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Jリーグ第6節 鹿島vs名古屋 マッチレビュー

鹿島 2 - 1 名古屋
スコア経過
46' 鹿島 0-1 名古屋 シャビエル
72' 鹿島 1-1 名古屋 土居
82' 鹿島 2-1 名古屋 レオ・シルバ

試合のカギを握った平戸のJ1初先発

前節磐田戦で内田がかねてより庇っていた右ひざを負傷。
長期離脱になる恐れはないようだが、代わりに21歳の平戸が先発を飾った。
平戸の本職はボランチとしながらもそのユーティリティ性を
大岩監督は評価しており、その言葉通りとなったわけだ。

とはいえ平戸に課された役割は非常に大きい。
内田はこれまでの試合、主将としてチームを牽引してきた存在であり、
自身のタスクをこなしながらもCBのカバーリングも徹底するなど
鹿島の守備対応において主軸を担ってきた。
犬飼、町田、安西とまだ若いDFラインにおいて、
平戸がどうプレーし、チームに貢献できるかは試合の焦点となった。

結果から言えば、期待通りの活躍はできなかった。
マッチアップした相手、名古屋の和泉は突破力に優れており、
彼のドリブルの鋭さは開始わずか数十秒で身をもって味わった。
直接失点に絡んだわけではなかったが、
彼の交代時の表情を見る限り本人も不本意な出来だったのでは
。だが、鹿島は成長を志す選手にはチャンスを与えるクラブであり、
今後も平戸が必要となる場面は多くなるはず。
この試合を糧に、彼の持つプレースキックの精度などを発揮できる
シーンを多く見ていきたいところだ。

統制と技術に優れる名古屋の定位置攻撃

序盤の展開は名古屋がボールを保持し、
鹿島が奪取後のカウンターを狙う状況が続いていく。
狙い通りのプレーを生み出していたのはアウェイの名古屋で、
足元から足元へとパスを繋ぎつつ、
選手がポジションを入れ替わる事で生じたスペースへ抜け出した選手を
うまく使い鹿島ゴールへと迫る素晴らしい攻撃を見せていた。

名古屋のマイボール時の攻撃に感じたことは
意識レベルにまで浸透された選手のポジショニング、距離感だ。
低い位置でボールを回す際は米本が2CB間に落ちサリーダ、
鹿島2トップに対して数的有利でパスを交換しつつ、
開いた中谷or丸山がフリーで受ければ前へ持ち上がることで
ラインを高く保つと共に、スムーズに敵陣へ前進できていた。

ミドルゾーンまで前進できてからが名古屋の真骨頂で、
ボールホルダー周辺に人数を割きつつも
常にパスコースと前進するためのスペースを見つけ出していた。
名古屋のポジショニングに迷いは感じられず、
ダイレクトパスで前進できるシーンは幾度となくあった。
これこそが風間イズムだろうか。
永木とレオ、鹿島の2ボランチのスライドとプレスをものともせず
シュートチャンスを創出していった。
そしてフィニッシュにジョーという最高のストライカーを据えているのだから、
名古屋があらゆるチームから得点を奪ってきたことも納得だ。

特に効果的な存在だと感じたのが米本と長谷川。
米本は丁寧なパスでビルドアップに貢献しながらも、
ネガティブトランジション時には素早くアプローチできる貴重な存在。
豊富な運動量と広大なプレーエリアがもたらすピッチでの影響力は余りに大きい。
それゆえに、彼のプレー強度がチームの出来に直結した印象すらある。

長谷川は機動力こそ乏しく感じたものの、
オンザボール時の高い技術は特筆すべきものがある。
特にスペースへ走り込んだ味方へピタリと通すパスは大きな武器で、
和泉やシャビエルのスピードを活かすのに彼は適任とも思える。
丸山、中谷がボールを中盤まで運び、シミッチが捌き、
長谷川が和泉とシャビエルに届ける”流れ”を止める事は簡単ではない。
フィジカルを活かしたフィニッシュやゴール前での迫力が見えてくれば、
彼がジョーの相棒としてファーストチョイスになってくるのでは。

後手に回りつつも焦らない鹿島らしさ

チャンスを多く作りだしたのは名古屋で、
決定的なシュートを多く放ったのも間違いなく名古屋だ。
しかし試合の勝者は鹿島である。
それこそがこの試合の面白さを物語っている。

鹿島は守備から試合に入ったのだが、
守備のコンセプトは徹底できていたように思える。
今回私が感じた鹿島守備陣の狙いは
①ボールに安易に食いつかず、ブロック外側でのプレーに誘導させる
②永木、レオの2CHは常にカバーしあえる距離を保ち、
 片方は必ず2CB前のスペースを埋めセカンドボール処理を意識する
③犬飼、町田はとにかくジョーにフィニッシュをさせないこと

あたりだろうか。
特に①を達成するためには2CHの連携が不可欠なため、
②を全ての時間帯で徹底することが義務付けられている。
永木とレオはボールを奪うチャンスと見れば迷いなくアプローチし、
実際に奪ってみせた場面もあった。
そのアプローチが失敗したとしても、的確なカバーが速攻を防ぎ、
致命的なシーンを作り出させない障壁となったことは確かだ。

