かんだあやこ

ただただ欲望のままがむしゃらに。いくつになっても子どもの頃の夢が忘れられず、ひっそり小…

かんだあやこ

ただただ欲望のままがむしゃらに。いくつになっても子どもの頃の夢が忘れられず、ひっそり小説を書いています。読んでくれた方、ありがとうございます。

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最近の記事

もやし男2

前回までのお話 ゴンは、この肉体を活かせる新たな道を模索していた。マッスルコンテストの失敗から学んだことは、単に筋肉を鍛えるだけではなく、その力を活かす場を見つけることが重要だということだった。コンテストに全投球した結果、財産を失うのはリスクが高すぎる。夢だけじゃ腹は膨れない。身をもって実感した。  そうしてみつけたのが、トレーニングジムの講師だった。見事な肉体を持つゴンはすぐに採用をされ、同僚にも一目置かれ、ゴンのボロボロになった自尊心は取り戻された。  初給料が入っ

    • もやし男

      もうもうと白い煙がテーブルから立ち上り、肉が焼ける音と人々の笑い声が充満する店の片隅で、ゴンは山盛りのゆでもやしを前に手を合わせた。 「いただきます」  塩とごま油がかかったもやしは、しんなりと艶やかな表面をしているが、箸で持ち上げると、先っぽの豆からひげまでシャキっとしている。 「やっぱり、ここの太もやしが最高だよな」  にやりと笑い、ゴンはもやしを束でつかみ、口に放り込んだ。 「よくそんなにもやしばっかりおいしそうに食べられるわね。私はお肉の方がいいわあ。見てこの分厚い

      • 【短編小説】VRの死神

        足音を殺して、僕は光り輝く街を走っていた。 頭上には、虹色のレールウェイ、空を突き抜ける高層ビル。ジェットコースターのように列車が走り、その隣を、不死鳥が飛び去って行く。 衣擦れや呼吸音のエフェクトは、オフにした。なるべく目立たないように、息を殺す。 背中に背負ったM60 機関銃は、ベトナム戦争でも使用された物らしい。そんな時代に、僕は生きていなかったけど、銃を身に着けると、気が引き締まる。 安穏と生きていた日常が、死と隣り合わせであることをより一層思い出させてくれるからだ

        • 夫が生理ナプキンの世話になったはなし

          「あかん、出血が止まらん」 強張った顔で、夫は私に訴えた。長時間座っていることの多い彼は、痔主さまだ。某番組で、オリーブと表現していたが、まさしくそれくらいの大きさの爆弾を抱えて、長い間お付き合いをしている。 そのオリーブが、ついに爆発したらしい。ティッシュで押さえてみたものの、抑えきれずに血がズボンにまで染みてしまったと。 傷みだけでなく、血が止まらないという恐怖。困っている夫に、私は言っていいものか迷いつつ、提案した。 「生理ナプキン使う?」 夫は、一瞬「え?」と

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        • 日常系エッセイ
          9本
        • 読書レポ
          2本
        • 僕とちくわの不思議な数ヶ月
          9本

        記事

          【短編小説】帰郷

           アイスコーヒーを飲みながら、優弥(ゆうや)は、すっかりさまがわりした故郷の駅舎を眺めた。駅舎というより、駅ビルと呼んだ方がしっくりくるだろうか。  十四年ぶりに帰ってきた街は、都市開発が進み、ファミリーに人気のベッドタウンとなっていた。  ショッピングセンターが併設された駅には、平日だというのに主婦や学生やサラリーマンなど多くの人が行きかっていた。  今いる全国チェーンのコーヒーショップも、ショッピングセンターの一角にあるせいか、子連れのママたちで賑わっている。  この

          【短編小説】帰郷

          1984年生まれの同士へ

          こんにちは。1984年1月生まれのかんだです。今日は同じ年代の人に向けてnoteを書いています。現在37歳。人によってはまだまだ自分を若者だと思っていたり、いやもうすっかりおじさん・おばさんだよと苦笑したりしてるんじゃないかと思います。 私はというと、時と場合によって使い分け、「まだ37歳」て思ったり「もう37歳」って思ったり色々です。みなさんそうでしょうか。なんとも揺れ動くお年頃ですね。 私は10代の頃、1984年生まれに劣等感がありました。 小6の頃にSPEEDを見てヒ

          1984年生まれの同士へ

          若さで家を買った話

           30代の半ばを過ぎ、周りの友人たちが子どもを持ち、家を買う人が増えてきた。都会じゃ考えられないかもしれないが、家族を持ち、家を持つという人生の流れに乗る人は、地方都市ではまだまだ多い。  かくいう私も、子どもが生まれてから家を買った。団地育ちの自分からしたら、一軒家なんて夢の夢だと思ってた。ところがどっこい、なにを思ったのか、28才の時に、頭金ゼロ円の35年ローンで注文一戸建てを買った。  「頭金ゼロで買った」というと、「え」と驚かれる。しかも建売じゃなくて注文住宅だ。

          若さで家を買った話

          嫁と夫の家族の境界線

           数か月前、義父が亡くなった。突然の心臓発作だった。 我が家から夫の実家までは新幹線で3時間以上かかる。世の中はコロナ禍で、帰省は控えましょう、というアナウンスに従い私たちはここ1年リアルで会っていなかった。 「万が一があってはいけないから」  そう思っていたけれど、万が一が起きるのはなにもコロナだけじゃない。万が一は日常に潜んでいるのだ。  義姉から連絡をもらい、訳も分からず子どもたちを連れて一家で帰省した。ガラガラの新幹線は、なんだか異空間のようだった。  気持ちは沈ん

