運試し温泉旅行 著:杉山純

※前書き事項※

 今作は、執筆者「杉山純」がお気に入りの“某バラエティ番組”で企画された、お笑いコーナーを元ネタにしています。

 キャラクターの口調や設定に違和感を覚えた場合、それはASの勉強不足です。

 作中に登場する“アヤネ”“ヒモノ”というキャラクターは、原作ゲームのスタッフをモチーフにしたオリジナルキャラクターです。


 季節は冬。ハーバリストのマリアは、いつも立ち寄るお馴染みの酒場を訪れる。夜には多くの客が賑わいを見せる店内も、昼間は少しだけ物静かだった。

 ただ一角を除いて。

サミュエル「ほい、上がりッ」

 ベン  「だぁあああッ!! クソッタレが!」

ウィリアム「はは。また負けてしまいましたね」

 ギャンブルの定番とされる簡単なカードゲーム。一つのテーブルを囲んでいたのはサムとベンの二人。そこに珍しくウィルが加わっている。

 マリア 「こんにちは」

サミュエル「おー、マリア」

ウィリアム「こんにちは」

 ベン  「…よぉ」

 テーブルに伏しているベンを見て苦笑い。今日もサムを相手にベンは肩慣らし程度の賭博予行でもしていたのだろう。結果は見ての通りだが。

サミュエル「今日も依頼か?」

マリア  「あ、えっと……その件なんですけど」

 依頼について。

 そう切り出そうとした瞬間、酒場の戸を勢いよく開け放って飛び出してくる男が一人。

ブライアン「待ったぁぁぁあああああッ!!!!」

 マリア 「ぴぃ!!?」

 ベン  「ぴぃ?」

ウィリアム「おや、ブライアンさん」

ブライアン「ひどいじゃないかッ、マリア! ギルドにも立ち寄らず、酒場で勝手に依頼の交渉など……ッ」

 マリア 「ぁ、いや…そういうことでは…」

ブライアン「その証拠に!! いつもはギルドで顔を合わせるはずのウィルがこの場にッ。抜け駆けは許さんぞッ」

 ベン  「何を言ってんだか…」

ウィリアム「誤解ですよ、ブライアンさん。私はマリアが来るよりも先に酒場に来ていたんですから」

 ウィルに嘘を吐くような器用さはない、とでも思っているのか。その一言だけで、ブライは先ほどまでの勢いを一瞬で鎮めて咳払いを一つ。

サミュエル「で? 結局は今日も依頼なのか?」

 マリア 「いえ、今日は違うんです。実は……」

 と、ここで更なる珍客が一名。

ウォルター「失礼するよ」

 マリア 「あ、ウォルター」

 ベン  「なんだ、お前が酒場に来るなんざ珍しいじゃねぇか」

ウォルター「ふむ。先日に服用させておいた盗聴用寄生虫に反応があったのでな。私を抜きにして、何やら興味深い話が」

 マリア 「ちょっと待って」

 聞き捨てならない台詞を前に、マリアは思わずウォルターの胸ぐらに飛びついた。

 マリア 「寄生虫…? え? 盗聴用…?」

ウォルター「ふむ。以前マリアの家を訪ねた際にお茶を出してくれただろう?」

 ウォルターが持参した物は色んな意味で恐ろしいため、この日はマリアがお茶菓子を進んで提供した。

ウォルター「その際、マリアが席を外した時だ。君の分のお茶に少々…」

 ベン  「うわ…」

 マリア 「………ッ…」

 急にお腹の辺りが痒くなった気がする。おそらく気のせいなのだが、寄生虫を仕込まれたと聞いて意識の外に追いやるのは難しい。

ウォルター「不満かね? では追い出すしようか」

ブライアン「最初から解放してやりたまえよ……」

 寄生虫を追い出すための薬を持ってきてくれただけ救いはあった。ウィルが用意してくれた水を使って服用し、ようやく一息。

 ベン  「つーか、どうやって追い出すんだ? そのまま死滅か?」

ウォルター「……? 何を言っている」

 直後、マリアの下腹部に強烈な尿意が襲いかかる。

ウォルター「体内に出す方法など、私の用いる手段としては一つしかないだろう」

サミュエル「歪みねぇなぁ」

ウォルター「構わんよ」

ウィリアム「マリアッ、お手洗いはあちらです!」

 マリア 「ぁ、ぁりが…と…ぅッ、ん、くッ」

ブライアン「大丈夫か? 良ければ私が抱えてやってもッ」

 両手の指をワキワキと動かして下心満載で迫るブライをガン無視して、マリアは手洗い場へと駆け込んでいった。

ブライアン「…………」

ウィリアム「ブライアンさん。それでは受け入れられませんよ」

ブライアン「……ウィル…。三回分ほどまとめて言わせてもらうぞ…」

ウィリアム「はい?」

 ここに来てからというもの、ウィルは三回もブライを呼び捨てにしている。

ブライアン「ブライアン“様”だ!!」

 サム、ウィル、ベン、ブライ、そしてウォルター。

 マリアを含めて六人が一つのテーブルを囲い、これでようやく今日の本題に移れそうだ。

