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「ホテル・ムンバイ」

原題:Hotel Mumbai
監督:アンソニー・マラス
製作国:オーストラリア・アメリカ・インド
製作年・上映時間:2018年公開 123min 
キャスト:デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ、アヌパム・カー、ジェイソン・アイザックス

 2008年インド・ムンバイ同時多発テロでテロリストに占拠されたホテルの一つ「タージマハル・パレス・ホテル」を舞台にしたテロ占拠から救出までが描かれる。

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 作品は事実に基づき忠実に描かれている。冒頭、穏やかな海から捉えたホテル全景ではあるが、嵐の前の静けさ。そして、同じフレームの中に嵐の核とも謂える武装グループが映る。11月26日午後8時10分テロリストのボートが着岸し、同乗10人は夫々の役割の地へ分散していく。

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 救援部隊が来るまでの攻防に民間人であるホテルマンが500人に及ぶ宿泊客の命を守る姿にはことばがない。この三日間に銃撃ばかりでなく、6回の爆発とホテル内数か所の火事も含まれる。

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 全く救出の見通しどころか、ホテルが置かれている正確な状況把握も不能な中ホテル側はそれでも宿泊客の安全を図る。
 その際、家族の安否確認の為自宅へ戻る従業員に対し「帰宅することは決して恥ではない」と厳格を絵に描いたような料理長の言葉は印象に残る。命をかけた行動を強いる側の正常な感覚に従業員は救われたに違いない。

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 銃の前には何も手立てがない。自己を守りようがない。素手で防御もできない。冷静に隠れる場所も探せるのか。
 文字で表すとこれほどまでにシンプルなことが2時間近い作品中に何度も何度も頭の中を廻った。
 一年に一度は海外へ旅行に行く。その旅行先でテロに遭った時、もう成す術がない、と改めて自身に言い聞かせた。緊急時の英語を聞き取ることもおぼつかない状況で身を守らなければならないのだ。

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 「ジハード」、銃を持つ側には勝手な独り善がりな理由があっての行為であっても、それがテロと呼ばれる時、そこに皆が納得する正義はあるのか。
 あなたたちが仰ぐ神はそのようなことを本当に望まれるのか。信仰の道を意図的にずらされ洗脳された結果、無念に旅行先で死んでいく人の思いなど彼らはトレースできず、暴走したまま単なるコマのまま死んでいくテロリストに育て上げられた若者ら。
 作品の中にはシク教徒、イスラーム教徒、キリスト教徒と様々な人種と同様に宗教の多様性があった。テロリストにはこの多様性に理解は及ばないのかもしれない。

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 日本のホテル事情は再編続くスーパーストアと変わらない状況で、強者に飲み込まれ統合され続けている。経営費節減の為、ホテル内仕事内容の分業化が進み派遣社員が多くなった時に、この作品で描かれたような「ホテルパーソン」としての矜持は生まれるのだろうか。
 スマートフォンがホテル内離れた家族の連絡手段になる一方で、ネットワークはテロリスト集団にも情報が共有され諸刃の刃。この部分は大きく割かれてはいなかったが、今やインターネット存在は無視できない怖さと感じされられる。意図していない一個人のブログ情報(現場実況)が何かを動かすことも起こりうる。

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 同時多発テロ事件の死傷者数は死者171名、負傷者284名。死者の多くがホテル従業員の方々であったとこのこと。ご冥福を祈ります。
★★★☆

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