          嫁と夫の家族の境界線

          【短編小説】メンソールのお姉さん(後編)

           どうしてここに、友梨佳さんがいるの? 「おまえ、だれだ?いつの間に入ってきたんだよ!」  義父が、大声で叫び散らす。暗闇でよく見えないけれど、そこにいるのは友梨佳さんに違いないはずだった。 「友梨佳さん!」  助けてくれた。友梨佳さんが助けてくれた。  私は立ち上がり、手探りで友梨佳さんの近くに寄り、彼女の肩に触れた。すると、氷のようなひんやりと冷たい。……どうして? 「誰のせいで苦しんだと思ってるのよ。死ね! おまえも死ねっ」  友梨佳さん?  口汚く罵り、尻もちをつい

          【短編小説】メンソールのお姉さん(後編)

          【短編小説】メンソールのお姉さん(前編)

           十代の頃、ほんの少しだけ霊感がある時期があった。初めて行く場所で妙に寒気を感じたり、駅やデパートで明らかに季節感の違う服をきている子どもをみたり。今思えば、多感な時期ならではの思い込みや想像力だったのかもしれないけれど、ひとつだけ、忘れられない霊体験があった。  高校三年生の二学期の途中から、私は訳あって一人暮らしをしていた。今でいうシェアハウスみたいなところで、50代の学習塾を経営している大家が隣の母屋に住んでいた。  古いアパートを改造した建物は、見た目も設備もおしゃ

          【短編小説】メンソールのお姉さん(前編)

          【短編小説】私の仕事をあなたに馬鹿にされたくない

          「うわ、このご時世にリアルで打ち合わせ?リモートにしないの?」 はいはい、言われると思ったわよ。そのセリフ。 夫はまるで悪気なく言い、(いやたぶん言ったことすら忘れて)テレビを見ながら2本目の缶チューハイをあけた。 午後22時。 彼の前で空になった皿を、私はだまって回収して食洗器にいれる。 いつもなら「ありがとう」と言ってくれるが、今日は言わない。 なぜかわからないが、夫は20時過ぎまで残業をした日は、昔の亭主関白親父ぽくなる。 19時くらいならまだセーフ。帰ってきて3歳と

          【短編小説】私の仕事をあなたに馬鹿にされたくない

          手に職つけなさいと言い続けた母の気持ち

          私の母は、専業主婦だった。 時々パートはやっていたように思うけど、長く働いていたことはなく、40代の半ば以降は、外で働くことはなく主婦をやり続けていたと思う。 家に帰ると母がいた。おやつもあり、ご飯もあり、洗濯もされていた。部屋は床に物が散らばっていたけれど、2LDKの家はそれなりに片付いていたと思う。 ちゃんと主婦をしていたと思う。 でも、子どもの頃の私は「お父さんは外で仕事で大変だけど、お母さんは家で昼寝付きで気楽でいいな」と思っていた。 どことなく、「お父さんはえらい

          手に職つけなさいと言い続けた母の気持ち

          【読書レポ】罪の声

          初版は2016年の「罪の声」。 確か3年くらい前に、新聞の書評で絶賛されていたのを目にして以来、気になっていた本でした。 昭和の怪事件「グリコ事件」をモチーフにしており、事件の時使われていたテープの声の主が小さい頃の自分だと知ってしまった俊也と、年末の新聞企画でグリコ事件を取り上げるのでおもしろエピソードを書けと急にむちゃぶりされた新聞記者(文化部)の阿久津。 二人の主人公が、両方向から事件の真相を探る様子から、だんだんと迷宮入りしていた怪事件の真相があぶりだされるというお話

          【読書レポ】罪の声

          兼業フリーランスと税金の話

          今年の6月に会社員をしながらフリーランスの仕事も始めました。 フリーランスの仕事はぼちぼちとなんとか無理なく両立できているような状態の中、もうすぐ今年も終わるなあと考えたとき、ふと思い出したのが「年末調整」と「確定申告」。 フリーランス仲間に聞くと「確定申告めんどくて税理士さんに頼んだ」「全然らくだった」「あー…(考えたくない)」と反応はまちまち。 今回自分で調べてわかったことをメモ的に記しておこうと思います。 私の働き方 ・正社員の職場(給与所得) ・契約社員の職場(

          兼業フリーランスと税金の話

          女性のがんばりを前提にしないで欲しい

          前職の話だけれど、私はいわゆる「働く女性を応援」する企業にいた。どういのかっていうと、フレックス制度があり、時短勤務が許されて、子どもが熱を出した時なんかは、在宅勤務でもOK。 社員の半数以上は子持ちのママで、ママ向けのメディアや会員組織があり、女性のキャリアを育成するための研修なんかもやるっていう会社だった。 前々職で時短勤務になってから閑職に飛ばされ、見事なまでのマミートラックにはまってた私は、「やりがい」と「子育ての両立」を目指して転職した。よっしゃ、これからやってや

          女性のがんばりを前提にしないで欲しい

          19年越しの手紙

          2020年の夏。2001年の自分からの手紙が突然届いた。 お盆休みの初日に起きた、嘘みたいだけどほんとのはなし。 その手紙は、高校生の私が参加した夏のキャンプで、「未来への私へ」というワークショップで書いたものだった。 確か、3年後に事務局から送られてくるはずの手紙だった。それがどうして今頃。 どうやら、あて先不明で一時をは事務局に返ってきて保管されていたが、何がどうしてか今頃になって発見されて、細いツテをたどって届いたものだった。 手紙を書いたことはすっかり忘れていた。

          19年越しの手紙