 マリア 「実は先日、薬剤組合の方に“東洋の温泉旅行券”をいただきまして」

 ガタッ、と面白いくらい全員が反応し、一斉に立ち上がる。

 後、無言の睨み合い。

 マリア 「待ってください! 実は、それが二枚ありまして…」

 睨み合いは治まらない。

 マリア 「まず話を聞いてくださいッ。その温泉旅行券なんですが、一枚で三人まで行けるんですッ。三人一組様の旅行券なんです!」

サミュエル「…お?」

ウィリアム「ぇ…」

 ベン  「あん?」

ブライアン「何?」

ウォルター「ふむ」

 三人で一組の旅行券が二枚。つまり、合計六人だ。ここにいる者たちの頭数も六人。正直に言えば、マリアと二人きりでなければ面白くもない。なぜ他の男たちと一緒に、と思わなくもないが。旅行券の該当人数を考えたら、別にマリアが困った顔をする必要もない気がする。

ウィルター「どうやら、まだ話の芯は隠れているようだ」

ブライアン「マリア。私たちに何を話したいのか、その点だけを教えてくれないか?」

 立ったままだった五人は、マリアの顔を見ながらゆっくりと腰を下ろす。全員が席に戻ってくれたところで、マリアは件の旅行券を二枚、テーブルに並べて見せてくれた。

 そこには……。

 【東洋の温泉大国! バラエティーパーティでご招待!】

 【三人一組様!】

 【四つのゲームに挑戦していただきます!】

 【三人の内、お一人様のみ罰ゲームをご用意!】

 【年の終わりに家族やお友達で盛り上がりましょう!】

 的なことが記載されていた。

 どうやら普通の温泉旅行とは大きく異なるチケットらしい。

サミュエル「バラエティー、パーティ…?」

 マリア 「はい…。旅行券一枚につき三人まで。旅先でゲームを用意してくれているみたいなんですが…その都度、旅行を楽しめるのは二人だけなんです」

ウィリアム「その時のゲームに負けてしまった一人は、何らかの罰ゲームを受ける…ということですか」

 マリア 「はい」

ブライアン「私たちは六人。旅行券は二枚。であるならば、まともに旅行を楽しめるのは四人で、罰を受けるのは二人というわけか」

 マリア 「お食事や娯楽、そして温泉。あちらで用意されたプログラムごとにゲームがあるみたいなので、ずっと同じ人が罰を受け続けるわけじゃないんです」

ウォルター「……賭け事に運のない者が参加しない限りは、な…」

 マリア 「…あ」

 全員の視線が一点に集中する。

 ベン  「………………」

 これほどまで完璧な、文字通りの“無表情”を見ることはないだろう。

 せっかくの旅行なのだ。今回ばかりは不運設定など解除してしまおう。

マリア「旅行券を手放す手段も考えていたんですよ?」

一同「「「それはない」」」

 せっかくのチャンスは無駄にしない。

 街の港から船を走らせ、六人は東洋の温泉大国に到着する。といっても所詮は真冬の季節。温泉宿に到着しない限り、外は厚着でなければ寒い冬風が吹き荒れている。

 ベン  「ぐぁあああッ、寒ぃッ!!」

 マリア 「ベンが寒がるなんて…、珍しい」

サミュエル「俺も少し堪えてるよ…ッ。確かに寒ぃな、こりゃ」

 普段から薄着の二人は、厚着をしていても寒さが肌に染みるらしい。東洋の港から少し離れ、温泉宿に向かうための専用馬車を用意してあるとの話だが……。

 アヤネ 「お客様ぁ! 本日はようこそお出で下さりましたぁ!」

 そう簡単には向かわせてくれないらしい。

 マリア 「もしかして、最初のゲームですか?」

 アヤネ 「はい♪ バラエティーパーティ温泉旅行、一泊二日の旅! ゲーム大会の司会進行を務めさせていただきますッ。アヤネと申しまーす」

ウィリアム「元気が宜しいですね」

 ベン  「んなモンどーでもいいっつーの! ゲームやんなら早く始めろッ」

サミュエル「あぁ、寒ッ」

 アヤネ 「かしこまりました! では早速、最初のゲーム!!」

 アヤネ 「海の馬鹿野郎! 水平線に向けて、蹴り放てぇえええ!」

 声高らかに題を述べられても内容は分からない。ポカーンとしている六人など気にもせず、司会のアヤネはゲームルールを始めてくれた。

 アヤネ 「皆様、あの砂浜に握り拳サイズの石が横並びになっているのが見えますか?」

ブライアン「むむ? あぁ、言われてみれば……」

 すぐそこにある砂浜の波打ち際に、人間の拳サイズほどの石が六つ、横一列に並んでいるのが見て分かる。

 アヤネ 「今から皆様には順番に、あの石ころを海に向かって蹴り飛ばしていただきます。ただし、あの六つの内の二つは、地中深くまで沈められた大岩の一部で、絶対に蹴り飛ばすことはできません」

