楽園

「楽園」

監督:瀬々敬久
製作国:日本
製作年・上映時間:2015年 129min
キャスト:綾野剛、杉咲花、佐藤浩市、柄本明、村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすか、根岸季衣

 地方で起きた少女失踪事件と同じくある村で起きた事件。
 原作は吉田修一氏の短編集『犯罪小説集』。この中の二編「青田Y字路」と「万屋善次郎」がこの作品では一つにまとめてある。

楽園3

 田園のシーンから始まった。田舎に限らず実際に住まない限りは作品の何処までが作られた世界かは判別出来ない。それでも、その作られた世界であっても全編通して通奏低音のような閉塞感に包まれる。
 二短編を敢えて一作品にしたことで一つの村が舞台となる。つまり、限界集落が抱える問題に加えて事件が度重なることは村にとっては悲鳴を上げるほどの設定の厳しさだ。観る側も正直辛い、重い。
 法治国家でありながら、村に於いては同調圧力の方が有効に働きヘイトどころか村八分を誰も咎めない。

楽園2

 人の悲劇を動画に収めるシーンがこのお二方の後ろで演技される。背筋が凍る世界だが、都内で事故現場に遭遇しても似たようなことが起こっていることを考えると現実の方が残酷なのかもしれない。
 人身御供と承知でそれを見て見ぬふり。火の粉が自分にかからなければそれでいい。その文字通りを絵にしたシーンだった。

楽園4

 東南アジアから見て日本が楽園なのか。観光と居住には大きな開きがある。加えて、どういう形で日本に入国してくるのかで生活の質が変わる。
 中村親子が底辺から上がれないまま暮らすその様子は決して誇張はされていないのだろう。紡(杉咲花)から「自分のことを誰も知らない土地へ行きたい?」と訊かれた豪士(綾野剛)が「どこに行っても同じ。そうだったから。」と力なく答える。母国にも帰国出来ず夢見て連れて来られた日本は親子に対して優しい国ではなかった。

楽園1

 佐藤浩市、綾野剛、黒沢あすか三方の演技が特に印象に残る。どのような役柄でもこなしてしまう姿は柄本明、根岸季衣ベテラン俳優とは違う期待感を生む。配役は十分に揃えられ濃密な隙さえ無い世界が作られていた。
 特に終盤、佐藤浩市氏が土を食べるシーンは、台詞を超えていた。

 楽園は現世ではどこにも無い世界なのか。
 軌道修正が効かない世界は生きる気力さえ奪っていく。
 最後まで犯人は誰だったのか、と見方によっては分かれる描き方が気になった。モデルとなった今市事件をもう一度調べ直してこの作品の描かれ方に納得がいった。
★★★

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