The fox's urge [R-18]

 落ち着かなそうに教会の一室をウロウロしていた狐耳の女性は、辺りがすっかり暗くなっていることに気づき灯りを付けた。夕暮れもまもなく終わるというのに、いつもなら帰ってくるはずの「あるじさま」が帰ってこないのだ。
「ムーン様だから大丈夫だってば」
 そう独りごち、小さなテーブルに置いた写真立てを手に取った。そこには、自分自身が嬉しそうにぴーす!と指を突き出している写真があり……それを指で摘まみ取り出せば、ムーンの写真が挟んである。カメラの使い方を教えてもらったときに試し撮りしたものであり、すこしブレているし構図も妙だしで見せたときには苦笑されたものだ。
 それをぎゅ、と抱きしめたままにベッドに転がる。尻尾が気になるので仰向けにならず、体を心持ち丸めた。
 彼女、あわらは見た目よりもずっと幼い印象を見るものに与えている。体付きはそうでもないのだが、仕草にせよ、その「あるじさま」であるムーンに向ける感情があまりにも、幼い女の子が姉や、あるいは先生に向けるようなものに似ているからだ。
 それは彼女がムーンによって眷属として「変えられた」ものであり、元来の姿、人間の男性としての記憶の殆どを喪っているためとも言えた。
「はぁ……」
 写真を抱きしめたままに熱い溜息を吐く。もぞもぞと脚を摺り合わせ、何かに耐える辛そうな表情を浮かべた。これは何かの病気なのだろうか。日が沈んで夜になり、こうしてベッドに体を横たえると、それが起こる。

─欲しい

 違う、と彼女は否定する。こんなに幸せなのに、欲しいものなんてない。
 そう思いつつも、何かを求め手が体をまさぐり始める。
「ひゃ、あ」
 声を抑えられない。いつもなら、こんなみっともない声を聞かれたらきっと失望されると思い、暴れる心を無理矢理に押さえ込んで眠ってしまうのだけれども。今夜はその歯止めが、ない。
 体をさらに丸めると、あわらの手は自らの脚に向けられ指先が太股をつぅ、と撫でた。
 口を半ば開き、そこから小さな声を幾度も漏らしながら手は体が覚えているのと異なるラインをなぞって、尻尾へと触れた。その付け根を二本の指で触れてから、軽く引っ張る。


 今のはまずかったかも、と彼女は幾分か落ち着きを取り戻した。この部屋どころか、教会のどこにいても聞こえるくらいの声を出してしまった。今のは、すごかった。
 これをすれば、この変な気持ちは抑えられる。そう、誰かに(もちろんその「誰か」とは一人しかいないのだが)こうやって尻尾の付け根を撫でてもらわなくてもいい。自分の指で弄り体を跳ねさせ声を上げれば、この妙な気持ちを幾分は楽にできるのだから。
 などと考えながら二度、三度、四度……教会にはその度に声が響き、次第に頭がぼうっとし始めた。まだ足りない。こんなものじゃ足りない。もっと欲しい。体が囁くように、ゆっくりと両脚が開くことを教え、それに従ってしまう。自分は元は男の子だったんだよね、というのはムーンに教えられたから彼女自身も知っている。その強い躊躇いが、普段は興味はあっても決してしなかったのだけれど。
「……今は自分だから、いい」
 そう誰にとも無く言い訳をすると、一度だけ、それも軽くムーンに触れられたそこに指をあてる。そこから先はどうしよう。まだ、誰にもされたことがないから、どうすればいいのかわからない。
 ふぅ、とあわらは息を吐きだした。
「ムーン様に教えてもらおう」
 こういう時どうすればいいの、と。きっと、こんなやり方じゃ無い方法を教えてくれるだろう。
 それにしてもいまは何時になったのだろう。ぐったりと疲れた体を起こし乱れた服を直すと、どちらにしても今日は自分が晩ご飯を作らないと、と小部屋を出た。
 昼のうちにすっかり綺麗にした廊下を歩き、厨房の扉を開け
「起きてたの?」
「え、あ、え」
 そのまま硬直する。狐のあわらちゃんにとってのあるじさまがそこにいた。
 いつから!?まさか聞かれていたの!?
 混乱するあわらちゃんを前に、ムーンはにっこり微笑んだ。
「何か聞きたいことがあるんじゃないかな、あわらちゃん♪」

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にょろわーSS

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