ウォルター「ほぉ」

 マリア 「うわぁ……」

 アヤネ 「ゲームスタートまで触れることは厳禁ですが、近くで見て確認することは大丈夫です。お一人ずつ助走をつけて蹴っていただきますので、よーく考えてください!」

ブライアン「下手をすれば足首を負傷しかねない…ッ。ここは慎重に選ばねば…ッ」

 しかし、石ころは顔をギリギリまで近付けても判別できず、完全に勘に頼る他に選択肢はないように思えた。

サミュエル「……全然分からねぇな」

 ベン  「ってか、寒ぃなッ。もう選んじまっていいか?」

 どの石を蹴りたいかを選び、それが他者と被っていなければ問題はない。だが、誰が先に決めて蹴りに行くか、という問題も生じる。

サミュエル「ここは無難にジャンケンでいいか?」

 マリア 「そうしましょう」

 まずはジャンケンで蹴る順番を決める。あとは一番から順に選んだ石を海に向けて、助走をつけて思いっきり蹴り飛ばすのみ。

ウィリアム「では、私が一番目ですね」

 マリア 「ウィル、どの石にするんですか?」

ウィリアム「そうですねぇ………右から二番目、と致しましょう」

ウォルター「ほぉ、右側から攻めたか」

 助走をつけて、右から二番目の石に向けて駆けていく。ウィルが石ころに足をかけた、直後……。

 ヒューンッ!! と、石ころは軽々と海に向かって飛んでいった。

 アヤネ 「ウィリアム様、クリアです!」

ウィリアム「やりましたッ」

 マリア 「わぁ、おめでとうございます!」

 喜ぶ様子を見せるのは三人。しかし、他の四名の表情は真剣だった。

 ベン  「もうあの両隣りは危険だな…」

ブライアン「そう思うか?」

 ベン  「あぁ」

ブライアン「なるほど……では“あえて”そこを選ぶとしよう! 二番手は私だッ、さぁ行くぞ!」

 二番目のブライが選んだのは、先ほど成功したウィルの左隣り。

ブライアン「勝負ッ」

 結果は……。

 再び、ヒューンッ!! と石ころは綺麗な弧を描いた。

ブライアン「……ッ、ぃよしッ!!」

 アヤネ 「ブライアン、クリアです!」

ブライアン「待てッ、ブライアン“様”だろぅ!?」

 アヤネ 「ぁ、失礼いたしました」

 見事クリアを勝ち取ったブライ。その反面、残された挑戦者たちの顔色が沈んでいく。

 三番手は、マリアだ。

 マリア 「……ウィルとブライに肖ってみようかなぁ」

サミュエル「と言うと?」

 マリア 「一番右、行きますッ」

 右側は安全かも知れない。そんな期待を胸に、三番手のマリアが砂浜を駆ける。

 そして……。

 ヒュンッ! と、あまり飛翔しないまま石は水面に消えていった。

 だがこれは。

 アヤネ 「マリア様、クリアです!」

 マリア 「わぁーい! やったぁー!」

 蹴り飛んではいないが、そこは女性なので大目に見よう。何より石に化けた岩でない限り、このゲームはクリアとなる。

 残るは三つ。

 残された三人の表情がいよいよ険しくなってきた。

ウォルター「ふむ、次は私か」

 確率は三分の二。ここでウォルターがクリアになれば、自然と残る二人が罰ゲームになる。

サミュエル「ウォルター、なるべく早くな…」

 ベン  「寒さと緊張で…、腹が痛ぇ…」

 マリア 「(寒がってる二人が最後になっちゃったんだ……)」

 ウォルターが狙うのは左から三番目。

 つまり、現状の一番右に位置している石だ。

ウォルター「順当通り、私も右から攻めるとしよう……。では」

 駆ける、というよりは早歩き程度の速度で砂浜を進む。ウォルターが足を振るった、直後……。

 ガヅッ!!