鹿島がゲームプランを実行するにあたり生命線となったのが
「両サイドバックにより中央へのカバーリング」
鹿島2CBはジョーへのマークにプライオリティーを持つため、
長谷川など2列目付近からの飛び出しに対応しづらい。
その為自身のマッチアップする相手を牽制しつつ、
中央に危険なスペースが存在すればそこを補う高度な判断が求められた。
平戸と安西はこのジレンマに悩まされながらも懸命に働いていた。
特に安西はその脚力を活かし、広大なスペースを潰していた

失点がもたらしたプラン変更、光った大岩監督の采配

後半開始直後、名古屋の得点が試合を大きく変えた。
前方広大なスペースへとボールを運んだ中谷が長谷川に預け、
長谷川がそのまま攻め上がった中谷を使い、中で仕留める。
スペースを認知し、攻め上がりの判断を下した中谷も素晴らしかったが、
名古屋の高い連動性を示した”らしさ”を感じる得点だった。

これで鹿島はより前がかりに試合を戦う必要が生じ、
選手交代と配置コンバートを通じてゲーム修正を図る。
53分に平戸に代え三竿を投入し、永木を右SBへコンバート。
61分にはレアンドロを下げ安部を左SHへ。左SHにいた土居は右に回る。
この方策がもたらしたメリットは
①平戸よりも対人・連携で優れる永木が最終ラインに残り守備強度が向上
②三竿を後ろ、レオを前へ位置取らせることで、
 レオの攻撃性能を活かしつつボールロスト時の失点リスクを軽減
③安部がフリーマンとして中・外自由に動き回ることで
 名古屋の守備ブロック内にギャップとカオスを生み出す
といったもので、得点を奪いつつも失点はしたくない鹿島にとって最善の策だったはずだ。

特に利いたのが安部のフリーロール。
米本とシミッチはそれぞれ個人スキルは卓越したものがあるが、
周囲と連動しての守備には綻びを感じた。
鹿島は磐田戦と同じように両サイドへボールを展開し続け
名古屋のブロックを左右に揺さぶりつつ、ギャップを突いてチャンスを作った。
同点弾が入った背景には、大岩監督の的確な采配があった。

名古屋は前線がハイプレスできる陣容ではなかった為
受けに回ざるを得ず、結果それが失点を招いた一因だと思う。
名古屋もその後チャンスは作れていたし、得点を奪えていればよかったのだが
自陣に押し込まれての状況では長谷川、ジョーの最前線は足枷に過ぎない。
米本とシミッチは時間経過につれ足が止まり、
(この試合最も負荷がかかっていたのも彼らがし仕方がないのだが)
中盤における攻守のクオリティーはグッと低くなった。

風間監督が切った交代カードを振り返ると、
76' IN 赤崎    OUT 長谷川アーリアジャスール
   IN 相馬    OUT 宮原
84' IN マテウス OUT 吉田
と攻撃的なカードばかり。
確かに追加点を狙い勝利を目指すには理に適った采配だとは思う。
しかし試合が優勢から劣勢に傾いた要因を考えれば、
中盤でのプレゼンス低下と守備統制の崩壊があることは確か。
原因に対しての方策というよりかは、目先の結果を求めた采配な印象だ。
(マテウス起用も、ブエノの投入で掻き消されたものだ)
2失点目は絶対に防げたはずのものであったはずだし、
人数有利を敷きながらも単独で突破を許し失点した事実は余りに残念。
あの失点は、あってはならないものだ。

私は名古屋の試合を追っていないので断言はできないのだが、
少なくともこの試合で名古屋に欠けていたのが「潰す」という決断力
危険なエリア、スペースに侵入される前にプレーを潰し、
失点を未然に防げる存在が名古屋に乏しいと感じた。
それこそ、米本くらいなもの。
鹿島はそこに関して徹底されているとさえ言っていい。
安部ですら危険だと感じれば迷いなく戦術的ファウルを犯し、
警告を受ける事に躊躇いを感じない。
あまりに名古屋の選手らのプレーは優等生というか、
泥臭さを感じることが少なかった。
試合後米本が見せた悔しい、やりきれない表情が印象的だったのだが、
彼ほど敗北に対して強い責任感を持っている選手が他にいるのかどうか。

大きすぎる内田という存在

首位相手との試合だったのだから、これまでチームを牽引してきた
主将内田の不在は余りに大きな影響を感じた。
彼は苦しい時間帯、展開でもチームを支えられるだけの精神的支柱なのだ。
平戸が代役として成長するには時間と経験が足りず、
今回起用されたブエノではそもそもプレースタイル、役割が異なる。
彼のいる、いないでチームとしての振る舞いを調整する必要が生じていてるのだ。
内田が右ひざに大きなリスクを抱えつつプレーしている以上、
彼の負担を軽減できるための方策を、大岩監督が用意する必要があるだろう。

最後に名古屋の和泉に関して触れておきたい。
彼の縦への強い意識と突破力は常に脅威となっていたし、
平戸が相手をするには分が悪い存在だったことは確かだ。
とはいえアタッキングサードに侵入したあと、
仕上げのプレー精度に関しては課題が。
素晴らしい突破を何度繰り出そうと、ラストパスやフィニッシュに
精度が伴わなければなんら意味がないのだから。
今後成長に期待したい存在。

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