#7 オリジナル小説

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私は人殺しだ。

悲痛な声が響いた。彼女は肩を震わせうなだれている。

もしも時を戻せるなら。しかしやり直しは二度と効かない。

「親友だったんだ」

地面に足を落としたままぽつりと言葉を漏らす。聞いたこともないほど弱々しかった。

「よく遊んでた、小学校までは平和だった。おかしくなったのは中学からだ。クラスが離れてしまってからしばらくして、彼女が不登校になったと言う噂を耳にした。いじめに合っていたんだ。こんなこと君に話して良いのかな」

「良いよ」

「じゃあ話す……それを知った私は彼女の家に駆けつけた。彼女は快く迎えてくれたし、いつもと変わらず笑顔だった。私は安心しきってもう一度学校に来るよう説得した。そしたら彼女は、奴らに復讐したいから協力してくれと言った」

「うん」

「クラスに戻りやすくするためのちょっとした仕返しのつもりだろうと思ったんだ、でも甘かった。彼女の憎しみは予想以上に深かった。当たり前だよね、当事者じゃない、所詮は他人事だったんだから」

ヨルガは続けた。

それは中学生がやるとは思えないほど凄惨だった。クラスや他学級はおろか、外部にまで噂を流され街を歩くだけで嫌がらせや暴力を受けた。彼女の居場所はどこにも無くなり追い詰められていく。教師は隠蔽、教育委員会は見て見ぬフリ、親兄弟からは学校に行かないことを攻め立てられる日々。そんなことが半年続き、すでにおかしくなってしまった彼女を繋ぎ止めているのは湧き上がるほどの憎悪。

ヨルガは復帰時期を一週間後と約束し、心待ちにして生活を送った。

その朝、彼女はやって来た。全身を真っ白な服で包んで。後から知ったが制服を着てこなかったのは替えの分までズタズタに引き裂かれていたからだった。

ヨルガは他クラスの彼女に危害が及ばないよう、授業が始まるまでずっと彼女の側についていた。彼女が自身の席に座り、ヨルガは正面にかがんで談笑した。ホッとしたことに、耳に入ってくるざわつきは少なかった。

そしてチャイムが鳴る。クラスはすでに全員揃っていた。

彼女はおもむろに立ち上がる。

「ありがとう、アサヒ。私が今日ここまで来れたのはあなたのお陰。本当にありがとう」

クラス中に響き渡るほど大きく明るい声だった。彼女のこんな声を聞いたことがなかった。クラス中の誰もが彼女の方を向いた。教室が静まり返る。

にも関わらず、彼女は満面の笑みをたたえていた。不自然なほど自然な笑顔。

彼女の懐がキラリと光る。その瞬間、悲鳴が沸き起こった。教室中がパニックになる。

いったい、なにが。


彼女の脇腹にナイフが突き刺さっていた。

彼女は血を滴らせながら笑った。そして自分が座っていたイスを真横のガラス窓めがけて思い切りぶつけた。どよめきが大きくなる。

彼女の力では割ることなど到底不可能だだったろうが、非常用に割れやすく作られた箇所だったため簡単に砕けた。イスの落下音が響く。

あっけにとられた私に彼女がふわりと抱きついた。

「アサヒ、私刺しちゃった。苦しいよ、耐えられない。窓も割っちゃった。これって犯罪だよね、私悪いことしちゃった。どうしよう」

言葉を理解できない。ただただ硬直していた。

「ねぇ、私を解き放ってよ。アサヒ。私たち、親友でしょ?最期にお願い聞いてほしいの。

私を突き落として、ここから」

目の前の彼女はもう笑っていなかった。


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