ウォルター「ぅぬ!?」

 石、ではなく“岩”に足を取られ、ウォルターは頭から砂浜に倒れ込んだ。

 アヤネ 「ウォルター様、アウトです!」

 マリア 「ウォルターッ、大丈夫ですか!?」

 ウィルとブライを引き連れてウォルターの傍に駆けていくマリア。

 その傍らで、サムとベンは無言のガッツポーズを組み交わす。

ウォルター「腰が外れたかと思った…」

ブライアン「君では洒落にならんよ、その例えは…」

 ともかく、残る二つの内でハズレは一つ。

 サムかベン。

 どちらかがウォルターと共に最初の罰ゲームを受けることになる。

ウィリアム「まさか最後の二つになるまでハズレが残ってしまうとは…」

 アヤネ 「では最後のお二方は、同時に蹴っていただきましょう!」

 ベン  「ゲッ、マジかよ…」

サミュエル「ベン。どっちにする?」

 ベン  「うーん…………あ」

 ふと思い出す。今まで賭け事に関して運がなかったベン。しかし今日限りは不運な設定も取り払われている……はず。

 なのだが……ウィルの番が終わった後のこと。

 ベン  『もうあの両隣りは危険だな…』

ブライアン『そう思うか?』

 ベン  『あぁ』

ブライアン『なるほど……では“あえて”そこを選ぶとしよう! 二番手は私だッ、さぁ行くぞ!』

 ベンが危険視した石を蹴ったブライアンはクリアした。自分の勘がハズレを引いてしまうならば、この場の選択はサミュエルに譲ろう。

 ベン  「……ちなみにサムはどうすんだ?」

サミュエル「俺か? じゃあ…………右かな」

ベン「よし、じゃあ俺が右だ」

サミュエル「おい」

 そして、それを賊として奪いに行く。

 右か左。どちらかが石で、どちらかが岩。ベンの思惑通り、右をベンが蹴り、左をサムが蹴ることになった。

 アヤネ 「準備は宜しいですか?」

 ベン  「…………」

サミュエル「おぅ」

 アヤネ 「それでは、スタートです!」

 二人、同時に駆け出す。

 二人、同時に足を振り上げる。

 二人、同時に石を蹴りつける。

 そして……。

 ベン  「ぉうらぁぁぁあああああ!!!!」

サミュエル「ーーーぐぁッ!?」

 足を振り上げ切ったベンと、足を取られて転げまわるサムの姿が、そこにあった。

 アヤネ 「サミュエル様、アウト! ベン様、クリアです!」

 ベン  「ーーーっしゃぁぁぁあああああッ!!!!」

ウォルター「自分のキャラを見失っているな」

ブライアン「あれは本気で喜んでるね……」

 マリア 「サムぅッ!!」

サミュエル「……おい…、マジなのか、これ…」

 罰ゲームはサムとウォルターに決定。

 しかし、罰ゲームを受ける二人も含めて、アヤネは六人全員を旅館に向かう馬車へと先導した。

 アヤネ 「クリアした四名様は、馬車に乗っての移動になります。温かいコーヒーもご用意しています。どうぞお入りください」

ブライアン「おぉ! それはいいッ」

ウィリアム「温かい飲み物とは…助かりますね」

 そして最後に、馬車に乗れない二人は……。

 アヤネ 「ではお二方、こちらが旅館までの地図になります」

ウォルター「むぅ?」

サミュエル「まさか、自力で追いかけてこい、と?」

 アヤネ 「いえいえ。お二方も私たちとご一緒していただきます。ただし……」

 アヤネは馬車の先頭を示した。そこには、手綱を握っているはずの運転手がいない。

 アヤネ 「お二方は馬車の“外”になります。旅館までの馬車の操作をお願いいたしますね」

サミュエル「…………」

ウォルター「なるほど。これが罰ゲームか」

 サムとウォルターの馬車で温泉宿に到着したマリア一行。馬車を降りて六人全員が再び顔を合わせた時……。

ウィリアム「ウォルターさん、縮みました?」

ウォルター「私自身の感覚は鈍くとも、さすがに体が寒さを訴えているようだ」

ブライアン「ハムスターみたいだな」

 サムに至っては返事がない。ただの屍のようだ。

 マリア 「サムぅ! しっかりぃ!」

 ベン  「次は勝てるって♪ 気にしちゃあいけねぇよ♪」

サミュエル「…………」

 見るからに上機嫌なベンを睨む反応。どうやら生きていてくれたようだ。

 ヒモノ 「いらっしゃいませ。当旅館へようこそお越しくださいました」

 マリア 「あれ? さっきの方は……」

 ヒモノ 「館内でお食事の準備に入りましたので、ここでの進行は“ヒモノ”が務めさせていただきます」

ウィリアム「宜しくお願い致します」

 寒さを訴えるサムとウォルターの姿が痛々しいため、次なるゲームへと早急に進んでいく。新たな司会進行者ヒモノが、先のアヤネと同様、声高らかに言い放った。

 ヒモノ 「偽物はどれだ!? ハープのメロディ!」

