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その悲鳴だけが、沈黙を突き破る - 映画『クワイエット・プレイス』 短評

 ホラー映画の歴史は、映画という表現方法そのものの、発展と革新の歴史でもある。近年の傾向でいえばファウンド・フッテージものの映画などは、ビデオならではの映像表現を、演出としてのテクニックに応用した見事な例だ。撮影技術の進歩と、その技術を応用して斬新な演出方法を編み出してきた歴史は、古くは『カリガリ博士』(1920)などの古典的傑作からも読み取れる。俳優であるジョン・クラシンスキーが監督も兼任した『クワイエット・プレイス』では、防音設備の整った映画館という特殊な環境を利用した〈無音〉の空間を生かした恐怖演出が特徴的だ。そうした意味においても、映画館特有の暗闇と緊張感の中で楽しむべき映画なのは間違いない。

STAFF
監督・脚本:ジョン・クラシンスキー
脚本:ブライアン・ウッズ/スコット・ベック
撮影:シャルロッテ・ブルース・クリステンセン
編集:クリストファー・テレフセン
音楽:マルコ・ベルトラミ
CAST
ジョン・クラシンスキー
エミリー・ブラント
ミリセント・シモンズ
ノア・ジュプ

 映画は冒頭から不穏な空気をまとって幕を開ける。誰もいない閑散とした店内で、手話を介して話す子供たちや、物音を立てないよう慎重になっている母親。詳しい説明はないが、この世界は謎の侵略者らによって支配され、残された人類は、まるで主人公たちの家族だけであるかのように、静けさが世界を覆っている。物音を立てれば、一目散に不気味な怪物が襲いかかってくるので、彼ら家族は手話を使って会話をしている。この映画では台詞がほとんどない。この特殊な世界観を提示するため、足音を立てないよう裸足で歩く姿や、歩ける道を整備するため砂を撒く場面など、最低限の細やかな演出を施すだけで、説明的で単調な描写を省くことに成功している。娘のリーガンを演じるミリセント・シモンズは、役の設定と同じように、自身も聴覚障がいを抱えているが、本作では最も魅力的なキャラクターを演じ、自身が抱えるトラウマと、それが原因で家族内で孤立する姿を見事に演じている。


 唐突な物音を過剰に響かせる多用なショック演出には、違和感を感じ得ないわけでもないが、最低限のキャストと限定的なシチュエーションを巧みに生かして、スリリングな展開を作り上げたその手腕は実に見事だ。役者としてだけでなく、監督としてのジョン・クラシンスキーの今後に大いに期待する。 


主に新作映画についてのレビューを書いています。