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「ビューティフル・ボーイ」

原題:Beautiful Boy 
監督:フェリックス・バン・ヒュルーニンゲン
製作国:アメリカ
製作年・上映時間:2018年 120min
キャスト:ティモシー・シャラメ、スティーヴ・カレル、モーラ・ティアニー、ケイトリン・デバー

 今回の作品は鎮痛剤依存症から始まる薬物障害ではなく、最初から入口は覚醒剤だ。「ベンイズバック」同様に主人公が10代であることが痛ましい。
 また、この作品も実話を元に描かれている。

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 薬物依存になってしまった息子を離婚した両親と義理の両親との関わりの中で立ち直る過程の一部を描く。
 予告、或いは批評でも主題である薬物依存症を終始語っているが、観ている間も、作品終了後も私の中に残った印象は異なった。
 「ベンイズバック」と同じく、ここでもステップファミリーである。1980年をピークにアメリカの離婚率は下がってきてはいるが世界の中で見ると2位と相変わらず高い。それでも、映画の舞台が2作品ステップファミリーと続くと傾向なのか偶然なのか考えてしまう。

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 主人公ニックの場合、4歳の時に両親が離婚している。映画の中でも幼い子が離れた両親間を行き来する場面が描かれているが、それは「大人側」視線であり子らが受ける傷、負担、愛の葛藤は計り知れない。
 ニックが描く絵はその深い闇を投影していることは誰が見ても明らかだ。
 11歳の時に父親はニックのバックパックにマリファナがあることを見つける。小学校5,6年生、あまりに始まりが早い。離婚は子らから「こども時代」を取り上げる。そうでもしなくては、不条理に置かれ、親の都合で世界を一瞬で塗り変えられた子は生きていけない。
 薬物の存在は最初から容認などしない、未成年が容易に入手できる世界は問題である。

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 救いを求めるニックの姿が自業自得とは捉えられないほど、痛ましい。
 元両親は互いに責任をなすり合う、ニックの前ではなくともその空気は伝わるものだ。元夫婦は夫々に再婚相手と「平穏」に暮らすが、ニックは振り子のようにその二人の間を行き来する。
 麻薬の世界に入り込む誘因がこの孤独だとすると、解決すべきは表面の依存症だけではない。

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 インタビューの中で「子供が別の病気を患っていたら、私たちは何を経験してきたかについては開かれているでしょうが、薬物中毒は汚名と恥と罪悪感を伴います。」と「沈黙の中で苦しんだ」とも父デヴィッド氏は語る。
 映画化の話が持ち込まれた当初、自分たちの人生の話を他の人に引き渡すことに不安を感じていらした。それでも、「我々は二つの理由で前進することに同意した。第一に、私たちはハリウッドの決まり文句や中毒についての固定観念を避けたストーリーを語るというプロデューサーのコミットメントに感銘を受けました。第二に、私たちは苦しんでいるより多くの人々に到達する方法として映画をみました - 彼らの経験を肯定し、慰めを提供し、彼らが一人ではないことを示します。」

 「孤立と沈黙が問題を悪化させます。私たちの物語を共有することは万能薬ではありませんが、私たちは一人ではないことを思い出してください。」
 父デヴィッド氏のこの深さが、結果としては救いが見出せないかのように見えた薬物依存症克服から目をそらさず、諦めずに戦えたのだろう。
★★★☆

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