 ここは旅館の正面玄関前。そこに、場違いなハープが六つ置かれていた。

 ヒモノ 「この中の二つのハープは、弦をガチガチに固めて音が鳴らないように細工されています。それを選んだら罰ゲームです」

 ベン  「なるほどな」

 マリア 「ハープかぁ…。やっぱり見た目はどれも同じですね」

 ハープにはAからFまでのアルファベット記号が付けられている。どのハープ選ぶのか、ここもジャンケンで決めると思いきや……。

ウォルター「私たちから決めても良いのかね?」

ブライアン「なぜだ?」

サミュエル「先に罰ゲーム食らってるからだ…。ちったぁ優遇してくれねぇのか……?」

ウィリアム「私は構いませんよ。みなさんは如何ですか?」

 マリア 「じゃあAのハープを鳴らしたい方はいますか? 一つずつ聞いていって、その都度ジャンケンしましょう」

ウォルター「なるほどな。では、私は“A”を希望しよう」

 ベン  「よしッ、じゃあ俺も“A”だ!」

 同じ手口で攻める気か、と全員が思っただろう。しかし、よく思い返せば分かることだが、先の砂浜の石を蹴る順番もジャンケンで決めており、ベンは最後まで残っている。

 つまり……。

 ベン  「ジャンケン、ホイッ」

ウォルター「よし私の勝ちだ」

 ベン  「…………」

 ジャンケンの時点で負けてしまう。

 ヒモノ 「では“B”はいらっしゃいますか?」

ウィリアム「そうですねぇ……ここでは私が二番手をいただきましょう」

 ベン  「…………」

 ここでベンが名乗り出ることはなかった。

 何故なら……。

 ヒモノ 「それでは“C”の方は……」

 静寂。

 ヒモノ 「…? 誰もいらっしゃいませんか?」

 ベン  「…誰も選ばねぇんだな? よしッ、じゃあここは俺だ!」

 ジャンケンで勝てないなら、ジャンケンをせずにハープを選ぶ。誰も選ばないハープが現れるのを待っていたわけだが……。

サミュエル「自ら進んで“C”には行きたくねぇなぁ」

 ベン  「あん?」

ブライアン「“死”を連想する言葉は不吉だよ、ベン。大丈夫かい?」

 ベン  「…………」

 マリア 「…や、やめたげてよぉ…」

 続いての“D”の選抜。ここを決め時と睨んだブライが名乗りを上げ、残るは二つ。

 結局ここに来るまでサムが名乗りを上げることはなかった。

 マリア 「サム?」

サミュエル「……残り物には福が宿るんだろ…? 俺はそこに賭ける…」

ウォルター「馬車に乗りながら話してやった、東洋の格言を覚えていたか」

 マリア 「それなら、私は“E”を取ります」

 これで全員のハープが決まった。

 まず初めはウォルター。ハープに手を添えて、ゆっくりと弦に指を滑らせると……。

 ポロロロロ~ン♪ と、淡々としていても美しき音色が旅館の玄関前に広がっていく。

 ヒモノ 「ウォルター様、クリアです!」

ウォルター「ふむ。連続の罰ゲームは防いだか」

 続くのはウィル。ウォルターと同じように、指をハープの弦に添えて……。

 ポロロロロ~ン♪ と、再びの美しき音色を響かせる。

 ヒモノ 「ウィリアム様、クリアです!」

ウィリアム「ありがとうございます」

 三番手はベン。誰もが避けた“C”のハープが奏でる音色は……。

 バィィィンッ! と、固まった弦が空気を振動ごと弾いているようだった。

 ベン  「ーーーわぁあああッ!!!!」

 ヒモノ 「はい、ベン様! 罰ゲーム決定!」

 目も当てられない。膝を崩して項垂れるベンを前には、さすがのマリアも含めて誰も声をかけられなかった。

ブライアン「危ない危ない。しかし、こうなったのなら次の番は大丈夫だろう」

 項垂れるベンを前にして、ブライが自分の選んだハープの手をかける。

 そこから流れる音色は当然、耳を澄まさずとも美しく響き渡る。

 ヒモノ 「ブライアン、クリアです!」

ブライアン「待てぇぇぇい!! ブライアン“様”だろうがッ! えぇ!!?」

 ヒモノ 「は! 失礼いたしましたッ」

 残るは二つ。

 思い返せば、今回の罰ゲームはマリアかサムのどちらかが受けることになっている。

 マリア 「サムが二度目の罰ゲームを受けるか……」

 ベン  「マリアが“俺と一緒”に罰ゲームを受けるか、だと……」

 沈黙。

 そしてベンを除いた男性陣の願いは、サムに二度目の罰を、の一択で結束された。

ブライアン「マリアをベンと二人きりにして堪るかぁ!!」

ウォルター「サミュエル・ダブル。分かっているだろうな?」

ウィリアム「空気を読んでくださいね?」

 ベン  「(マリアに罰を受けさせていいのか…? しかしッ、もしもそうなりゃあ二人きりだろ!? サムと一緒に罰を受けることに比べりゃ…ッ、でもッ、あああああッ!!!!)」

