案内人 -甘くなるまで待ちましょう-

 あなたに面白い話を教えてあげる。
 これは、ある「表」の世界のお話なのだけれど。大切な人に贈り物をできる日がある世界、素敵でしょ。それは太陽が三百と六十五回巡るたびに繰り返されて、何度でも何度でも、思いを伝えることが許されているの。
 私はね、最初は思ったのよ。いつでも伝えればいいじゃない、と。
 でもね、こうやってあなたと旅をしていて考えが変わったのよ。

 いつかあなたは私の元を旅立つでしょう。
 もしも私と同じく、いつか案内人になるというのなら、滅多なことでは会えなくなるでしょう。
 こんなに寂しがり屋で、一人でいることの悲しみを知ったあなたを一人にしてしまうなんて、許されないこと、わたしはそう思うのよ。だって、あなたに「一人でいることが悲しい」ことを教えてしまったのは、多分私なのだから。
 
 そこは、妖精がまだ信じられている「表」の一つ。丘の上、月の光を眺めながら、私は眠る彼女の髪を撫でていた。私の膝枕の上で寝息を立てている彼女に、私は一つの贈り物をしようと思ったのだ。

 ごめんなさいね、眠っていたのに。さありーむ。私の記憶を味わいなさい?
 今日はね、大切な人に贈り物をする日。でも旅をしている私たちには、余計なものを持つなんてできない相談だから。
 
 りーむの体が揺れ、崩れる。それは瞬く間に私を覆い尽くした。
 
 口を開け舌を突き出す。さありーむ、私の舌に触手を重ねなさい。私の肌も、髪も、すべてをあなたで覆いなさい。そして味わうの、私の記憶を。言葉はあまりにも不自由で、あなたへの想いをこれっぽっちも伝えてくれないから。
 これから、三百と六十五回太陽が巡ったら。三百と六十五日の間、あなたを想ったその記憶をぎゅっと固めて、あなたに贈りたい。
 そして私は揺蕩いながら感じ取る。りーむ、あなたが私に向けた想いはこんなにも甘くて……ああ、溺れてしまいそう蕩けてしまいそう。でも私だってもっともっと、あなたを愛しく想っている。
 そう、これは「甘い」わ。痺れるほどに、癖になるほどに。
 約束よ、りーむ。もしあなたが遠く離れても、この記念の夜だけは必ず過ごしましょう。そうして次に巡る来る日を楽しみに、会えないことがつらくなったのなら、その想いをしっかり刻みましょう。そう、私も知ってしまったのだから。一人で生きていく、その悲しみ。でもそれは、いつか会う日のためにあると想えば。何よりも甘いものになる。
 
「あさお姉ちゃん」
「りーむ」
 ……そして再びやってきた。三百と六十五日に一度だけ開くその扉の前に立ち、二人は同時に扉を開ける。
 二人はやがて頷き、お互いに甘いものを求めて抱き合った。

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