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山の学び舎と海の旅路と徒歩の倉庫街

関与している団体の関係で、神山まるごと高専を視察することになった。
大手企業11社から10億円ずつ集めてファンドにして、運用益で奨学金を給付するため学生は無償で学べるという画期的な仕組みの高専。学ぶ内容も、テクノロジーとデザインと起業家精神を3本柱とした全寮制、徳島県神山町という山の中で5年間学べる、うらやましい学校である。開校して今年2期目、先週入学式が行われたとのこと。
学校内にいる学生たちからは、「晴れてて暑いから、川に行こう」なんてい会話が聞こえてきて、正直出掛ける場所の選択肢も少ないのだろうけど、つくづく良い環境だなあと感じた。
学校内を見学させていただき、学生の何人かともお話させていただいて、とても有意義な時間だった。この話を本気で語ると長くなるので、ここではしない。

山間の素敵な学校からの帰京は、フェリーを使うことにした。徳島港から東京有明港まで、19時間。土曜日のお昼11時20分に出港し、東京の有明に着くのは翌朝6時という航路である。

私は学生の頃に、東京から北海道の苫小牧までフェリーで行ったり(そういう便がまだあった)、20代の頃は川崎港から紀伊勝浦までフェリーで行ったりしたこともあり、フェリーに対して苦手感は特にない。どうせ日本列島が見える距離の航行で、大して揺れないし、お風呂から海が見えたりして面白い。

19時間はかかるが、乗ってしまえば寝てても東京まで連れてってくれるわけで、飛行機のような慌ただしさや、新幹線を使うために関西方面までローカル鉄道や特急で出なければならず知らない駅で右往左往しながら時間に追われて帰る恐ろしさを考えると、楽であると判断した。実際、半分くらいの時間は寝てた。

気がかりだったのは船にはWifi設備がないということで、時間によっては携帯電話の電波も届きにくいという点だった。時間を持て余すことにならないか。そこは強制デジタルデトックスだと思い、でもKindleに本だけは溜め込んで、乗り込んだ。
実際はエリアによっては携帯電波が届かないというかんじで、乗船客にはずっと仕事の電話をしている人もいた。私もちょっとはYoutubeを観てた。
もう一点不便なのは、この航路便にはレストラン機能もないため、食事ができないことだ。いちおう、ロビー的なエリアに冷凍食品やカップ麺やらパンやらの自動販売機はいくつかあり、電子レンジもいくつも並んで、そういう物であれば食べることは可能。お水とお茶は無料であり、私はお弁当を買って乗り込んだけど、食事にこだわる人にとってはマイナス点としては大きいかもしれない。結局お弁当だけでは足りなくて、カップラーメンを食べた。神山高専では給食の地産地消率に感動してたのに、自分の現実は上手くいかない。

船室は一番安い部屋を取ったが、女性専用室でもあり、そもそも乗客は全部で20-30人というところで、空いているし静かでカプセルホテルのようなベッドでも快適だった。押し入れの中みたいで、キライじゃない。

甲板に出て海を見て、夕日や朝日を見ている時間は楽しいものだ。
もちろん揺れるは揺れるが、船の揺れは波の揺れなわけで、それは海のリズムだと思う。自分を海のテンポに合わせる気分になると、心地よい。これは飛行機の揺れとは訳がちがう。
贅沢な設備がなくても、海と空を見ているだけで19時間は過ごすことができる。半分くらいは寝てたけど。

最後に計算違いだったのは、東京は有明に着岸だったわけだが、東京ビッグサイト駅近くの有明客船ターミナルではなく東京港フェリーターミナルという倉庫街の港に降ろされたことだ。有明客船ターミナルと有明ふ頭フェリーターミナルとも違う、さらに端っこ。
朝5時45分、人は誰もいない。そもそもフェリーの乗客は車かバイクか自転車、あるいはペットと一緒なのだ。一人で歩いて乗る人は非常に少ない。そしてバスは30分後しかない。
結局歩いてゆりかもめの駅まで行った。明らかに歩行を想定していない、大型トラックが通るような道の端をひたすら歩いて行ったが、天気が良かったこともあり25分程度で駅に着くことができた。自分の足で自分のペースで歩くのも、また楽しい。

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