サミュエル「お前ら好き勝手に言ってるとこ悪りぃけど、ハープを先に奏でんのはマリアだぜ?」

 マリア 「それじゃあ、引きますね?」

 マリアの指先に全員の視線が集まる。全員の耳が、マリアの奏でるハープの音色に集中する。

 そして……。

 バィィィンッ! と、およそ音色とは呼べない雑音が男どもの鼓膜を震わせた。

 マリア 「あ」

 ヒモノ 「マリア様、罰ゲームです!」

ウォルター「むぅ…」

ブライアン「なんということだ…」

サミュエル「(残り物には福があった……が、こりゃ素直に喜べねぇぞ……)」

ウィリアム「おや、ベンさん。どうしました?」

 ベン  「…………」

 ベン、天空を仰いで歓喜の静止。罰ゲームの中にも救いはあったようだ。

 その後、皆を迎えに旅館の中から現れたアヤネの案内で、ゲーム勝者たちは客間に通された。用意されていたのは豪華な鍋料理。伊勢海老の活け造りが皿の上で動き回っているほど新鮮なものだった。

サミュエル「それじゃあ、カンパーイッ!!」

ウィリアム「乾杯です」

ブライアン「カンパーイ!」

ウォルター「乾杯」

 お酒も入ったおっさん四人は、一応仲良く鍋を囲んで舌鼓を打つ。

 一方、旅館の傍らにあるオープンテラスにて。

マリア「ううううッ」

ベン 「さみぃいいいッ!!」

 見た目は真っ白でお洒落なスープをひと皿ずつ飲んでいた。

 ちなみに料理名は、ビスソワーズ。簡単に言ってしまえば、ジャガイモの“冷製スープ”である。

マリア「……美味しいことは…、美味しいですね…」

ベン 「………まぁな…」

 一方、旅館では。

 アヤネ 「お待たせしました。アワビの姿焼きです!」

ブライアン「おぉ!!」

ウォルター「これは美味そうだ」

ウィリアム「熱いのでお気をつけて」

サミュエル「ビールおかわり!」

 オープンテラス。

ヒモノ「お待たせいたしました。冷やし中華です」

ベン 「アホかッ!! お前ぇ!!」

マリア「で、でも美味しいよ……きっと……」

 旅館。

 アヤネ 「締めに入ります。具材は如何なさいますか?」

サミュエル「おぅ、麺でいいよな?」

ブライアン「異議なしだ」

ウィリアム「白米と卵も美味しそうですよ?」

ウォルター「餅もあるのか……どうせなら腹持ちを考えるか」

 オープンテラス。

ヒモノ「デザートお持ちしました。カキ氷です」

ベン 「…………」

マリア「…………」

 食事が終わり、一同は旅館の中庭に集まっていた。心なしかマリアとベンの体が小刻みに震えているような気がする。

 ヒモノ 「お二人の体がこれ以上冷えないためにも、早くゲームを終わらせて館内に戻りましょう」

 ベン 「誰のせいだ、誰の」

 ヒモノ 「男らしく持ち上げろ! 木箱の中身は何だろなー!」

 相変わらず高らかなゲームタイトルコール。

 ベンを無視して用意されたのは、六つの木箱。しかし、この木箱は二つずつ見た目が異なっていた。

 表面に“1000kg”と書かれた木箱が二つ。

 表面に“ドクロ”が描かれた木箱が二つ。

 表面に“爆弾”が描かれた木箱が二つ。

 ヒモノ 「この中で二つだけ、持ち上がらないほど重い物が入っています。四つの軽い木箱を持ち上げた方がクリアです!」

ウィリアム「中身を当てるゲームではないのですね」

ブライアン「マークを見れば予想できるが、ようするに度胸試しということだろう」

 あくまでもマークはイメージ。本当に1000キロの物質が入っているわけでも、人間の頭蓋骨が入っているわけでもない。

 どれか二つが恐ろしく重いだけ。その木箱を選ぶか、という基準としてマークは記されているようなものである。

サミュエル「まぁ、素直に“ドクロ”を選ぼうとは思わねぇなぁ」

ウォルター「そうかね? 私は構わんが」

 マリア 「さすがに“1000kg”って用意できないですよね」

 ベン  「ただの例えだろ? そんだけのモンを持ち上げられますか、ていう挑戦状みてぇなモンだ」

ブライアン「うーむ。罰ゲームの木箱が二つとも同じマークとも限らないのだろう……」

ウィリアム「なるほど。爆弾とドクロから一つずつ重いものが出ても不思議ではありませんね」

 意外にも、ここでの木箱選びはスムーズに決まっていった

 1000kgと書かれた木箱の前には、マリアとベン。

 ドクロが描かれた木箱の前には、ブライとウォルター。

 爆弾が描かれた木箱の前には、サムとウィル。

 ヒモノ 「皆様、今の立ち位置で宜しいですか?」

 全員が頷き、自分の選択に悔いを見せない。

 ヒモノ 「それでは、一斉に木箱を持ち上げてください! どうぞ!」

