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[日記]カメが珍しく開けたところで寝ていた

 カメが珍しく開けた場所で寝ていた。

 カメというのは,うちで10年ほど前から飼っているクサガメのことである。お迎えした当初は確かきちんと名前を考えてあったのだが,母が一眼見るなり発した「カメオとカメコ」という安直すぎる名付けが強力すぎて結局はそれで定着してしまった。
 カメコの方は,うちに来て3日ほどで天に帰ってしまった。甲羅のなかに目を閉じて縮こまった小さく丸い姿は今でも覚えている。可哀想なことをした。
 10年も図太く生き延びているのはカメオの方である。こちらはもはやカメオと呼ばれていない。というのは,ある日の事件がきっかけである。
 朝起きた母が,「庭に変なものがある」と怯えるので見に行くと,白い丸い小さなものが数個コロコロしているのである。私は鳥か何かが持ち込んだ石だと思った。が,カメの水槽にはもっと多数のそれが沈んでおり,割れていたものもあった。もちろんそんなのを目の当たりにしたら石だとは思わない。
 卵である。
 推定7歳にして,カメオ,産卵によりメスであることが発覚。
 それ以来,カメオと呼ぶのは違う気がするけれど新しく名付けるのも馴染まない,ということで,なんとなくただ「カメ」と呼称されることになったのがうちの子である。(ちなみに,この卵を嬉々として回収して茹でたり開けたり測ったり,味見までした話があるがそれはまた尺を取るので今はやめておく。)

 カメは夜眠る。人と同じである。見た感じ,明るさに反応して就寝時間を決めているように思う。私が夜遅くに部屋の電気をつけているとつられて起き出してきて物音を立てることが多かった(その節はごめんよ)。眠る場所は基本的に水場か物陰(カメ用に置いた中空のブロックの中)である。それが今日は,珍しく,開けたただの地面で無防備に眠っていた。
 カメにも「寝ぼける」ことがある。小さい頃からそうである。まだ室内飼いだった頃,日光浴のためにベランダに出したのをうっかり暗くなるまで回収し忘れたことがあった。気持ちよく甲羅を干していたら暗くなったのでそのまま寝入ってしまったと思しきカメ,水槽ごと動かしても目覚める気配がなく,人間と同じように舟を漕いだり寝相で手足を伸ばしたりして熟睡していた。人間が近くに来ると普段はなんとなく察して起きてしまうが,そういう日もあるのである。

 カメを飼っていると言うと,「カメ!?(なんでそんなまた渋いチョイスを)」という反応をされることがある。ごもっともである。小鳥や哺乳類と比べれば可愛くないイメージである。しかしカメ,案外見所があって可愛い生き物なのである。今日はそんな話をしたい。

 うちのカメは中庭を自由に歩けるようになっている。カメには広すぎるスペースだが,ちゃんとどこに何があるのか何となくは頭に入っているようである。たまに植木鉢を日光浴に出すと,「なんだこれは」「なんかあるなんかある」「なんだなんだ」と寄ってきて鉢の周りを練り歩く。時々ひっくり返す。
 ちゃんとお気に入りのスポットもある。一つはねぐらにと設置した中空ブロックである。もう一つは水場。そしてなんといっても室外機である。カメ,狭い場所が大好きである。「そこ通りたいの?なんで?無理じゃない?」と思うような場所に,身体が縦向きになるまで頑張って突っ込んでいく。ネコちゃんも狭いところが好きだと伺うが,彼らはスマートに柔らかく通り抜ける。カメはそうはいかない。ゴンゴンゴリゴリキーキーいう。鳴かないのに甲羅と爪による音の存在感がすごい。室外機は壁との間が特に好きである。正直そこに潜り込まれると音が喧しいことこの上ないのだが,あまりの音に不安になって見に行くと本亀は毎度あまりにエンジョイしている。なんとなく,不器用なのに楽しそうなのが面白くて許してしまう。
  
 そのくらいの記憶力はあるが,カメは基本的にアホである。エサの時に顕著にアホである。うちでは特にエサの時間や曜日は定めておらず,カメが「よこせ」とアピールしてバタバタと寄ってきたらやることになっている。カメは餌がもらえる条件をどうも変に認識している。まず一つ,水に浮いたエサしかエサと認識しない。旅行などでうちを開ける時,ふやけてはいけないと外の地面に餌を置いてみたことがあるが,帰ってくると全く食べた形跡がないどころか蹴散らしてある。様子を見ていても見向きすらしない。そして二つ,エサをほとんど見ない。エサを水槽に入れた時点では,「エサない!エサ欲しい!エサ!」とまだバタバタしている。入れたよ〜と言うが通じるはずもなく,扉を閉めた時点で「ん?エサきた?」とやっと水面のエサを探し始める。どうも,エサが落ちてくるのを全く見ておらず,「扉が閉まる=エサが現れる」と認識している節がある。学習能力があるのは立派なことだが,ちょっと庇いようもなくアホである。
 
 他にも,何年も飼って見つけた小さい癖がたくさんある。熟睡している時は手足が卍の形になること。ストレスがかかった時だけ水槽の外でうんちを漏らすこと。枯れた落ち葉のクシャクシャ音が好きなこと。リラックスしている時は足が後ろに伸びる事。甲羅を磨かれるのはどうやら「くすぐったい(嫌だけど嫌じゃない)」こと。顔やお尻が痒い時は左脚で掻くこと。テレビの音が聞こえると寄ってくること。水換え直後は綺麗なのが嬉しくてさっさと水場に戻ってくること。冬眠中でも寒すぎる日は逆に起きてくること。お腹がそんなに空いていなくても「そこにいるならちょっと貰っとこうかな」くらいのノリでエサくれアピールをすること。あとは何となく見ていれば,機嫌の良し悪しくらいはぼんやりわかる。
 カメなのに,である。 
 
 長々と書いたが言いたいことは一つである。

 うちのカメが可愛い。

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