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female #004

female #004
KASUMIさん/30代/アクセサリー作家


「女性のほうが楽しい、って思います。精神的にも肉体的にも学ぶことが多くて、得することも多いなって。」


「高校生くらいまで、男性に生まれたかったなと思っていたんです」
 柔らかで、まっすぐ。ありのままを受け止めてくれるような安心感のあるKASUMIさんからその言葉を聞いたときは、少し意外だった。

「なんとなく、男性の方が気楽そうな気がしていたんです。中高生くらいの年頃の女子たちの面倒臭さなんかもあって、『男子いいなあ』って」
 ローティーンの、第二次性徴の始まる頃。そのあたりの年頃は、不安定になりがちだ。女性に関して言えば、まず初潮という大きなイベントがある。体つきが変わって下着の種類が変わる。自分の意志とは関係なく、身体や生活が大きく変わっていくなか、少しずつ“女性らしさ”を意識するようになる。否が応でも自分の性別を突きつけられるのだ。精神的にも変化せざるを得ない。

 そんなことが影響するのだろうか。同じ頃に女性社会の雛形のようなものができ始めるように思う。
「女性は、この頃からすごく人を見ていますよね。周りを見て、私の立ち位置はここだな、と常に確認している。他人の振る舞いや持ち物なんかにも敏感で、ちょっと人と違っていると排他的になったり……ダサくなりすぎず、しかし頑張りすぎず、いい意味でも悪い意味でも目立たないようにしないといけなかった。女性同士の目をものすごく気にしていましたね。いま思うとあれは、女性社会の洗礼だったなって思います。」

 その空気感は、ティーン・エイジャーだけのものではない。自分の立ち位置から突出しすぎないよう気をつけながら、ファッションや立ち居振る舞いを決めていくのは大人の女性でも同じだ。大多数の女性が、それぞれのコミュニティーや背負う役割に相応しいように ―例えば、OLとして、妻として、母として― 大きく外れないように、その役の演者として評価してもらえるように行動する。



「社会に出ると、男女関わらず、役割に合った振る舞いは当然求められるものだと思います。ただ、女性は早いうちからそういう目にさらされてきていますよね。他人から人間性を評価されることに慣れている。
 会社に勤めていたころ、周囲を見ていて男性より女性の方が強いな、と感じました。上司から思うように評価されないと、男性の方が深く落ち込んでしまう傾向にあって。女性は、子供の頃から人の細かい評価を気にし続けてきていますから、少しずつ慣れてきているんですよね。
 中学時代の洗礼は嫌なものではありましたが、そこで色々学んだように思います。今なら大概のことは自分の中に落とし込んで自分で処理できる。成長したなって(笑)」



 他愛のない評価であっても、狭い世界で下されるジャッジは恐ろしいものだ。ファッションであったり体型であったり、持ち物であったり振る舞いであったり、そういう細かい様々な事柄全てにOKラインとNGラインがある。それを敏感に感じ取りながら、「逸脱しないオリジナル」を探して、そのコミュニティーにおける自分のキャラクターを定めていく。
 うっかり何か違うことをすると突っ込まれ、要注意人物になる。でも無個性過ぎてもダメ。なんとも複雑で難しい。

「女性性って、他人の目や評価を気にして出来上がってきたもののように思います。他人の目が無かったら、私はこうはなっていなかった。よく“女性には恥じらいが必要”って言いますが、それも他人の目を意識した言葉ですよね。
 ある程度大人に近づくと、異性からの目も気になります。私も『モテたい』と思って試行錯誤してたことがありましたが、それもやっぱり“評価されたい”ってことなんですよね。」



 他人に、誰かに女性として認められたい。評価がほしい。それが恋人ができると『この人に認められたい』に変わって、関係を続けるため、見放されないために相手と価値観をすりあわせていく。
 不特定多数の誰かであれ、対パートナーであれ、他人の目を気にし続けている限り、そこには女性性が存在するということなのだろうか。確かに、他人の目を気にしすぎるような態度は、男性としては「女々しい態度」と言われてしまいそうだ。女性であればそれは「恥じらい」に変わるかもしれない。


「20歳を超えたくらいから、女性の方が得だなと思うようになったんです。未だに“一家の大黒柱は男性”のような価値観が根強く残っていて、若い頃はそれが不満だったりもしましたが、今はそれを逆手にとることもできるかなと。
 男性と比べて、女性は生きてく上で状況や自分自身がどんどん変わっていきますよね。出産・育児など、身体的な変化が多い。でもそれが節目になってステージの切り替えになっていく。男性はそういう明らかな変化が無いから、似たような状態がずっと続いていくみたいで逆に大変だなと思います。
 女性の出産・育児に関しては社会問題にされがちですが、そういうステージがあるからこそ学ぶことができる。女性の方が人生は楽しいって、そう思います」


 女性としてのデメリットとして数え上げてしまいそうなことを、ぜんぶ受け止めて消化した上で「だからこそ楽しい」というKASUMIさん。
 柔らかいものは、ときに鋼よりも強くなる。
 KASUMIさんのポジティブな姿勢と素直な笑顔に、女性のしなやかさを感じたのだった。




2017年12月/KASUMIさん/photo&text: アベアヤカ

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