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世田谷線沿いに住んでみたら、毎日がちょっとスローになった

2年間住んでいた賃貸アパートを出て、新しい家に引っ越した。

その3階建てのアパートは、付き合うと同時に同棲をはじめた今の夫と、一緒に選んだはじめての場所だった。
人生ではじめての同棲で慣れないこともたくさんあったり、付き合って日の浅い彼と一緒に住む家を決めるにあたって、いろいろな喧嘩もあった。
けど、はじめての共同作業はすごく楽しかったし、はじめてだらけのその記憶は、いまでも付き合った当初の貴重な思い出として残っている。

住んでいたのは、東京の世田谷区を走る「世田谷線」沿いの若林というエリア。
都内では珍しい路面電車で、たった2両しかない小さな列車だ。
三軒茶屋と下高井戸を結んでいて、途中で乗り換えれば小田急線にも乗って新宿へ出られたりと、なにかと便利な路線だった。
招き猫で有名な豪徳寺駅をイメージしてつくられた、「幸福の招き猫電車」を見かけた日にはちょっとだけハッピーな気分になったりもする。

若林駅は、世田谷線のなかでもこじんまりした駅で、住宅街のなかにいくつかポツポツと飲食店があり、地元の人だけで賑わっているようなあたたかい雰囲気の場所だ。
はじめてアパートを訪ねたときも、東京の真ん中らしくないその穏やかな「地元感」に安心感を覚えて、すぐにふたりして「ここに住みたい!」と思ったのだった。
「若林」というネーミングもなんだか良い。
オードリーのほうを思い浮かべる人も多いかもしれないが、春夏の青々とした新緑を思い起こさせる素敵な地名だな、と思う。
実際、緑に囲まれた長い遊歩道もあって、温度が20度くらいの日はそこをお散歩するだけで満ち足りた気持ちになる。

駅を降りるたび、子供を連れたママや部活帰りの高校生、サラリーマンたちがそれぞれ小道に散らばっていき、お店やスーパーに寄るでもなく、どこかほっとしたような面持ちで我が家へと帰っていく背中を眺めるのが好きだった。
この駅がみんなの家なんだなあと思いながら、それぞれがどんな暮らしをしているのか想像を巡らせながら、ゆっくりと歩いて私も帰路につくのだった。

駅前に「City Super トップ」という小さなスーパーマーケットがあって、たまにそこで買い出しをして帰ることもあった。
正直品ぞろえはあまりよくないし、ほしいお肉や魚が売っていないことも多かったけど、地元住まいであろう気さくなおばちゃん、おばあちゃんたちがいつもレジ打ちをしてくれて、若者のアルバイトがいないところも妙な安心感があった。
ずっと愛用しているであろう、2000年代頃のV6の特典クリアファイルがレジの横に常備されていて、このおばちゃんはV6ファンだったのかなあ、なんて考えながら会計を待ったものだった。

トップ公式サイトより引用 この圧倒的地元感

ほかにも、よく行くところといえば、ここのピザ屋さん。
アパートから徒歩1分のところにあって、夫とも本当に何度もよくお世話になった。

「POCO」という店名どおり、通常よりも小さい「POCOサイズ」のピザが売っていて、小食な私にはそれがすごくありがたかった。
お店自体は小さめなのだが、ちゃんと窯焼きでサクサクのピザを出してくれるし、なんといっても15種類もピザがあって、選ぶ楽しさが尽きない。

ピザだけでなくパスタやサラダメニューも充実していて、ここの「パンナリモーネ」という、明太子レモンクリームパスタが本当に好きだった。
絶妙な明太子クリームのピリ辛感とまろやかなクリームの取り合わせが天才的に美味しくて、いつもポコサイズピザとこのパスタを頼んで食べていた。
レモネードの種類も多く、とくにピーチレモネードがさわやかで、夏はよく飲んだ思い出がある。

若林はほかにも、沖縄のポーたまおにぎり(スパムと玉子焼きを挟んだおにぎらずで、沖縄のソウルフード)が気軽にテイクアウトできる「しまんちゅパーラーポータマン」も好きでよく通ったな。
シンプルなスパムと卵焼きのも美味しいけど、明太子高菜の組み合わせだったり、チーズ入りがあったり、いろいろな味があって飽きなかった。
そこまで混雑していないので、テレワーク中のお昼にしたり、休日のブランチで食べたりと使い勝手もよかった。
なかなかポーたまおにぎりの専門店って探しても無いものだし、ゆる~い店内の雰囲気も含め、夫と愛用していたので、もうここに行けないのは結構寂しい。

なぜか、若林のおすすめグルメ紹介記事のような感じになってしまったが、こういう気軽に通える地元のグルメがいくつかあるところが若林の魅力。
出ようと思えば、三茶にも歩いて15分で出られるし、ちょっといいごはんが食べたいときは三茶でディナーして歩いて帰ったりと、本当に「ちょうどいい」駅なのである。

ここに住み始める前は渋谷と恵比寿の間に住んでいて、それはもうまさしく都会のど真ん中だったので、常に何かしていなきゃいけない感じに追われて生き急いでいた。
夜は友達との飲み会に行かなきゃいけないし、土日は昼から夜までトレンドスポットに行ってフルで遊びまわるのが義務!生産性のある毎日こそ命。
本気でそう思っていた。
けど、今考えてみると、渋谷のあのせわしない雰囲気に惑わされていただけのような気がする。
あんな高速道路みたいな日々を送らなくても、ゆっくりと充実した人生が送れることを若林に住んで知った。
ちょっとだけ近所にお散歩するだけでも得られる幸せがあるのだ。
世田谷線に住んだおかげで、私の目で見る世界がいままでよりもずっとスローになって、日常の解像度がぐっと上がったような気がする。

今回新しく別のエリアで家を買うことになったので、泣く泣く若林を出ることにしたけれど、本心としては本当に寂しくて悲しくて離れたくなかった。
もし若林にちょうどいい物件があったなら、迷わずそこを選んでいたんだけど…
もしこれから世田谷線に住もうかと検討している人がいれば、私は自信をもって若林駅をおすすめしたい。
私たちのようなDINKSでも、お子さんがいらっしゃるファミリーでも、一人暮らしでも、どんな人でも住みやすい、理想の「地元」になってくれるはず。

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