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英国王室御用達!ウェールズの老舗ソックス工場を訪問した話(2006)

誰しも何か大きな一歩を踏み出す時には、そこには「きっかけ」や、その人なりの「ドラマ」があると思うのです。私にも一応そんな事がありまして、私が20年以上も靴下デザイナーを続けているのは、もしかしたらこの方々と出会ったおかげかもしれないと、今回はそれをご紹介します。今から18年前、私が20代後半頃のイギリスでの話です。

Ayaméを立ち上げる前の年2006年、私は南ウェールズにある老舗ソックスファクトリー「Corgi」を訪れていました。コーギー社は130年以上の歴史を持ち、5世代に渡ってのファミリービジネス、英国王室御用達にも認定されているイギリスを代表する高級ニットメーカーです。2024年の今、世界中を探してもこういうメーカーはもはや数少ないと思います。

今でもハンドニットの伝統的な手法で生産をしている靴下があり、この道ひと筋の職人さん達がすごい手さばきでハンドニットマシーンを動かしています。コーギーハンドニットソックスの魅力は、ひとつひとつ手回しで編まれる、柔らかで温かな風合いなのです。

ロンドンから二泊三日の小旅行、この旅で私の脳ミソと心は大きく揺さぶられ、次の年(2007年)に自分のブランドを旗揚げしました。

さて、工場の中に潜入。この時、デジカメが壊れていたので紙焼き写真です。写真の写真。

こんな素朴なB&Bがぽつねんとある村、グレートブリテン島西部ウェールズの片田舎、アマンフォードというところです
ここは横編み機でハンドニットウェアを編むセクション。1から10まで手作業で、5コース編み進むごとに分銅(おもり)を一回一回かけかえて、、、という気が遠くなるような作業です。
ここはリンキングのセクション。中央の人はニットウェアのリンキングをしていますが、右の人(切れちゃっていますが)は、靴下のリンキングです。
これがcorgiの真髄、手回し靴下編み機。ここにも伝統的な手作業で生産されている現場が。

コーギーソックスの魅力は、履き心地ももちろん、この美しい色使いにもあると思っております。この工場の裏手には、常時何百色ものカシミアやコットンの糸巻きがストックされています。

その糸庫の美しさと言ったら圧巻で、何でこんなにキレイな色が出るんでしょうかね?と質問したところ、「水だよ」との事でした。北イングランドのヨークで紡績されている糸だそうです。北イングランドといえば、ジョン・スメドレーもそうですね。英国伝統の老舗ニットメーカー。

うんうん、糸の発色と編み目の風合いと美しさがCorgi「らしさ」、その商品の面構えを生み出します。マーシャライズコットンのハンド編みのソックスと言えば、コーギー社の看板商品です。それに、他では真似できない手作業や技、ものづくりへの思いがあって。

工場を案内してもらったり、創業者一族ジョーンズ家の皆様とは靴下のことをはじめ、もの作りとは何か、クリエイティブとは何か、伝統を守ることの難しさ等々、色々なお話をしました。王者のもの作りとはこういうことかと、いたく感銘を受けました。何をやるにしても、その道の一流の人々と触れ合うことは本当に大事だなと、28歳の私は思いました。

しかし今は時代の流れ色々あって、ハンドの生産量は随分減ってしまったみたいです。今や、素材から製造まで純正のイギリス製品は希少です。日本製のプロダクトもまたしかり。イギリスに限らず、今、先進国のものづくりの現場は様々な問題を抱えていて、これまでのようなものづくりが難しくなってきています。クオリティを保ちつつ、長く続けていくのは並大抵のことでないなと、46歳になった私は思います。

この時ちょうどワールドカップ・ドイツ大会(2006)の時だったので、日本VSブラジル戦を一緒にパブで見たり、なぜか社長のお宅にお邪魔して、孫のジョシュア(当時5歳)と遊んだり、中華を食べに行ったり、楽しく過ごした記憶です。ラッキーな偶然が色々ありまして。

余談ですが、当時の私の英語力はというと、Where did you go today?(今日はどこ行ってたの?)と、ハウスメイトのイギリス人からネイティブスピーカーが普通に話すスピードで聞かれても聞き取れず、Wa?何?と、聞き返すぐらいのレベルでした。若さってステキですね、今ならそんな英語力で通訳もつけずに他人様の会社を訪れるなんて迷惑な事とてもじゃないけど出来ないです。つまらない大人になってしまいました。笑

そんなこんなで、この方々との出会いは、私が今のようなスタイルで、手仕事手作業を大事にし、この仕事をずっと続けている理由のひとつなのです。この時イギリスの片田舎で感じた事は心に残り続けています。見て触って感じて、いつでも楽しみながら仕事が出来て、私はほんとうに幸せだなと当時を振り返りながら改めて思いました。ありがとうございます。

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