 目の前にある木箱に手をかけ、せーの、の掛け声で持ち上げる。

 すると……。

 マリア 「よいしょ」

サミュエル「よっと!」

ウィリアム「…ッ、あれ?」

 ベン  「よっと」

ブライアン「んぎぎッ!! あぁ!?」

ウォルター「おぉ、軽い」

 ヒモノ 「ブライアン! ウィリアム様! 罰ゲーム、決定でーす!」

ブライアン「…………」

ウィリアム「…おや? いつものツッコミはよろしいのですか?」

ブライアン「……そんな気力もないよ…」

 今から皆で観光名所を巡る旅に出る。

 さて、ウィルとブライに待ち受ける罰ゲームとは……。

 東洋ならではの町並みに広がる“和”の色彩。真冬の外は寒かったが、国には国の楽しみ方がある。

 マリア 「みなさんッ、見てください! 着物ですよぉ!」

 和の町を歩くため、マリアたちは東洋の着物を借りてきた。紺色に静御前の柄の着物を着たマリアは、その土地の文化に触れて満足そうな笑みを浮かべる。

サミュエル「おぉ、さすがだな」

 ベン  「似合ってんじゃねぇか」

 マリア 「ふふ。でも二人の着物もスゴいね」

 サムは深緑色に梅の柄、ベンは灰色にからせみの柄の着物を選んでいた。

ウォルター「待たせたかな」

マリア「あ、ウォルター!」

 最後に着替えを終えたのはウォルターだった。その姿は、いつものウォルターの雰囲気をそのままに、しかし和のテイストを溢れんばかりに取り入れた姿。黒色に風車の柄という、何ともウォルターらしいチョイスだった。

 マリア 「ちょっと可愛いね」

ウォルター「おかしいか?」

 ベン  「……逆だ」

サミュエル「妙に似合ってんだよなぁ、これが」

 白い髪に黒い着物が映えるのだろう。兎にも角にも、ゲーム勝者の四名は着物に着替えて旅行を楽しんでいった。

 そんな旅のお供に並び立つのが、罰ゲームの二人である。

 マリア 「それじゃあ……」

サミュエル「また頼むぜ、二人共!」

 六人の旅の足は“人力車”で、言うならば手引き車そのもの。二人乗りの人力車を借りて、マリアとサムをウィルが、ベンとウォルターをブライが、それぞれ引きながら町を駆け回る。

ブライアン「不愉快だ!! 誇り高きスターリー家の人間がッ、このような雑務作業などッ!!」

 ベン  「ゲームに負けたからだろうが。さっさと走れ」

ウォルター「乗り心地が悪いな」

ブライアン「やかましいッ!! このッ、こうしてやるッ!!」

 ベン  「おい馬鹿やめろッ。揺らすんじゃねえ!」

 慌ただしい三人とは違い、意外にも軽やかな走りで先頭を進むウィル。

 マリア 「ウィル、大丈夫ですか?」

ウィリアム「この程度はお安い御用です。さぁ、次は何処に参りましょうか!」

サミュエル「……これ…、罰ゲームになってんのか…?」

 楽しかった時間は早くも過ぎ去り、すっかり夜の暗闇が広がる。旅館に帰ってきた六人の前に、ついに最後のゲームが始まる。

 アヤネ 「おかえりなさいませ。さぁ、お客様! いよいよ最後のゲームがやってまいりました!」

ウィリアム「次は負けませんよ」

 マリア 「ふふ、私もです」

 ベン  「あん? ブライアンの奴はどうした?」

サミュエル「ほら、あそこだ」

 全員がチラリと後方を伺う。激しい運動と縁のなかったブライの両脚は悲鳴を上げており、もはや筋肉痛は避けられない状態らしい。

ブライアン「もう…無理ぃ…」

ウォルター「情けないことだ」

 アヤネ 「ご安心を、ブライアン! 次のゲームに勝ちましたら、当旅館自慢の温泉が待っていますよ!」

ブライアン「何ぃ!!?」

 そういえば、これは温泉旅行だった、と全員がハッとした。

 アヤネ 「疲労回復や美容効果もあるんです! それになんとッ、当旅館の温泉は……」

 アヤネ 「ーーー混浴ですッ!」

サミュエル「ーーーッ!!」

ウィリアム「……ッ」

 ベン  「ーーーッ!!!!」

ブライアン「ほぉ~♪」

ウォルター「ふむ」

 マリア 「……わ…ぁ…」

 マリアの複雑な表情を残し、残る男性陣は今まで以上の闘争心を見せる。忘れてはいけないが、決してマリアと二人きりではない。邪魔者が最低でも二人いるわけだが、ここまで来たならマリアと一緒に温泉を楽しみたい。

 アヤネ 「それではゲームを発表します!」

 アヤネ 「塩か醤油か! 卵の中身は何だろなー!」

 アヤネのタイトルコールに乗じて、ヒモノが六つの卵を持ってきた。この卵は、二つの生卵と四つのゆで卵で割り振られている。各々が“ゆで卵”だと思うものを選び、順番に額で割っていく。ハズレの“生卵”を引いてしまった者が罰ゲームの対象になるのだ。

