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「ワイルドライフ」

原題: Wildlife
監督:ポール・ダノ
製作国:アメリカ
製作年・上映時間:2018年 105min
キャスト:ジェイク・ギレンホール、キャリー・マリガン、エド・オクセンボールド

 1960年代、14歳の息子が居る三人家族の崩壊を静かに描く。
 「ゴールデン・リバー」同様ジェイク・ギレンホールはこの作品でもポスターに出ているほどは作品全体に登場はしない。只、「不在」の形で常に意識はさせられる。

 一家に数台車がある裕福な家ではなく、基本父が運転する車。彼が乗車のシーンは後の不在の為か前半よく撮られている。

 三人家族故に可能な「二人を写す」ことで、もう一人もまた存在するシーン。父の回想シーンさえなく、自宅にある黒電話が鳴っても一回父と息子が短い会話がある程度。

 仲が良い父と息子の姿から作品は始まるが、1960年代の親子関係はアメリカといえどもまだ父権、そして、夫が強い男社会だ。

 事情有ってカナダ国境に接するモンタナ州に転居する。一人息子ジョーは学校の優等生名簿に載るような問題を抱えない子だ。母は非常勤教師をしたこともある。家庭としては荒んだ底辺では決してない、只、経済の歯車が元に戻らない。
 父親は、その状況から逃げる為なのか微々たる収入でも確実を取ったのか、1ドル/1時間のボランティア森林火災へ出向く決断をする。死と背中合わせの仕事を前にした父子の抱擁は覚悟もあったはず。

 一方、残された妻は生活を支えなくてはならない。彼は通帳どころかポケットにもお金がない状態で山へ向かう。妻ジャネットは現実の厳しさと心の支えでもある夫ジェリーも居ずに少しずつ、堕ちていく。
 父の孤独、両親の不和、母の不貞、この中の一つだけでも十分に14歳の子を悩ませる。可哀想に全てがこの優しい息子ジョーにかかってくる。

 息子ジョーの視線で親の苦悩が描かれる。ジョーは自分を弁えているのか親に意見することもなく、その状況を受け止めるしかなかった。

 母が自分の不貞の場へ息子を連れていく非情さ。彼女もおそらく最低のことをしている自身を自覚し、その上で崩壊を選らんでいる。
 キャリー・マリガンの「表情」が見事だった。確かに化粧は次第に濃くなってはいたが、まるで衣装を変えるかのように化粧を超えた表情。
 彼女が常軌を逸した行動から戻る姿が台詞を敢えて使わず演技で見せる。

 森林火災ボランティア活動から戻った後、同時に父ジェリーは定職も得ながら家族は崩壊から逃れられなかった。けれども、再生の家で使われているテーブルはこれまで使ったいたテーブル。ジェリーは全てを捨てた訳ではない。別居の妻へ資金援助の提案もしている。

 アルバイト先写真館店主に「ポートレートはしあわせの記録」と教えられていた。そうであれば、この一枚はunhappyではないのかも知れない。

 最後に原作者リチャード・フォード氏のコメントを紹介したい:
「私の本に興味をもってくださり、とても嬉しいです。しかし、私は次のことも言わねばなりません。それがあなたを励ます言葉になることを願いながら。つまり、私の本は私の本。あなたが作ろうとしている映画は、あなたの映画だということです。私の小説に対するあなたの映画製作者としてのリスペクトは強く感じており、全く心配していません。あなた自身の価値観、方法、目標を構築してください。そして、この小説は忘れてください。そうすれば、妨げになることもない。それが映画化に向けて、一番良い方法だと思います。」*公式「ワイルドライフ」H.P.より
★★★☆

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