全身編集者

[全身編集者]

初版発行:2019年5月16日
著者:白取千夏雄
出版社:おおかみ書房
ジャンル:自伝*半生記

 「伝説の雑誌「ガロ」元副編集長が語り下ろした半生記・半世紀。
師・長井勝一との出会い、「ガロ」編集としての青春、「デジタルガロ」の顛末と「ガロ」休刊の裏側。
慢性白血病、最愛の妻の急逝、悪性皮膚癌発症、繰り返す転移と度重なる手術という苦難の中、それでも生涯一編集者として生きた理由、「残したかったもの」とは……」 *おおかみ書房H.P.より

 「ガロ」という雑誌は視覚的に見たこともなければ、普段コミック類を殆ど読むことが無い為に書かれている漫画家の方々の名が挙がっても正直響くところはなかった。
 又、インタビューを起こした文章を敢えて生かした文体の為、慣れるまで多少時間を要した。全くの部外者的立場から読んだ一冊ながら、まるで映画を観ているような臨場感さながらに読了する。

 読みながら三浦 しをんの「舟を編む」を更に時代を遡り昭和ど真ん中家内制町工場的世界にしているように映りもした。
 一人何役もこなす編集者、返本が所狭しと積み上げられた階段、廊下。それでも、そこで一冊の雑誌を出版するために少数精鋭で動く中、原石を見つけ磨く作業の喜びが伝わるようだった。

 映画「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」の台詞に「私がヘミングウェイであっても君はこんなにカットを求めるのか」とフィッツジェラルドが激昂する場面があった。それでも、蓋をあけると編集者の作品ではなく確かにフィッツジェラルド自身の本になっている妙。
 本の編集で見られる風景だ。この「全身編集者」の中でも、「此処では手を加えずそのまま出版する」というくだりがある。その出版社の趣旨が好きで原稿を持参する人々があるとも。

 この本の表紙を外したところに台割表が印刷されている。

 本というアナログ世界が時代の流れでデジタル処理をされ一見合理的に進歩したように見えることと引き換えに、こうした血肉が通った宝物のような本に巡り合うことは難しい時代になった。

 白取氏は死期が迫ってもこの本の出版は諦めてはおらず、ご自身の死後の作業段取りを冷静にされている。最終作業は本にもあるようおおかみ書房編集部が著者ブログ「白取特急検車場」を元に加筆・校正しての出版。
 どうか、途中飛ばすことなく最終章までお読みください。


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