橋を見ることに 意味はない

友人の実家がある街に架かる橋を見たかった その年の初夏 最後に友人を見送った時 目に映る 彼の背中は スカスカだった 黒い穴が空いているように見えた 立つことも 歩くことも しんどそうだった 存在する力が薄れていた それからすこし経った頃 さらにつらそうな声を聞いた そのうちに連絡もなくなった  橋を見に行った 彼が若い頃  酩酊していたかもしれぬ 場所を歩いた 赤い大きな橋を前に 気配に耳を澄ませた 気配はなかった 駅でかしわうどんを食べて 海沿いを歩いた  翌年になって ふいに電話が来て 再会した 話を聞きながら 背中をさすった 「この背中 去年 最後に会ったとき スカスカに見えたよ だから 気になってた」 「早く 言ってよ」と友人が言った 背中をさすることに 意味はない  橋を見ることも 意味はない ただ存在を肯定したいんだ そのあなたの軸は   あなただけのものだと  
 

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