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20時間でたどる「人類の一万年史」

最近、歴史関係のオーディオブックをたくさん聴いているイトウです。

audiobook.jpではビジネス書から人気小説まで、様々な本をオーディオブック化してお届けしていますが、時折「紙で読んだ時と聴いた時で、印象が全然違う!」という本に出会うことがあります。

そして今回は、中でも普通の読書とは全く違う体験ができる、ぜひ一度音で聴いてほしい!と思う本をご紹介します。

大陸から大陸へと渡ったネイティブ・アメリカンの口承史

今回ご紹介するのは、『一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史』(ポーラ・アンダーウッド著、星川淳訳、翔泳社)という作品です。

タイトルにもある通り、この作品はイロコイ族の血を引く著者が、代々、口伝によって語り継いできた「口承史」を基にしています。

ネイティブ・アメリカンの生活が大きく変わり始めていた時代。著者の「祖父の祖母」にあたる女性が、失われかけていた古い伝承を受け継ぎ、後世のために語り継いでいくことを決意します。著者はその古い伝承を父から教わり、この長い物語を英訳して本書を書き上げました。

本書は、ネイティブ・アメリカンの遠い祖先が、もとはユーラシア大陸に生活していた時代から、北米大陸へと渡り、その後も長い間移住を繰り返してきた歴史を語っています。

ユーラシア大陸に住んでいた一族は、天変地異に直面し、突然指導者を失います。彼らは新たに物事を自分たちで話し合い、決めていくことを学びながら、当時まだ海峡ではなく陸続きになっていた「ベーリング陸橋」を渡り、アラスカへ。そして、広大な山脈地帯をへて流浪の末、五大湖の近くにたどり着き、そこに定住することになるのでした。

本書で語られる口承史は、ある一族が伝えた伝承ながら、北米大陸に渡った最初期の人類が歩いたといわれる道筋を正確にたどる内容になっています。はるか1万年も昔から、一族がどのように歩んできたかを物語るこのような伝承が残っていることに、本当に驚かされます。

目の前で語り聞かせてもらえるような臨場感で

このオーディオブックの魅力は、なんといっても、口承史を「声で」実際に語り聞かせてもらえるということです。

結局、南は暖かく北は寒いという理由で、三人のうち二人は南をめざすことになった。しかし、多くの者が〈海辺の渡り〉を見るに値すると考え、またそのむこうには新天地となりうる〈大いなる島〉があることと、南の〈海の民〉を恐れたことによって、三人に一人は〈雪の冠〉とともに北をめざし、彼女の知恵の道に従った。そして、その選択を悔いた者は少なかった。なぜなら、彼らの道は厳しく、前進は困難だったものの、最後には新しい道をみつけたからだ。そう、われらはそのとき北を目指した者たちの子。われらは〈海辺の渡り〉を見ることを選んだ者たちの子。

このような言葉が、きっと長い間、一族の囲む火のそばで語り継がれてきたのだろうと想像すると、とても厳かな気持ちになってきます。

オーディオブック版の朗読を担当されている尾田木美衣さんの声も、静かであたたかく、毎晩歴史を少しずつ語ってくれる語り部のよう。いつまでも聞いていられる気がします。

一族が携えてきたさまざまな学び

また本書は、人類の歩んできた道筋だけでなく、一万年も前の人類社会がどのようなことを信じ、どのようなことを気にかけながら生きていたのかを詳しく語っています。

新しい集団に出会ったとき、彼らはどんなふうに近づいていったか。

もうこれ以上進めない、という断崖絶壁をどうやって切り抜けたのか。

数十人で何年もかかる旅を続けるためにどんな準備をしたのか。

「1万年前はそういう感じだったの?」「はてしない話だ…」と驚くような内容もあれば、人間関係のつくり方など、いまでも十分に通用すると思える学びもあります。このオーディオブック、実は再生時間が20時間もあるのですが、現代社会と比べながら、旅の行方を楽しみにじっくり聞いていくと、飽きるまもなくあっという間に聴き終えてしまうはずです。

読書の秋。いつもと違う読書がしたいなと思う方、じっくり長い作品を聴いてみたいなと思う方にも、イチオシの作品です!ぜひサンプルを聴いてみてくださいね。


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