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サッカーの上手さと稲垣祥

自分の知り合いが何人か、キャリアに影響するような「大炎上」をSNSで起こしている。かなりの高確率で「お酒が入っているとき」のツイートだ。大島は今までTwitterから好き勝手な発信をしてきて、ほぼ全くストレスなくやれている。このツールと愛称が良いのかと油断していた。しかし31日になって炎上が起こった。

30日のW杯2次予選「日本×モンゴル」は14−0の圧勝だった。大島はこんなことを呟いた。

https://twitter.com/augustoparty/status/1376865317268250628

当日は平穏だったが、翌朝になってグランパスサポがこのツイートに反応をし始めた。要は「稲垣は上手い」「あなたに見る目はあるのか?」というツッコミである。

確かにプロサッカー選手、日本代表なのだから一定以上のスキルは持っている。これは表現として雑で、「稲垣はレベルが低いけれど、たまたま得点を取れている」と読まれても仕方がない。昨晩の大島はシラフだったが、日本のゴールラッシュ、自分が過去に取材をした選手の活躍に酔っていた。気持ちが大きくなって「どう受け止められるか」「どう広まるか」まで考えが及ばずに呟いていた。

そもそも「上手い」という表現はややこしい。
大枠を言えばこうだろう
・チームを勝たせられる
・得点につながるプレーができる

もう少し狭くいうとこうだろうか。
・ボールを思い通りにコントロールできる
・キックを狙ったところに、ジャストのタイミングで蹴れる

更に細かくいうと
・力の抜けたいい姿勢でボールを持てる
・動作、ボールタッチが細かく正確
・狭いスペースで止めて蹴れる
・浮き球をスムーズにコントロールできる

別の視点から言うと
・狭義の「技術」と正確な判断がかけ合わさって、チームを勝たせるという目的のために活かせる
・人と違う発想を持って実行できる

当然ながら「守備の上手さ」「コミュニケーションの上手さ」もある。ただ一般的にはオンザボールの技術について形容するときに「上手い」という表現が用いられる。

一方で指導者が選手を「上手い」と評する時は、おおよそ裏がある。プロが上手いのは当たり前で、「上手いけれども技術を活かせていない」という場合に上手いという形容詞が用いられる。「上手いけれど○○」というセットで用いられる言葉ですね。

例えば大迫勇也は死ぬほど上手いけれど、だからこそ「半端ない」という表現になる。「大迫上手い」では意味が分からない。本当に上手いという意味を伝えたければ、上手いという表現は使わないほうがいい。

稲垣祥は傑出した選手だ。サッカー通に対して「彼のここはすごい」と説明しようとしたら、色んな切り口が必要になる。大島がその適任かどうかは怪しいけれど、ちょっと書いてみます。

彼はFC東京U-15むさしの一期生で、3年の最後の高円宮杯U-15で決勝進出を果たしている。決勝の相手は宇佐美貴史擁するガンバ大阪で、むさしは延長戦までもつれる激闘の末に敗れた。ただ稲垣は決勝戦でプレーしていない(※準決勝は6分だけ出ている)

同期には碓井鉄平、重松健太郎のような人材がいたけれど、稲垣はほとんど早生まれ(12月25日生まれ)で、フィジカル的に晩熟だった。プログラムが手元にないけれど、確か165センチ・50キロとかだったはず。中高の稲垣については川端暁彦師が詳しいと思うので、そのうち蹴球メガネーズで取り上げて欲しい。

稲垣は帝京高に進学し、高3次には背番号10を背負い、選手権に出た。駒澤の開幕戦に出ていたので取材、観戦した方も多いと思う。稲垣は上手いだけでなくめちゃくちゃ「走れる」「頑張れる」選手になっていたらしい(※その日の私は花園で高校ラグビーを見ていた)

ただプロ入りとか、注目選手とか、そういうレベルではなかった。

日本体育大に進んで、確か2年頃から主にボランチで試合に出ていた。大学時代は私も何試合か見ている。足が速いとか、身体が大きいとか、先ほど上で書いたような分かりやすい「上手さ」があるタイプではない。

ただ彼が大学4年のとき、当時J1だった甲府が彼を獲得した。「(自分が担当していた)甲府が獲るんだ」「どういうところを評価したんだろう」というところから、自分の興味が始まった。

森淳スカウトに聞いた記事があるので、彼が稲垣のどこを評価したのかを確かめて欲しい。

https://www.soccer-king.jp/news/japan/national/20181031/856015.html

入団前と1年目に彼を取材したけれど、人間的には予兆があった。立ち居振る舞いや問答が堂々として、意思の強さは明らかだった。「大きいことを言うけれど説得力がある」という有限実行感が漂っていた。ユニバ代表とか、複数クラブの強豪とか、そういう評価ではなかったけれど「伸びるかも」という雰囲気はあった(華麗なる後出し)

そして甲府では佐々木翔から「ゴローちゃん」の愛称が授けられた。(ショウが3人いた)

どちらかというと弱音が多く、人見知りもあった伊東純也もああやって大成しているので「気の強さが表面に出なければダメ」というわけではない。「内に秘めたタイプ」もいるわけですが、ただプロのアスリートなら意志の強さは大事です。

少なくとも甲府での稲垣はボールによく絡む、ドリブルで運ぶ、隙間からパスを通すというタイプではなかった。よく動いて身体を張る、セカンドをもぎ取るというところで頼りになるタイプだった。

自分は15年以降、町田や柏、他競技の取材が増え、あまり甲府や稲垣選手を見られていない。ただ印象的なのは16年の5得点で、半年だけプレーしたクリスティアーノの7得点に次ぐクラブ2位だった。

加入直後の稲垣は「守備のユーティリティ」という評価だったが、この年はシャドーで起用され、得点にも絡んだ。守備と同様にボールへの反応、飛び込んだり振り切ったりの思い切りが彼にはある。簡単に言えば予測、決断が優れている。

「なぜそこにいる?」という謎に、魅力があった。「上手くても点を取れない選手」はサッカー界に掃いて捨てるほどいて、得点には何かしらの「プラスアルファ」が必要だ。

そもそもストライカーには「上手くは無いけれど、とにかくゴールネットを揺らすのが上手」というタイプが結構いる。日本人なら中山雅史だったり、自分が甲府で見た選手だと佐藤洸一がそうですね。

ゴールは相手の逆を取る駆け引き、ボールの軌道に対する予測、空間と時間の認知、そして反応のようなオフザボールが大事な作業だ。上手くないのに結果だけ出る選手って、ある意味一番すごい。

ただもう一つ、稲垣はプロに入って間違いなく「上手く」なった。モンゴル戦の2点目を見れば分かるように、ああいうミドルシュートを打てる。1点目はともかく2点目は少なからず驚いた。

彼は高校、大学と走ってウエイトをして「ひょろひょろ」から「フィジカルの強い選手」に化けた。ただし技術面でプロ入り後にぐっと伸びる選手は決して多くない。

稲垣はというと、技術的にも成長している気配がある。大迫勇也や南野拓実や久保建英に比べて……となると話は別だけど、グラサポの皆さんから「上手い」と評価される選手になっている。

稲垣の凄みは「コツコツ積み上げる」「努力し続ける」「成長し続ける」ところだ。だからこそ広島、名古屋とステップアップに成功して、多分年俸も上がって、29歳で代表初キャップを得た。その取り組みはサッカー少年・少女のお手本ですよね。

よくよく考えると私は昨年の名古屋を現場で一度も見られていない。ちょうど5月12日の川崎戦を見に行く予定で、成長した稲垣を見るのが楽しみだ。(※日程が変更されたので再検討中でございます)

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