 アヤネ 「ルールは分かりましたね?」

サミュエル「よぉし……どれにするか。匂いとかじゃ判別できねぇよなぁ?」

ウィリアム「第一印象は大事ですよ。自分の直感を信じましょう」

 ベン  「真っ先に目に飛び込んできたヤツが正解だな……いや…、ここは二番目か三番目くらいを狙ってみるか?」

ブライアン「我がスターリー家の誇りにかけて、最後の勝負で敗北などあってはならんのだッ」

ウォルター「見た目は全て同じなのか…。さて、決めては何にするべきか…」

 マリア 「(みんな、急に饒舌になっちゃった…)」

 ここで負けるのは嫌だ。罰ゲームだけは避けたい。各々で同じような思いを胸に、全員の手に卵が行き渡った。

 アヤネ 「選び終えましたね?」

 ヒモノ 「その卵で悔いはありませんか?」

 二人の司会進行者も目を輝かせる。全員の意思は、もう決まっていた。

 アヤネ 「では、まず……マリア様! お願いします!」

 マリア 「あ、はい」

 まずは手始め。卵を構えて、自分のおでこで割れるようにコツンッとぶつける。

 ベチャンッ!

サミュエル「え?」

ウィリアム「え?」

 ベン  「あ?」

ブライアン「は?」

ウォルター「……」

 マリアの顔に、メガネに、頬に、口元に。間違いなく“生卵”の白身と黄身が流れていく。

 ドロドロに汚れてしまった顔で呆然としていたマリアが現実に帰ると、同じく呆然としていた五人の男たちに……笑顔を向けた。

 マリア 「負けちゃった♪」

 アヤネ 「マリア様! 罰ゲーム決定!」

一同「「「ーーーはぁぁぁあああああッ!!!??」」」

 マリアと一緒に温泉に入る夢は……完全に砕け散った。この旅行で一緒に入らなければ、意味がなかったというのに。

 ヒモノ 「さぁ、あと一人です!」

サミュエル「…?」

 ベン  「何がだ?」

 ヒモノ 「罰ゲームですよ。マリア様と、あと一人が受けていただきます」

 五人の男に、再び衝撃が走る。温泉の夢は潰えたが、まだ罰ゲームが残っていた。

 悪い意味ではなく良い意味で、だ。

 何をさせられるのかは知らないが、もしも罰ゲームを受ける立場になれば、今度こそ“マリアと二人きり”になれる。

 ベン  「飯ん時は時間を大事にする余裕もなかったッ。まだチャンスはあるッ!」

ウォルター「ここが大勝負か」

ウィリアム「負けませんッ」

サミュエル「さっさと始めるぞッ。次は俺だ!」

 勢いに任せてサムが卵を構え、それなりの力で額に当てに行った。

 ベチャンッ!!

 マリア 「あ」

 サムの顔に、先程までマリアが浴びていたものと“同じもの”が流れていく。

 つまり……。

サミュエル「ーーー醤油を持って来い! 生卵だぁあああ!!」

 ヒモノ 「サミュエル様、罰ゲーム決定!」

 罰ゲームを受けるというのに大喜びするサムと、勝者のみが許された温泉に入れるというのに敗北感に沈む四人の男たち。

 すると、不意にブライが自分の持っていた卵を思いっきり頭にぶつけた。

 ベン  「……何やってんだ?」

ブライアン「全部、生卵でした、ってオチを期待したんだよ……」

ウィリアム「結果はどうです…?」

ウォルター「ゆで卵だな」

 アヤネ 「あ、ブライアン! 塩いります?」

ブライアン「ーーーいらないよッ!! それからッ、何度も言わせるな!! ブライアン“様”だぁあああッ!!!!」

 その後、温泉に入っていった男たち四人の時間はどんなものだったのか。そんなものは知ったことではない。重要なのは、マリアとサムに与えられた最後の罰ゲームなのだが。

 マリア 「ひゃわぁぁぁあああああ!!!!」

サミュエル「マリアッ! 大丈夫かッ!!」

 マリア 「流されるぅ!! 波にッ、引き込まれるぅうううッ!!」

サミュエル「俺の手に掴まれッ、流されるな! あああああッ、寒いいいいいッ!!!!」

 真冬の海で寒中水泳の図。温泉に入りに来たのに、何故“大海原”という真水のプールに浸からなければならないのか。

 マリア 「明日は夕方には帰ってしまいますがッ、それまではゲームも無しに自由行動です!」

サミュエル「そうかッ! それなら明日は仕切り直しだ! 今日やったこと全部、罰ゲーム無しで満喫するぞ!」

 マリア 「温泉ッ! 温泉ッ、入りたぁいッ!!」

 真冬の海で叫ぶ乙女の声は、旅館の方まで届いただろうか。

 ゲームクリアか罰ゲームか。さて、どちらが幸せだったのか。

 こうして、罰ゲーム付き温泉旅行の一日目は幕を下ろした。

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