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「ハクソー・リッジ」

原題:Hacksaw Ridge
監督:メル・ギブソン
制作国:アメリカ・オーストラリア
製作年・上映時間:2016年 139min
キャスト:アンドリュー・ガーフィールド、ヒューゴ・ウィービング、ルーク・ブレイシー

 どれほど膨大な資料に基づき検証された史観であってもそれは一つの考察であるように歴史においてこれが唯一という真実は存在しない。同様に戦争に関しては両者が勝者と敗者に明確に別れる為に尚の事「同じ戦い」を描いても様相は一変する。
 この映画の予告はかなり長く映画館で見せられていた。腑に落ちなかったことは公開「間際」になって舞台が沖縄と流れ始めたことだった。敗戦国である日本、映画の舞台がある日本での公開にあたってこの姿勢は如何なものか。
 元々映画を観るにあたっては先入観で邪魔されたくないこともあり監督、キャスティング他は調べない。それでも今回の件は喉に刺さった小骨状態で、中々映画館までの距離が埋まらないまま上映館が急になくなった今になってやっと観てきた。

 上記の一枚が現すように全てが描かれている訳ではない。描きたいことだけが映画になっている。「今更何を」的発言であるが、描かれていないところが日本の事情な為に、予想通りにこの部分に私は拘泥してしまった。
 キリスト教セブンスデー・アドベンチスト教会信者の主人公が聖書の「十戒」の一つを守る為に銃を持たず衛生兵として戦った。映画でも描かれているように彼は良心的兵役拒否では決してない。真珠湾攻撃に怒りを持ち参戦した青年に変わりはない。(*台詞でもあり)只、銃を持つことを拒否した兵士。
 アメリカ側にとって「美談」であっても、この映画では沖縄戦の酷さは美談を引き立たせるためにあるに過ぎない。この戦いに巻き込まれた浦添村の住民の44.6%が死亡したことは影さえない。

 映画の中とはいえ、戦場で殺されていく日本兵を観ていることはとても辛かった。この感情は日本人なのだから致し方ないことではあるが。
 戦争末期、追い詰められた日本にとって沖縄戦はもう精神というもので戦う場だったということが何一つ触れられず憎い相手としか存在しなかったのは悲しい。救いだったのは衛生兵ドスが日本兵も救ってくれていたこと。

 父親役ヒューゴ・ウィービングの演技が印象に残る。戦争(第一次世界大戦)の大きな傷跡を心身に残し壊れながらも戦争を美化しない。二人の息子が兵役志願することを上辺繕って認めることもしなかった。

 映画の後、調べていく中で浦添市役所のコメントに気持ちが救われた。
 予告編に「沖縄」「前田高地」の言葉がないことに関して:
 「その点に確執はありません。なぜなら、浦添で起こったこと自体が重要なのではなく、映画という入り口から、多くの方に平和についてあらためて考えてほしいから」
 映画をご覧になられた方の中で沖縄側を知りたい方は浦添市役所H.P.をご参照ください。
★★☆


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