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僕とちくわの不思議な数ヶ月

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ちくわを食べたくなるお話です。
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#小説

1、不思議なちくわ

ちくわを使ったメニューの中で、一番好きなものは、ちくわの磯辺揚げだ。単品でもいいが、うどんにいれると格別で、フードコートのうどん店に行くと僕は必ず選び取る。

ちくわはおでんに欠かせないし、母さんが言うにはお弁当の一品としても便利らしい。ご当地の噂を紹介する某テレビ番組では「ちくわパン」というものが紹介されていた。機会があればぜひ食べてみたいものだ。
そんなふうに多種多様に活躍しているちくわだが、

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1-2 不思議なちくわ

翌日、僕は十三時ちょっと前にカラオケ店の近くに行って待ち伏せをした。するとそこに現れたのは、直樹と、同じクラスの田中だった。

二人がカラオケ店に入ろうとしたとき、後ろからガラの悪い二人組が声をかけてきた。遠目から見ても震えあがっている様子がみてとれる。信じられないことに、それは、ちくわで見た映像と同じものだった。ただ僕が、田中に変わっただけのことだった。
アメイジング!
僕は逃げ出すようにその場

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3、ちくわ仲間現る

合宿は、学校からバスに乗って二時間ほどにある山奥のキャンプ場で行われる。
男女五名ずつの班に分かれて、カレーを作ってキャンプファイアーをして、テントを張って一晩を明かのだ。

非日常なイベントに僕は少々浮かれていた。優里奈から前日「他の女の子と仲良くしたら嫌だからね」と、かわいいことを言われたことも浮かれっぷりに拍車をかけていた。

大切なちくわは、多めに保冷剤を入れてカバンの一番奥に鎮座させた。

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4. ちくわの予言

こうして、同士の絆で結ばれた僕たちは、キャンプが終わってからも頻繁に情報交換するようになった。
ちくわの予測は、伊織と僕では毎回違っていた。
たとえば抜き打ちテストのあるなしについて、僕には教科に関係なく毎回知らされるのに対し、伊織は英語と古典の時しか出ないらしい。
「たぶん、僕は英語と古典が苦手だからかな」
 食堂の片隅で、A定食の味噌汁を飲みながら伊織は言った。
「つまり、僕は全般的に苦手だか

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4-2 ちくわの予言

その日の夜、僕は日曜日のデートに向けて、ちくわの助言を借りようと、いつものように穴を覗いた。

そこに映ったのは、地面にゆっくりと倒れこむ伊織だった。
ハっとして、僕はちくわから目を離す。

…なんだ、今のは。

恐る恐る、もう一度覗き込んでみる。しかし今度は、デートの日に財布を無くして慌てふためいている僕の様子が映っていた。
しばらくして、もう一度覗き込んでみても、やはり慌てふためいている僕の様

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4-3 ちくわの予言

一瞬、何を聞かれたのか分からず、僕はぽかんとした。彼女とは優里奈のことだろうか。
「うん、元気だよ」
「そう、元気ならいいんだ。じゃあ」
「うん?」
「…いや、やっぱり!」
伊織は僕の腕を引っ張ると、廊下を歩き出した。
「え、なに、遅刻しちゃうじゃ…っ」
使われていない空き教室に引っ張り込むと、伊織はカバンから自分のちくわを取り出し、僕に押し付けた。
「覗いてみて!見えるか分からないけど」
訳が分

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4-4 ちくわの予言

自転車を漕いで、漕いで、僕は優里奈の家に向かった。インターホンを押すと、優里奈のお母さんが出た。
「優里奈さん、いらっしゃいますか?」
「学校に行きましたけど?」
不審げに答えるお母さんのこの様子だと、最悪の知らせは届いていないようだ。ということは…まだ間に合う!
 インターホン越しにお礼を述べ、今度は駅に向かって自転車を飛ばした。ほんの数分の距離がもどかしい。
頼む、追い付いてくれ。

駅前に到

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