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占いと預言のジオメトリー ~後書き~

 noteに登録して約一か月、mixiに描いていた作品で安定したヒット数を上げていた連作短篇を再編集+補遺を追加して公開させて頂きました。まず最初に読んで頂いた皆様にお礼を申し上げます。ありがとうございました。
 そしてmixi版の後書きと、今回追加した分の後書きを書いて仕上げにしたいと思います。

(mixi版あとがき)
 簡単にではありますが、占いと預言のジオメトリーの解説を書いておきたいと思います。
 当初は他の作品の合間に三篇ほどの簡単な物を書こうと思ってましたが、その間にT.S.エリオットや古典作品など色々なものを読んでアイディアや手法を試したくもあり、最終的には6+2篇の思ったより大きな短篇群となってしまいました。
 では二篇の詩を除いて六篇解説して行きます。
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Ⅰ.ラプラス
 非常にシンプルな預言の物語ですが、ある意味この短篇集全体の基礎となる話になります。
 語り手のラプラスの名の意味も「アリアドネ」で語られる事になり、曖昧でぼやけてるからこそ『占いと預言』の全体像をなんとなく感じてもらえれば嬉しいです。

Ⅱ.クマエのシビュラ
 古代ギリシアの預言の巫女シビュラと、十字軍のテンプル騎士団の物語です。
 クマエのシビュラと言うのはなかなか象徴的な存在で、ギリシアのみならずローマ時代、更にキリスト教に置いても最高の預言者として”シビュラの預言”という福音書が書かれたり、システィーナ礼拝堂などに描かれ、近代になるとキリスト教神智学のアカシックレコードの元ネタとなった存在です。
 キリスト教成立の中で、”シビュラを収めた箱”=聖杯あるいは聖櫃、と変遷していったというアイディアは思いの外、聖杯伝説やテンプル騎士団の伝説と矛盾がなく、すんなり描けた一本です。

Ⅲ.ラオコーン
 こちらはチトー政権下のユーゴスラビアで、チトー側近のランコヴィッチ、ジラス、カルデリの3人の群像劇と、その後のユーゴスラビアを描いたものです。
 既に予見されていた内戦、民族紛争を回避出来なかった悲劇ですが、トロイア戦争の時代の頃の悲劇を何処か髣髴させる史実だと思います。

Ⅳ.デウス・ソル・インヴィクトス
 円錐の話を一本描いておこう、と言う事で書き始めました。
 物語は近未来で、円錐をモチーフに対話形式で進みますが、更に一つ付け加えておきたいのが、円錐は宇宙モデルやカオス理論の時間軸モデルの一つでも有るという点ですね。
 いずれも確定した現在は一つの頂点で、未来に行くにしたがって円が広がって行き、不確定要素が増えていくという形です。

Ⅴ.フラウィウス・ヨセフス
 帝政ローマの実在の人物、フラウィウス・ヨセフスに関する物語です。
 彼の場合は預言者ではなく優秀な外交官であり歴史家でありましたが、サバイバルの為に預言者にならざろう得なかったという稀有な人物で、彼の物語にほぼ手を加える事はなく、ほぼそのままで短篇群の中に馴染みました。

Ⅵ.アリアドネ
 序盤はエピグラフに用いたボルヘスの「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」(伝奇集に収録)をなぞり、そしてアメリカとガイアナに実在した「人民寺院・ジョーンズタウン」の話へと流れていく物語です。
 昨今の世界情勢の影響を大分受けて、カルトや教義に対するアンチテーゼが幾分強くなった感じにはなりましたが、Ⅰ.ラプラスと対を成して一つ形にはなったかな、と
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 全体的に、実際の事件や歴史との境界を積極的に壊していった短篇集です。
 二篇の詩は夢と現実、確定と不確定、未来と過去、自分と他人、と相対するものの差は実は僅かしかない、という六篇の物語の補足的な役割だと思って描きました。

 まだまだ未熟で書き直したい部分も多いですが、これからも色々描いていこうと思います、ではー(以上、mixi版)
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ここから追加した補遺の後書きになります。

補遺Ⅰ.モーリスの寓意
 『ボレロ』『ソナチネ』などで知られる音楽家モーリス・ラヴェルの最期に関する逸話です。これもまたシンプルに良く知られた事実に手を加えずに記述したものです。ですが、記憶喪失の後に『亡き王女のためのパヴァーヌ』に感動したというのは、やはりフォークロアや寓話めいていると私は感じます。そこは読み手の皆さんの感じ方にお任せしたいですね。

補遺Ⅱ.モンスの天使
 これはコラムという事もあり、追加の解説は必要ないかと思います。会えて付け足すとしたら、「報道や情報は、誤謬や詭弁で読み手を騙してはいけない」という鉄則と、「物語と創作物は、どれだけ読み手を心地よく騙せるか」という相反する存在意義が、混じり合ったり入れ替わったりする事が度々ありますね。

補遺Ⅲ.聖都の落日
 孔子、ソクラテス、釈迦、キリストと、初期の宗教~哲学者は全員書き言葉を利用せず、対話とディスカッションのみで思想を伝達した、という記録をベースにしています。特にソクラテスは書き言葉を忌み嫌い問答法を突き詰めた、とも言われますね。
 この短篇に付け加えたいのは、確かに書き言葉の欠陥と言うのは非常に大きいのですが、文学はある意味、その欠陥をどれだけうまく利用するか?が本質と言えます。言語~特に書き言葉に関するテーマも、これから何度も描き直す事になる物語だと思います。
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 今回noteに登録した事で、過去作の再構築と連作のテーマを大分明示出来たのが良かったと思います。noteの使い方に慣れてきたので、徐々に新作を書いて行きたいですね。
 宜しかったらコメントや感想など頂けたらとてもうれしいです!

拓也 ◆mOrYeBoQbw

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