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【あべ本#12】八幡和郎『「反安倍」という病』

右寄りでない筆者による安倍評価本、という新鮮さ

副題に《拝啓、アベノセイダーズの皆様》と盛大にネットスラングを持ってくるあたり、かなり挑戦的だなと思います。

「アベノセイダーズ」とは、世の中の神羅万象、気に入らないことが起きるのはすべて安倍のせいであるとする人々のこと。彼らの言い分がいかにおかしく、国際基準でいうところの「リベラル」からもずれてしまっているかを指摘するのがこの本の趣旨。

つまり本書の特徴は、「決して保守や右寄りではない(むしろ国際的リベラルを自称する)筆者が、アベノセイダーズ(反安倍)の言い分を批判することで結果的に安倍政権を評価して見せる」ところにあります。

ある意味で通好みですが、「あくまでも保守や右寄り、ましてや安倍応援団ではない」筆者による評価なので、フェアな裁定に見えるところが新鮮といえるでしょう。

「アベノセイダーズ」と「アベノオカゲーズ」

確かにアベノセイダーズの物言いは疑問が多く、一時期北朝鮮のミサイルがバンバン飛んでいたときには「安倍が支持率を上げるためにやらせている」的な言説まで飛び交っていました。具体的に誰が何を言っていたかをここで上げるつもりはありませんが、こうした驚きのツイートは匿名ツイッターアカウントの物言いだけとも言い切れないような雰囲気にまでなっていました。

しかし一方で、いわゆる安倍政権支持者にも、「?」という物言いがあります。実はそれが本書でも登場しており、まさに第3章の《トランプは安倍総理に助言されながら北朝鮮と交渉している》という話。第2章の末尾にこんな一文が出てきます。

幸か不幸か、トランプは国内において北朝鮮問題で信頼できる相談相手がいません。国務省の半島問題専門家などはコリアン系の人も多いことから信頼性は低いですし、ポストも空席だらけです。トランプにとって、この問題に対して最も信頼性の高い相談相手は安倍総理なのです(最後の一文の太字化は本文のまま)

こういう物言いは、実によく保守派の文脈で出てくるのですが、まことしやかに語られる一方で、一体全体、何が初出で、誰が誰に聞いた話なのか、よく分からないのです(ご存じの方がいたらご教示ください)。

情報がないので否定もできませんが、ともすれば、これも「アベノセイダーズ」の裏返しで「アベノオカゲーズ」へ至る一里塚ではないか、という気もしてきます。

第1章のタイトルも《世界が安倍首相を必要としている》なのですが、どこの世界に聞いたのかなと。確かに長期政権になり、各国の要人や人々にも認知されるようにはなったと思います。また、無軌道なトランプにものを言えるという「役割」も付されました。その象徴が、この表紙の写真ということなのでしょうが、こういう表現には若干引いてしまう自分がいます。

北朝鮮問題が悪化したら、その責任は誰に

振り返れば、北朝鮮に対してアメリカが強気でガンガン押していた頃(初の米朝首脳会談前)は特にこの「トランプの北朝鮮問題の相談役は安倍総理」という話をよく目にしたのですが、ここのところあまり目にしません。

どうもアメリカは「アメリカに届かないミサイルならどうぞご勝手に。核は表立っては開発を認められないけれど……」というくらいで、本書でも取り上げられそれこそ一時期はみんなが口移しのように言っていた「CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)」というフレーズも、今となってはどこか懐かしい響きになっています。

さすがに大阪でのG20の帰り道に北朝鮮へ電撃訪問をした際には日本政府関係者筋からも「全く把握していない」などの声が出ており、「安倍総理が相談に乗っていたのだ」などという情報は出ていません。

もちろん安倍ートランプ関係は良好で、各国の首脳の中では最も親しいのでしょう。しきりに電話しているという報道は耳にします。拉致問題解決にかかる期待も大きい。しかし「安倍総理がトランプの北朝鮮戦略の相談役」という話は、誰がどういう経緯で確かめ、広めたことなのか。トランプ大統領はアメリカ内部では北朝鮮問題で相談できる人がいないということなのか?

これは例の「小泉訪朝時の安倍神話」(言う人によって食い違っている)とともに、誰が最初に書き始めたことで、どういう風に広がっていったのか、さかのぼってみる必要があるかもしれません。

また、もし本当に「相談役」であれば、トランプ大統領が北朝鮮の扱いに成功した場合だけでなく失敗した場合にも安倍総理の「アドバイス」が影響した可能性も見なければならないでしょう。「アメリカに届かないミサイルなら認めていいですよ」と安倍総理がアドバイスしていたとしたら、これは大変なことです。

筆者は「国際基準でリベラル」を自任

本全体でいえば、「国際的な基準でリベラル」を自任する筆者によって書かれたものなのでバランスが取れているように見えるし、うんちくも多いので「反安倍でも親安倍でもない人」にも読みやすいのではないかと思います。自著の紹介がちょいちょい入ってくるのはご愛敬でしょうか。

もしかすると、私が数々のクセの強い「あべ本」を読んでいるからこそ、本書が比較的フラットに思えるのかもしれませんが……(笑)。

ただそういう筆者によるフラットに見える本にもナチュラルに記載される「よく語られるエピソード」が、誰の何を基にするものなのか分からないというのは問題。安倍総理にまつわる話には、この手の「あの時彼がこういって……」というエピソードが多い。これは評価する方もけなすほうもそうです。「あべ本」を読む際には、このポイントも見逃さないようにしたいところです。


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