見出し画像

Deep Communication ②なぜテキストメッセージはすれ違いが起きやすいのか

チャットやメールなどのコミュニケーションツールの拡大によって、ビジネスでもプライベートでも、気軽にたくさんのメッセージを交わせるようになったものの、私たちは「メッセージをやりとりする相手が自分が必要としてたものを適切に満たすことができていない」という課題を抱えているということを前回(「Deep Communication ①便利になって心の距離は近づいたか」にて)ご紹介しました。今日は、テキスト(文字)情報と、音声情報に含まれているものの違いについて書いていきたいと思います。

1. 声や音に含まれる情報の種類

たとえば、チャットやメールなどで「元気?」というメッセージが来たときと、電話などで「元気?」と言われたときを想像してみてください。後者の方が、同じ言葉でも「色々なこと」を感じるというイメージが湧くのではないでしょうか。

それは、声や音にはテキスト(文字)よりも多くの情報が含まれているためです。

声や音に含まれる情報は4種類に分けることができます。

ここからは、ビジネスシーンをはじめとし、人と人とが音声を使ってやりとりをすることを前提とし、声や音の情報をまとめて「音声情報」と表現します。音声情報は、聴覚で受け取ることのできる情報全般だとイメージしていただければと思います。

<音声情報に含まれる情報>
① 声を発する人の心の状態
② 声を発する人の身体の状態
③ 話しをする相手との関係性
④ 声を発する人の周囲の環境

① 声を発する人の心の状態
言葉で「元気だよ!」と言っていても、「あ、この人はなんだか元気がないぞ」と感じることもありますよね。私たちは、言葉の意味ではなく、相手の心がどのような状態なのかを、無意識に、でも敏感に察知しています。言葉以外の意味をどのくらい受け取ることができるかには個人差がありますが、相手の心の状態というのは、何かしら声に現れています。

② 声を発する人の身体の状態
声は私たちの身体の中を伝わって出ている波とも言えます。そのため、その波には「どのような空間を通って出てきたか」という情報も含まれることになります。咳などの直接的な身体の調子を表すものはもちろんのこと、「鼻が詰まっているような感じ」「声がこもっている感じ」などから、私たちは相手の身体の状態についての情報も受け取っているのです。

③ 話をする相手との関係性
言葉遣いもそうですが、人は相手との関係性によって、声の高さやトーンなども無意識に調整しています。同じ職場の中でも、「提案者」として話をするときは、ざっくばらんにディスカッションをするとき違う調子の声を出しているのではないでしょうか。今はあまりないかもしれませんが、携帯電話が1人に1台普及する前、自宅に1台家庭用電話機があった頃は、「外からかかってきた電話に『○○でございます』と高い声で出たものの、相手が家族と分かった瞬間に声が変わる」ということもありました。このように、人は相手との関係性によって無意識に声色を使い分けているのです。

④ 周囲の環境・状況
電話では、相手の声だけでなく様々な環境音(周囲の音)もやりとりすることになります。外回りをしている営業マンから社内に電話がかかってきたところ、電話の向こうから電車のアナウンスが聞こえ、「ちょっと急いで机の上を見てほしいんだけど」と言われたら、「相手はこれから電車に乗るところで、急ぎで探しているものがある」という状況を想像するでしょう。電話をかけた相手が「もしもし」とヒソヒソ声で電話に出たなら、今は話がし辛い状況であるということを説明されなくても分かるかもしれません。こんな風に、私たちは音声情報に含まれる声以外の情報からも、話をする相手が身を置く環境や状況を瞬時に受け取っているのです。

2. 声や音がなぜ多くの情報を含むことができるのか

それではなぜ、声や音はこれだけたくさんの情報を含むことができるのでしょうか。それは、声や音の「多元性」に関係しています。
ここでは多元性とは、「複数の要素(基準)があること」を示しています。

<音声情報の持つ要素>
① 音の大きさ
② 音の高さ
③ 音の長さ
④ 音の質
⑤ 間

これらの基準が組み合わさって、私たちは先ほどご紹介した4種類の情報を相手の声や聞こえてくる音から意識的・無意識的に判別しているのです。

もちろん、テキストでも多元的な表現をすることは可能です。

<テキスト(文字)情報の持つ要素>
① 大きさ
② 書体
③ 色
④ 質感
⑤ 行間・余白

手書きの文字であれば、筆圧や文字を書く素材の質感なども加わり、多元的な要素を比較的簡単に調節することができますが、パソコンやスマートフォンなどのデバイスを使うと、これらを調節してテキストの入力をするのには手間がかかってしまいます。

例えば、「なかなか会えない恋人に、寂しい気持ちを伝えるため」の「元気?」を、テキストで表現しようとするとどうなるでしょうか? 

広告など、テキスト情報だけでも人の心に強く何かを伝えることができるものもありますが、それは言葉そのものだけでなく、文字の大きさや書体、色、余白などが考え抜かれたものとなっているからこそなのです。


このように、音声情報には、「多元的な要素が瞬時に(自動的に)含まれる」という特性があります。音声情報とテキスト情報というのは四次元と二次元くらいの違いがあるとイメージしていただくといいかもしれません。そのため、仮に同じ文字数のやりとりがあるとしても音声に比べてテキストの方が相手に伝わる総合的な情報量が少なくなるため、「自分が必要としていたものを相手が適切に満たすことができなかった」ということが起こってしまうのです。


さらに、現在私たちは、様々な方法で、同時に、大量の情報を多様なバックグラウンドの人とやりとりしています。この、コミュニケーション環境自体の変化も、私たちのコミュニケーションを難しくしている要因の一つだと考えられます。これについてはまた次回、書いていきたいと思います。


画像1


このページをご覧くださってありがとうございます。あなたの心の底にあるものと何かつながることがあれば嬉しいです。言葉と言葉にならないものたちに静かに向き合い続けるために、贈りものは心と体を整えることに役立てさせていただきます。