3つの音声コンテンツをどう使い分けるか、色々試行錯誤してみた1年で、最近ようやく快適に・自然に使い分けられるようになってきた気がします。

ちなみにとても個人的なものですが、だいたいこんな使い分けに落ち着いてきました。

・単純作業している時や食事の時など、落ち着いて聴けそうなときはオーディオブック。あまり言葉を聴き逃さない、言葉を聴いていても作業に影響が出ないタイミングがいい。たまに、作業する手を止めてただ聴いていることも。

・掃除や洗濯、洗い物など、動き回ったり水の音がしたりする家事をしながら聴くなら音楽(多少聴き逃すことがある)。新しい情報より「いつもの音」に触れたいときや、気分を変えたいとき、考えごとをするときも。

・リアルタイムに情報を仕入れたいとき、なんだか人の声を聞きたいとき、とりあえずいつもの番組を聴きたくなったときはラジオ。(ポータブルラジオが常に卓上にあって、ダイヤルを回すだけで聴けるようにしています)

ちなみに私は移動中に音声を聴かないので、もっぱら自宅でスマホのスピーカーで聴いています。移動中にイヤホンで聴くという方が多いと思うので参考になるかはわかりませんが、皆さんもそれぞれ自分なりのオーディオブックとの付き合い方を見つけていただけたらと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、そんな今年聴いたオーディオブックの中から、特に面白かった、聴いてよかったと思った作品を3つご紹介したいと思います。

サハラ砂漠という“非日常”を痛快に描く!『バッタを倒しにアフリカへ』

1冊目は、このブログでも「非日常系エッセイ」としてご紹介した一冊(その時の記事はこちら)。

バッタ研究者になりたい、むしろバッタに取り囲まれたくてたまらないという願いを叶えてサハラ砂漠に旅立ち、砂漠の真ん中で生活しながら研究し就活もしていたという著者の痛快エッセイです。

2018年の新書大賞を受賞したこの作品、とても文章のテンポがいいので、オーディオブックであんまり集中しないで聴いていてもすっと頭に入ってきます。ラジオを聴いているみたいにだらだら聴いているだけで、なんだかアフリカとバッタと研究者の就活事情に詳しくなったような気がする優れた一冊です。

「バッタなんて興味ない」「あんまり虫は好きじゃない」という人も、一度騙されたと思ってぜひ聴いてみてください。すぐに、予想以上にわかりやすくてとっつきやすい本であることに気づくはずです。年末年始の移動中などにまったり聴いてみるのにもおすすめです。

なお、虫が苦手という方は、少しだけご注意いただければと思いますが、オーディオブックなら虫の写真を見ずにこういう本が読めるのもメリットかもしれません(そういう人は図表のPDFは参照しろと言われても見ないようにしましょう)。

マネジメントの最重要ポイントは「進捗」?『マネジャーの最も大切な仕事』

2冊目はビジネス書です。実際に現場で働く人々の1万超の日誌を分析して、働く人々の「インナーワークライフ(個人的職務体験)」がどのようなきっかけでどのように変化するのかを調査。その膨大なデータからわかってきたマネジメントの新常識を教えてくれる一冊です。

本書で強調されているのは、マネジャーが評価したり、報酬を与えたりすることより、進捗、つまり「仕事が進む」ということが働く人のモチベーションを高めることに繋がる、ということです。

これは、自分自身がどういう時に気持ちよく仕事できているかを考えてみると納得感があると思います。

自分が意味があると思って取り組んでいる仕事、今これをやろうと決めている仕事がちゃんと進むこと。ほかのことで阻害されたり、仕事自体でつまずいて立ち止まったりすることがなく、着実に前に進んでいる実感があること。

これは評価や報酬といったことに比べると一見小さなことのように思えますが、それよりもっと基本的なところで充足し、次の新しいことを考えられる基礎が築けている状態であるという意味で、とても重要なことだと思います。この本を聴いてみて、上司と部下という関係性に限らず、周りが色々手を出したり口を出したりするより「進捗を助ける」ことに注力するだけで、確かにモチベーションを上げることにつながりそうだなぁと思いました。

進捗が最重要であるという点以外にも、「周囲はどのようなサポートをするのがよいか?」「1日をどのように振り返ることが次の日のモチベーションにつながるか?」など、膨大な日誌データやチームの観察から得られた知見をたくさん紹介している、とても示唆に富んだ1冊です。部下や後輩を指導する立場にある人も、自分のモチベーションを自分でコントロールしてパフォーマンスを高めたい人にも、ぜひ一度聴いてみていただきたいおすすめの一冊です。

著者自身の思いがにじむ一冊『余命10年』

3冊目は先日聴き終えたばかりの小説のオーディオブックです。

本書の主人公・茉莉(まつり)は、20歳にして不治の病にかかり、余命10年と宣告されます。様々なことを諦めて淡々とした日々を送っていた彼女でしたが、あるとき友達に誘われて新しい趣味を見つけ、生活は潤いを取り戻し始めます。それでも、10年しか時間のない自分は恋だけは絶対できない。そう思っていた茉莉でしたが……。

このようなあらすじなのですが、「突然の病に倒れた女性の生き方を描いた物語」という紹介では、この作品の正しい紹介にはおそらくならないでしょう。実はこの作品、本書の著者自身が病を抱えながら2007年に刊行後、大幅に修正して2017年に文庫化。しかし、その文庫発売を待たずに著者が亡くなっている、まさに命がけで書かれた作品なのです。

そのような事実を知って読むと、なんだか感じ方も変わってきます。病状が茉莉と同じようなものだったのかはわかりませんが、著者自身が、実際に苦しい状況に置かれていたからこそ書けたものだったのかもしれません。

でも「余命10年」という状況に置かれた人のことだけが書かれた本でもない、というのが本書の魅力。

茉莉が出会う人たちは、それぞれに自分の人生を抱えていて、「余命10年」という彼女自身の状況とは確かに違うけれど、それぞれに重いものを抱えている。余命があとわずか、という現実から逃げられない茉莉の言葉も心に刺さるのですが、周りで生きている人たちの言葉もまた、ほかの苦しみやつらさに耐えながら言っている言葉のような気がして、一つ一つの場面が聞き逃せません。

著者の小坂さんは、自分の状況だけでなく、本当に周りの人の様々な思いをよく観察されていた方だったのだろうなという気がします。

オーディオブック版では、文章の魅力をじっくり味わえるだけでなく、声優の方々の熱演が素晴らしいのでどんどん引き込まれます。登場人物たちの掛け合いも本当に切迫感があって、つい演じられているものだと忘れてしまうようなオーディオブックです。とにかく、ぜひ、じっくり聴ける時間を作って聴いてみてください。本書を聴くと、2019年は1年間でどんなことをしようか、たくさん考えたくなるはずです。

さて、「イトウ書店」の年内の記事は今回で最後となります。年末年始のお休みにも、ぜひオーディオブックを楽しんでくださいね。

みなさま良いお年を!

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