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「シング・ストリート」

原題:Sing Street
監督:ジョン・カーニー
製作国:アイルランド、イギリス、アメリカ
製作年・上映時間:2015年 106min
キャスト:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボーイントン、ジャック・レイナー、Mark Mckenna

 アイルランドもの3本、その最後がこの映画。先週末も満席で「フラワーショウ!」を先に観たが、まさか水曜日の18:50の回が満席とは考えも及ばずレイトショーで観る。
 監督の作品「ONCE ダブリンの街角で」が好きだったのでこの映画は他の2本とは単に「アイルランド」括りではなく若干背景が違う。
 監督の半自伝、前作「はじまりのうた」の高評価、U2ボノの褒めなど、確かにそこそこ集客はあるだろうとみていたがいい意味で予想を外す。
 監督インタビュー『俳優達のオーディションは面白かったです。決めていくにあたり、まるで友人を選ぶように、バンドを作るプロセスのようなイメージで進めました。観客にとっても出演者が友人のようであってほしいから。子ども達には、「寝室に楽器があるか?」と質問しました。そして、あると答えた人を選んでいき、次に演奏をしてもらったんです。他にも「面白い話をして」「ギャグを」など、楽しんで進んでいきましたね。役者になってスターを目指す子ではなく、ただ「音楽が好き」みたいな子を選びました。』と語られているように演技達者ではない分、素人の生徒がバンドを組み、PVを制作しながら成長していく姿は自然。中盤からかなり演奏が上手になるので、この時点で序盤の下手な演奏が「演技」であったことが解る。特にフェルディア・ウォルシュ=ピーロは母親の影響で幼少期から歌のレッスンを受け、7歳と12歳の時にオペラ「魔笛」にプロキャストとして参加し、アイルランドツアーを経験。家族はオペラやアイルランドの民族音楽の世界で活躍というサラブレッドだった、映画の歌唱がrealだったことに頷ける。
 「ダブリンからイギリスが見えるんだ」という台詞が雄弁だ。見えることと其処へ行くことは当然異なる。大不況下で経済的波及は彼らにも来てはいるが大人程の現実に接していない分、まだ夢を見られる。勿論、社会のバランスとしてもそれは救いになる。
 晴れた日には対岸50km先に見えるイギリスは音楽、ファッション、美術を牽引している、閉塞のアイルランドからそこを目指す彼ら。
 不思議と映画を観終わって中一日空けた今日の方が余韻が強くなっている。兄の存在も喩えが悪く恐縮だが香辛料よろしく映画のpointを押さえ、弟を際立たせていった姿が映画を思い出す度に強くなっていく不思議、好演だった。
 大義名分やスキのないシナリオ、豪華キャスト、贅沢な予算…、そうしたものに左右されない、こうしたさりげない映画を邦画として観たい。
★★★☆


 

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