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「フリー・ソロ」

原題:Free Solo
監督:エリザベス・チャイ・バサルヘリィ、ジミー・チン
製作国:アメリカ
製作年・上映時間:2018年 100min
キャスト:アレックス・オノルド、トミー・コールドウェル

 フリー・ソロはロープはじめ一切の身を守る道具を用いず自らの手足と身体能力のみで岩壁を登る。その登攀姿は登山の一部としても一歩どころか一瞬の判断ミスで死へと繋がる滑落という危険性を孕みロッククライミングとでさえ一線を画するようにみえる。

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 彼が臨んだのは、カリフォルニア州ヨセミテ国立公園にそびえ立つ約975メートルの断崖絶壁エル・キャピタン。

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 予告の時点で観ているだけでこちらが足が竦むようだった。
 どうしてこうれほどまで過酷なスポーツが存在するのか、正直理解できない。そう感じながらも惹かれるものがありドキュメンタリを観た。

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 驚くべき映像はスタッフの方々もまたクライマーであるから成せる技。ここにもまたCGを不要とした作品が出来上がる。
 一回目のチャレンジを途中彼は中止し、カメラの存在(位置)を変えてくれと要望する。本来、一人で登攀する世界に誰かが視界に入ることは集中に関係することは登らない私にも理解できる。

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 彼だけが見ることが出来る世界が其処に在る。
 一度登攀を始めると、もう引き返すことも出来ない世界にそれは在る。恐怖に打ち勝つ精神無しにはその信じられない威圧する岩壁は制覇不能だ。

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 父の死後から移動だけでなくほぼ住むに等しいバンでの生活。生活自体もシンプルで無駄がない。というより必要な物・事を把握している彼。
 無謀とさえ見えるフリーソロを支えるのは、鍛錬と経験。
 ドキュメンタリが進んでいくと、決して彼が向こう見ずな人ではないことも解る。緻密にクライミングを記録し感情までもコントロールしていく姿が、陸上のスプリンターをはじめとした一人で臨むスポーツ選手姿と何ら変わりないことに気付かされる。
 只、あまりにも「死」が近くにあり過ぎることが彼らとは異なる。

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 半日も要せず、登攀不能とよばれたエル・キャピタンを登り切った彼の笑顔は最高だった。

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 写真左は監督の一人ジミー。スタッフとの信頼関係があってこの記録も撮れたのだろう。作品内でもスタッフの方が何度か「もうこうした(死があるかもしれない)仕事はしたくない」と呟くほど、彼を取り巻く人々も一つになったドキュメンタリだった。
 彼が「寿命を全うしなくてはならないの?」と問う。
 彼がこの先も家族を持たず親になることもないのであれば、生を実感する世界に居続けることは可能だ。家族や家庭と共存するにはこれもまた絶妙なバランスを要することを途中から入るガールフレンドとの関わりで見せる。

 この登攀の為に一年の準備期間を要したこと。ロープを使ってのコース確認ではトミー・コールドウェルらが付いてくれたことも心強かった筈。単に成功のその部分を収めたドキュメンタリではなかったからこそ、ドキュメンタリを超えてストーリーが存在したようにみえる。
 完璧があってこその登攀成功を彼は冷静に淡々とこなしていった。ドキュメンタリの長さがあったからこそ伝わった部分でもある。
 観終わって、彼への誤解は解けた。
★★★★

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